第7話 夜明け前
里の中心地、寄り合い所は野戦病院と化している。
奇病を発症した者が、忍衆によって次々と運び込まれているからだ。
発症を免れた里人も集められ、いつ起こるか分からぬ自身の発症に怯える者も多数見受けられる。
守衛、夜襲兵の凄惨な現場、発症連鎖によりエリアストレスは急激に上昇。
この心理的ストレスが奇病の発症、連鎖要因となっているのは明らかである。
——処置を施しながら、発症連鎖を断ち切るには……。
一人では到底手が回らない状況に数秒の思案。
創世は発症確率を下げる策を弄する。
それは心理的ストレスに、心理的ケアを以て対抗する手法。
この急場の最善手”
万の白備えとは、万創世が選抜した精鋭の医療部隊を指し、その名は万の紋入り白衣を隊員皆が纏うことに由来する。
現状、里において創世以外で高度な医療を施すことが出来る者は皆無である。
しかし、万の紋入り白衣はその纏う者を見るだけで絶対的な安心、説得力を有する。
天災、飢饉、疫病。
全国各地の困難に向き合い、分け隔てなく人々を救ってきた万の白備え。
医療素人の忍衆にも万の紋入り白衣を纏わせることで、里人の心理的ストレスをケアする医療部隊に偽装することが可能であると創世は判断した。
効果は
医療素人とはいえ、忍衆が医療部隊を偽装することなど造作もない。
万の白備えが里中を駆けることでエリアストレスは緩和、発症連鎖の速度は鈍化する。
発症者の探索、搬送に協力する里人も現れ始めた。
寄り合い所において創世の処置を目の当たりにすること自体、里人を大いに鼓舞する。
神の迎えと仰ぐしかなかった不可避の死が、眼前で回避されていく光景。
それは、螺旋塔の守人として決して口には出せなかった願いの成就。
流星の民にようやく訪れた希望の光。
やがて、西の空が明るく染まり始めた。
野営の覇王軍本隊、参謀本部の撤収が進む。
先鋒に小隊、やや遅れ大隊が連なり、その後方に参謀本部含めた本隊での行軍であったが、先鋒小隊の混乱により編制変更を余儀なくされていた。
無論、全ては計算の内。
相貌の黒さのみが色を持つ少年が、背後の影に告げる。
「
居合わせる者全てに緊張が走る。
少年が呼ぶ名は覇王軍四天王の一人、遺宝兵器と呼ばれる存在。
一機当千の機械人間——機工丸。
「忍も殺さずに全員捕縛で? 機械は加減が難しいんですがね」
「実験体に困りたくないからね。頼んだよ」
続けざま、少年は携帯端末に向け命令する。
「新たな先鋒に
覇王軍の士気が高まる。
物見遊山な行軍は、先鋒に浮かれた小隊長によって乱れた軍紀そのものであった。
爆音が轟く。
数百もの遺宝兵装——
この自動二輪車を巧みに操り、行軍の先手先手を打って導く者こそ、覇王軍先鋒の筆頭である鞍馬大隊。
鞍馬の指示で、数台の自動二輪車が螺旋塔への行軍ルートを確保するために先行する。
歩兵含む先鋒大隊は、その歩調を自動二輪車のマフラーから発せられる音の狂騒に合わせ、一挙に加速させた。
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