第8話 迫影
樹林帯での爆発と同時、携帯端末にて市の所在をロストする忍、
工作の任務を逸脱し、交戦を選んだ忍の末路であると冷笑しつつ、その内は自身に向けられたもの。
——忍が表に立つんじゃねーよ。死んだら、もう何も…………。
草木が揺れる。
木々の合間から逃走兵を眺める。
小隊一つを全滅にまで追い込み、覇王軍の足元をすくった手練れとして市を記憶するのが精一杯であった。
狂騒が道を拓く。
流れる景色が平伏する。
先鋒の鞍馬大隊は螺旋塔への行軍を加速している。
この阻む余地の無い行軍を前に、忍衆は各々が撤退を余儀なくされる。
半円の陽光が金属飛翔体を照らす。
そのメタリックなボディは、眩く光を乱反射させながら上空に浮かんでいる。
機械人間の遺宝兵器——機工丸。
瞳以上の機能を有するレンズで逃走兵、忍衆を上空から捕捉すると、まるで鷹が獲物を狩るように滑空した。
忍衆が小隊を追い込んでいた樹林帯は一転、機工丸にとっての
猟場の囲いは行軍する先鋒の鞍馬大隊以下、後方の本隊まで続く連隊の長い隊列がその役割を果たしている。
木々を破壊、なぎ倒しながら、機工丸は次々と逃走兵、忍衆を捕縛する。
機工丸の両腕にはいくつもの遺宝兵装が装備可能となっているが、今任務にあたって武器となるような装備は無く、
それは虫取り網を持つかの如く。
ワイヤーで輪っかを作り、それをクルクルと回しながら、かつての記憶を探ろうとする機工丸。
——こんな幼年期は想像の中にしかないか。
捕まえる寸前のあがきは、地を這う虫と同じような気がした。
逃走兵、忍衆の装備程度では、機工丸の装甲に傷一つつけることも出来ない。
抵抗など意に介さず、粛々と単純作業を繰り返すように捕縛を続ける機工丸。
捕縛された者は五人が一束に括られ、その束は五つを数えるまでになっていた。
明滅する携帯端末が樹林帯に転がっている。
そのディスプレー上、颯の所在は機工丸が捕らえた逃走兵、忍衆一群に組み込まれるのであった。
一方、樹林帯の爆心地に佇む市。
携帯端末は爆発時に意図的に消失。
端末の記録は忍衆に共有されているので、己の存在は爆死で処理されるであろう。
創世の忍衆から離脱、単独で覇王軍潜入を開始する機会を伺っていた市。
——この好機、活かせそうもないな……。
直感は自身への警告であり、己に起こる異常がそれを裏付ける。
広範囲に木々が燻ぶっている。
エリア全体が酸欠状態となり、それが研ぎ澄まされた市の感覚を鈍らせていく。
手ぬぐいを畳み口を覆うが、息苦しさと共に視野が徐々に狭くなる。
ひどい頭痛にうつむくと、次第に意識が遠のいていくのを感じる。
爆発の衝撃で聴覚が戻らず、やがて止まない耳鳴りが危険を知らせる警告音のように市の中に響くだけとなる。
身を隠す夜も明け、遮るものの無い爆心地。
この炭と化した漆黒地帯、迫る影が映ろうはずもない。
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