第1話
休日はゆっくりと寝ていたいがあまりにも起きるのが遅いと、逆に休日を
そんな考えを持つ中学二年生、
布団からの甘い
「ん?」
カーテンを開けた刀祢の目に飛び込んできたのは、非日常の景色だった。
刀祢の部屋は道路に面しており、カーテンを開ければ向かいに住む平井さんの家が見えるはずだ。
それがいつも通りの光景だ。
だが、今朝はその向かいの家がブルーシートで囲われていた。
何があったのだろうか? いや、何もないのにブルーシートで囲われるはずがないのだが。
疑問を感じつつ、階段を下りて居間へと向かう。両親なら何か知っているかもしれない。
「母ちゃん、おはよう」
「ああ、刀祢。おはよう。ご飯、今用意するからね」
ありがとう、とお礼を言いつつ、洗面所に向かって顔を洗う。それが終わり居間に戻ると、朝食がテーブルの上に並べられていた。
「いただきます」
手を合わせて、必ずいただきますを言う。これが、刀祢の家のルールだった。
「なぁ、母ちゃん。平井さんち、なんかあったのか? ブルーシートで覆われてたんだけど」
「ああ、なんでも老朽化が原因で
「え、マジ?」
「倒壊したって言っても、
平井さんには申し訳ないが、これはビックニュースだ。今日、一緒にオンラインでゲームをする予定の友達にも話してみよう。
いや、話す前に現場確認だ。囲われているとは言え、隙間からチラッとは見える可能性はいくらかあるだろう。
考えをまとめた刀祢は、急いで朝食を食べ進めはじめた。
「おーい? 聞こえてる?」
スマートフォンから流れる友人の
「すまんすまん。で? どこまで話したっけ?」
「……本当に大丈夫? どこまでも何も、向かいの家が倒壊してたってことしか聞いてないよ。何かあったの?」
刀祢は、ああ、と短く返事をする中で自分の中で疑問点をまとめる。
朝食後、短い髪の寝ぐせを直すぐらいの簡単な身だしなみを整えて向かいの家を見に行った時。その時に感じた違和感を。
「向かいの家、倒壊した家の
「うん。それで?」
「たくさんの人が忙しそうに働いていたんだけどさ。ほとんどの人が作業着姿だったんだけど、その中に神社の
「……確かに、それは変だね」
頭を回転させている四郎を置いて、刀祢は続ける。
「しかもだよ、四郎。昨日、俺が部屋のカーテンを閉める夕方までには、向かいの家は半壊なんてしてなかった。つまり、半壊したのは昨日の夜から今日の朝になるんだ。これも変なんだよ」
聞く限りでは、違和感を感じる要素はない。
だが、刀祢は違和感を取り除けない。
なぜなら。
「昨日の夜から今日の朝起きるまで、大きな音なんて一切聞こえなかったんだよ。おかしいだろ? 目の前の家が半壊したっていうのにだぜ?」
家が倒壊するときにどのくらいの音が出るのかは、分からない。だが、いくらなんでも倒壊した現場の目の前の家にいて、音が聞こえないなんてことはないだろう。重機でないと取り除けないであろうがれきだってあったはずなのに、その落下音も聞こえない。
「……刀祢の眠りがかなり深かったってことはないよね?」
「いや、流石にないだろ。目の前の家が倒壊して、音に気付かないなんて」
それはごもっともだ。加えていえば、刀祢はわりと小さな音でも起きてしまう方なのを四郎は知っている。家屋が倒壊して気付かないわけがない。
「刀祢は、昨日何時に寝たの? そこから倒壊した時間を割り出せるんじゃないかな」
「お、なんか本格的に推理漫画みたいになってきたな」
スマートフォン越しに刀祢の楽しそうな声を聞く四郎。そんな四郎も突然やって来た非日常に、少しばかりワクワクしていた。
「っていうか、昨日は満月の夜だったから、夜の九時半ぐらいには寝たぜ?」
「あ、そう言えばそうか」
「まったく、 何のしきたりかは知らないけど、めんどくさいルールだよな」
満月の夜には、子供は二十時までに。大人は二十三時までに寝ること。
それが、この町に古くから守られてきたしきたりだ。
刀祢や四郎もものごころついた時から、このしきたりを守ってきた。
ただ、何故そうしなければならないのかは、分からない。
刀祢と四郎だけではない。おそらく、この町のほとんどの子供が何でこんなことをしなければならないのか、疑問に思うだろう。でも、両親を含めた多くの大人たちはそういうしきたりだから、としか答えてくれなかった。もしかしたら、大人たちも詳しく知らないのかもしれない。
「なら、おばさんには聞いてみたの? 刀祢が寝てから大きな音はしたのかって」
「聞いたけど、母ちゃんが寝るまではそんな音しなかったってさ。倒壊したのも、朝起きて気付いたみたいだし」
「おばさんも寝てた時に、大きな音を聞いてないのか……」
「な、変だろ? どうする?
美咲さんと言うのは、四郎の姉である
少しだけ、四郎は考えた後。
「それなら、今日の夜話してみるよ。今仕事でいないから」
「サンキュー。何かわかったら、教えてくれよな」
「それはもちろん。さて、そろそろゲーム始める?」
「そうだな!」
二人は、少しのワクワクしながら、ゲームを始める。
この小さな違和感の正体を探り始めてしまったこと。
これが、まさに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます