『2』

教室へ入ると、雰囲気がいつもと違うような気がした。

ざわざわそわそわとどこか浮ついた雰囲気。

その違和感の原因は、周りから聞こえてくる会話ですぐに判明する。

そうか、今日は2月14日。バレンタインデーだ。



クラスメイトに挨拶しながら席につくと、すぐ後ろから声をかけられる。


「よ!かなで


振り返ると、先に来ていたらしいそいつが後ろの席で手を挙げていた。

人好きのしそうな爽やかな笑顔で話しかけてきたのは友人の颯人はやと

小学校からの付き合いで、気の置けない親友だ。


「おはよう、颯人。今日は早いね。いつもは遅刻ギリギリなのに」

「今日はバレンタインだからな!そう言うお前はいつも通りだなぁ」

「颯人と違って、普段とそう変わらないからね」


颯人は雰囲気の良さや話しやすさが人気でよくモテる。

普段から気軽に話せるのもあってか、毎年バレンタインは本命義理問わずいくつもチョコをもらっている。

ラブコメの主人公みたいなやつだと勝手に思っていた。


「お前も気づかないだけで人気はあると思うけどな。良いやつだし。落ち着いてるところとか優しいところが好き!みたいな人もいると思うぞ」


そう言って颯人は教室を見まわす。

つられて周りを見ると、ヒメと目が合った。

名前の姫花ひめかからとってみんなにヒメと呼ばれている、いわゆるクラスのマドンナ。可愛らしい容姿に加えて憎めない天然というのもあって、性別問わず好かれている。

意図せず見つめてしまったようになってしまい慌てて目をそらす。


「お、もしかしてチョコくれたり?」


同じく目が合ったと思ったらしい颯人がヒメにそう言うと、周りの男子の雰囲気が一気に固くなった気がした。


「ごめんなさい。私はチョコは持ってきてなくて」


ヒメがそう言うと颯人は大げさに崩れ落ちる。

そんな颯人を見て、周りの男子たちが笑って声をかける。


「どんまい!颯人!」

「新しい出会いに期待しろよ!」

「なんで俺が振られたみたいになってんだよ!チョコもらおうとしただけじゃねぇか!」


颯人がガバッと起き上がって叫び返す。

こうして周りを巻き込んで笑顔にさせていくところは、やっぱりすごいなと感じる。

こういうところが人気の理由なんだろうな、と友人ながら誇らしく感じていた。


横目でヒメの方を見ると、ヒメはすでにいつも仲の良い友人と話していた。

バレンタインデーは全く意識していなかったけれど、2人のような人気者にとってはきっと、普段とは違う1日なんだろうなと、柄にもなく考えた。


そうして話しているうちに予鈴が鳴る。

盛り上がっていても予鈴が鳴るとみんなきちんと席へと戻り始めるのはさすが進学校。

きっと休み時間になったらまた盛り上がるのだろう。


「まぁでも、好きな人にチョコをもらえるのが1番嬉しいよな」

「やっぱりそれが1番だよね」


そう相槌を打って、前を向く。

颯人にも好きな人がいるんだろうか、なんて考えながら、授業に勤しむのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る