第3話! いつも通りギリギリセーフ
今日も今日とてギリギリ遅刻回避のハガネとチヨ。
教室でも席が隣り同士の二人は仲良く並んで椅子を引いて座る。
「今日もかなりきわどいわね。もう少し早く出られないの、家?」
とそこに声を掛けてきたのはハガネたちのクラスメイトで名前を蓬莱クスミという。
首のところでキレイに切りそろえたショートカットはいかにもマジメそうな雰囲気である。
このクラス内でハガネと無二の親友だといってもいいほどに仲がいい。
言い切れないのは、おそらく無二の親友枠は今の所ハガネの中では「チヨ」ということになっているからである。
「いやあ、朝錬するとついついジジイに熱が入ってさ、アタシもいい加減早く切り上げたいんだけど……」
「その『朝の鍛錬』をまるで部活の『朝練』みたいに言うのやめてくれない? 多分全然まったく一緒じゃないと思うから……」
「10キロランニングしてから腕立て、腹筋、背筋、屈伸を100回ずつを5セットしてから型をひととおりやってから手合わせする『だけ』だぞ」
「まずセリフの冒頭から『だけ』という副助詞に相応しくないんだけど……」
「でもまぁそれでも師匠はちゃあんと時間を計ってくれているんだよ。その証拠に8時過ぎに出てギリギリだけど間に合ってるし」
「そうかなぁ……あのジジイがそんなこと考えてるかなぁ……」
「うん、ゴメン……あなたたちあそこを8時過ぎに出ているの?」
「えっと、今日は8時5分くらいだったかな?」
「3キロ近くあるのよ? ハガネの家から! それを20分で?!」
「そうだけど」
「バケモノ以上に体力のあるハガネはわかるとして……」
「いやあ……」
ポリポリとポニーテールのある後頭部を掻くハガネ。
「照れるな! 褒めてないから!」
「あれ?」
「なんでそんなハガネにチヨさんがついていけるのかっていうのが不思議なのよね」
「ボクも一時期金剛流の門下生として、ハガネちゃんと一緒に鍛えていたからね」
「その話、何度聞いても信じられないのよねぇ……だいたいそれっていつ頃の話なの?」
「んーっと……確か……」
「小学生に上がる前後だったな!」
「あー、そんな頃かな? 二人で家の前のあの石段を一日に10往復とかしてたよねー」
「孫を殺す気なの? あなたのお爺さんは!」
「う~ん、どうかなぁ……」
「せめてそこは否定しようよ、ハガネちゃん?」
「いや、でもあのジジイのことだからさぁ……」
とそこに担任の徳山先生が入って来た。
「ほーい、ホームルームはじめっぞー。静かにしろよー」
と教室内のざわめきが静かになっていく。
「あー、金剛に高野ー。お前ら、遅刻ギリギリに校門を全速力で通過するなー。危ないって以前から苦情が来てるぞー。もう少し早く家を出るようにー……」
と徳ちゃんこと徳山先生に言われてクスミは「ほら!」と勝ち誇ったような視線をハガネたちに送った。
ハガネとチヨは肩を落としてため息をつく。
「でまぁ、出席をーって、欠席者いねーなぁー。じゃあ以上ー。今日も事故とかないようになー、特に金剛なー」
「な、なんでアタシだけ?!」
ハガネが文句を言うと教室内が笑いに包まれ、徳ちゃん先生も笑いながら教室を出て行く。
そして廊下を歩きながら徳山は
「今日も金剛ハガネ……通常通りに出席……特に異常なしっと……」
と出席簿とは違う何かにそう記したのだった。
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