探偵の息子2
「ふぁぁ、眠っ……」
あくび混じりにそう言いながら、俺は菜香乃と一緒に教室へと足を運んでいた。菜香乃のお母さんに怒られた後、このまま言い争っていても時間の無駄と考え、結局菜香乃を学校まで連れていくことにした。菜香乃を学校まで送り届けたあとに、教室で二度寝しようかと思っていたのだが、まだ校舎は鍵がかかっており、中に入ることはできなかった。仕方がないので、教室が開くまで暇だったこともあり菜香乃の部活の朝練を見学をすることにした。眠気もあることに加え、特に練習内容に興味がないため、見学中はとてもしんどい時間であった。しかも、時折部員がちらちらこちらを見ながら、菜香乃に耳打ちする(ように見えた)ことが何度かあり、大変居心地も悪かった。そのため、菜香乃の方向音痴についてはとても恨めしく思ったのであった。
「ほらほら! そんなちんたら歩いてないで、シャキッとしなって!」
廊下に響き渡るほど元気にそう言ったのは隣を歩く菜香乃だ。こいつは俺よりも早く起きて、ハードな朝練を終えた後にも関わらず、元気が有り余って仕方がないといった様子だ。足取りもよぼよぼ歩く老人のような俺とは違い、軽やかなものである。元はといえば、お前が学校までの道のりを覚えてないのが原因なんだぞ? いつもならすぐさまそう反論するのだが、言い返す気力よりも眠気が勝り俺はただ、「ああ」とやる気なく返事をするのみだった。その後も、俺に構わず教室に到着するまで菜香乃は隣で一人で話をし続けた。そんな菜香乃を見て、人類が突然滅んで菜香乃一人になってもこいつは構わず喋り続けていそうだな、とそんな益体もない妄想を抱く俺であった。
教室に着くと、もうすでに半数くらいのクラスメイトがいた。そのうちのほとんどは、いくつかのグループに分かれガヤガヤと何かを話しているのであった。
「あっ、菜香乃。おはよう!」
「おはよう!」
教室に入口近くにグループで話していた女子の一人が菜香乃に気づいてあいさつをした。菜香乃もあいさつを返すと、そちらのグループに入ってすぐさまお喋りに混ざった。方向音痴な菜香乃ではあるが、人付き合いはとても良いのだ。中学までの知り合いがクラスにほとんどいないにも拘らず、入学初日にすでに数人と友達になっていたのはたいしたものだと思ったものだ。自分は口下手なこともあり、すぐさま誰とでも仲良くなれるのは羨ましくも感じる。そんな菜香乃を尻目に、俺は静かに自分の席に着くのであった。
「おい、滝川!」
担任が来るまで、ひと眠りしようかと思っていた俺に声をかけてきたのは前の席の田中であった。田中は机の上に鞄を無造作に置くと、椅子に座り俺の方を見る。どうやら、俺より少し遅れて着いたようだ。
「なんだ、田中? どうかしたのか?」
友達と言えるほど仲がよいという訳ではないが、席が近いため田中とは時折話をするのである。席が近いのは、名前の五十音順で決められているからでまったくの偶然である。
「お前、今朝東と一緒に登校してただろ?」
田中が何がおかしいのかニヤニヤと楽しそうに訊いてくる。田
中は確かサッカー部に入っていると聞いていた。恐らく田中は朝練に向かう途中で、一緒に登校する俺たちを見ていたのだろう。
「別に大した理由じゃないよ」
「男女が一緒に登校するなんて大したことだろ?」
どういう理屈だよ? と思う俺に対して、 「お前たち付き合ってるのか?」とすぐに質問を重ねてくる。
「ただの幼馴染だよ」
「ただの幼馴染にしては仲良すぎじゃないか? いつも一緒にいるし」
「それは家も隣だからな、仕方ない。ま、腐れ縁ってやつだろ」
「運命ってやつの間違いじゃないか? 東も憎からず思ってるんじゃないの?」
「ハッ、なわけねーだろ?」
田中とそんな馬鹿なやり取りをしているうちに、担任が教室に入ってきた。それを見てあちこちに散らばっていたクラスメイトが各々の席に小走りで向かう。田中もそれ以上の追及はやめ、前を向いて座り直した。教卓の前に着くと、担任は出席を取り始めた。俺の番がきて返事をしたのち、担任とクラスメイトの声をBGMにしながら、俺は机に突っ伏して速攻で眠りにつくのであった。
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