第16話! 黒導会
「さて、今日私がこの金剛流の道場に来た理由についておはなしせねばなりませんね」
陣屋尚吾は道着を正して、金剛流の面々と再び相対して座した。
「あれ? アタシと再試合をしに来たんじゃないの?」
「ははっ……それは事のついでに、と思ってはいたのですが……すっかりメインを獲られてしまいました」
「ううっ……なんかごめんなさい」
「いえ。アナタの実力がわかってホッとしました」
「それは……この前だとダメだったってことだよね?」
「これ、ハガネ。その辺にしておきなさい」
祖父が咎めて、ハガネは口を閉ざす。
金剛流の面々は正成、ハガネ、チヨ、そして道場の師範クラス三名が居並んだ。
「私はある組織から勧誘を受けております……」
それに相対する陣屋尚吾。これだけのメンツを前に平然としているのも、彼が武人として実力がある証左であろう。
その彼が「ある組織」について口にするのを躊躇っている。
「その組織の勧誘はかつて私の父にもありましたが……」
「勧誘を断ったことで、尚介も殺されたのか……」
「確たる証拠はありません……しかし……交通事故の……しかもあまりに不自然で……」
「交通事故……」
その四文字をハガネは口の中で呟いたのを、チヨは聞き逃さなかった。
「でも……それならなぜこの前、ハガネちゃんを襲ったのです?」
「それは……失礼だとは思いましたが……」
「なんとなく……わかるよ……」
「ハガネちゃん?」
「わかるか……ハガネ……かまわん。説明してみよ」
「うん……陣屋さんはアタシたちが、どういうのか見定めたかったんだよ……金剛流を倒せば武闘の世界で有名になる……そうなるとその組織とかもうっかり手を出せなくなるから、そっちも考えたと思うんだよね」
「おおっ! ハガネお嬢さんが!」
「ちゃんと考えてらっしゃる!」
「まあ、大方は当たっておるじゃろう。ワシらとて既にその組織に懐柔されている可能性もあるわけじゃからな」
「はい……ハガネさんの拳に邪悪なものは見当たらなかった……ですが、逆に圧倒する強さも見られなかった……」
尚吾は少しハガネを見る。
「これでは……組織に対抗出来ずすぐに潰されてしまう……と……不安になりました」
「うっ……ごめんなさい」
「あの時のハガネちゃんは大会のことで頭がいっぱいだったからね」
「こりゃ、チヨ。そうやって甘やかすでない」
「す、すみません」
正成に咎められたチヨは肩をすくめた。
「ですが……今日、仕合ってみてわかりましたよ。金剛流の強さが……」
「お主の父、尚介とはよき好敵手であった。共に戦ったこともあったが、相対した時もあった……じゃが闇に手を染める人物ではなかった」
「はい……それともう一つ……逆にもしもあなた方が中庸の志を忘れ政府に加担していたのなら、私自ら制裁を下そうとも考えました」
「ワシらは政府に監視はされて居る身じゃからのう……時折、利害に一致を見て手伝うことはあるが、それを加担と見る者も少なくない……いい物の見方を修めておるようじゃ」
「恐れ入ります……それで……その組織の名前なのですが……」
一度深呼吸して尚吾は口を開く。
「彼らは自分たちを『黒導会』と名乗りました」
「黒導会……」
ごくり……。
誰かの喉が音をたてた。
「それらの長たる7人を『七黒の盟主』と呼んでいるようですが……それ以外のことは私にも……お耳には入っていませんか?」
「ああ、そこまでは入って来てはおらぬ。チヨも聞いておらぬのだろう?」
「はい……高野の家でもそのような話は聞いてはいません……ボクが聞かされてないだけかもしれませんが……」
「いや、高野が知っておればワシの耳にも入ってこよう……そもそもワシらは政府に近い身の上じゃからな……なかなか向こうも近寄っては来ぬはずじゃ……」
そう言いながら表情が見る見る翳っていく正成だったが、顔を上げて尚吾に礼を言う。
「うむ……肝に銘じておこう。貴重な情報感謝する。お主らもわかったな」
「はっ!」
幹部門下生が声を揃えて返事する。
「それで? お主はどうする? 陣屋の小倅よ」
「私は独自で情報を集めます」
「彼奴らと接触するつもりか?」
「いえ、こちらからは考えてはおりません……ですが、いずれその機会があれば……とは考えております」
「くれぐれも気を付けられよ」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げて尚吾は帰って行った。
「それにしても……黒導会か……」
「どうかしたのハガネちゃん?」
「なんていうかね……こう……堂々としてていいとは思うんだけど、その人たちって自分たちは正しい事をしようと思ってるんだよね?」
「う~ん……たぶんそうだとは思うけど……」
「なのにさ、なーんで『自分たちは悪役だぞー』って感じの名前を付けるのかなーって……」
「ふふっ……なんだか『プリ☆スタ』みたいだね」
「あーっ! それ! それアタシも思った!」
「お約束だよね」
「そうだね」
と他愛ない会話をしたのだが、ハガネの声音に少しだけ哀しみが混じっているのをチヨだけが気付いていた。
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