第2話 私が男性慣れしなさ過ぎな件について

 裕也ゆうやさんと別れて家に返った私はというと。


「はあ、まだ、ドキドキしてる……」


 部屋に入るなり、ベッドに突っ伏していた。

 漫画とかで、恋人同士になった二人が手を繋ぐシーンはよくある。

 私はそれを見て「こんなことくらいで……」なんて内心思っていた。


 でも、いざ、私がその立場になってみると、それだけでクラクラしてる。

 

「私って、そういえば、男の子の事って全然知らない……」


 私が、男の子と接することが苦手になったのは小六の頃。

 元々、私は内向的で、教室の隅っこで本を読むのが好きな子だった。

 それが一部の男の子の興味を引いたのか、やたらからかわれた。

 ひょっとしたら、イジメだったのかもしれない。


真中まなかは本当に根暗だよなー」


 とか。

 あるいは、机の下に入れといた教科書が無くなっていたこともあった。

 犯人の目星はついていたから、


「返して!」


 と言っても、


「どこに証拠があるんだよ?」


 などと言われたこともあったっけ。

 それと、私は同年代では発育が良かったらしい。

 小六にして、少々胸が大きめだった。

 それがまたからかいの種になった。


「真中、胸でっかいなー。ちょっと触らせろよ」


 とか。

 さすがに、そういうのは振り払ったけど。


 一部の男子にそんな仕打ちを受けた結果。

 私は、それ以来男子に苦手意識を持つようになってしまった。


 ただ、以前から仲良くしていた、近所の裕也さんは例外だった。

 いつも黙って、打ち明け話を聞いてくれた。

 

「ほんとつらいよな。うん」


 とか、


「そいつらが悪いんだからな。気に病むなよ」


 とか、色々言葉をかけてくれた。

 

 それでも、イジメが終わらなかったけど。

 それを聞くと、小学校に乗り込んで、担任の先生に直談判までしてくれた。


 もちろん、友達だって、庇ってくれた子はいた。

 でも、裕也さん程、私の事を思って行動してくれた人はいなかった。


 それ以来、私はあの人のことが好きになり始めていたのだと思う。

 ただ、元々、自信がなかった私は、イジメの件でさらに自信を消失していた。

 裕也さんは、イジメの件関係なしに、よく遊びに誘ってくれた。

 でも、それですら、


「私のことを励まそうとしてくれているんじゃ」


 とか


「友達が少ない私のために、気を遣ってくれているんじゃないか」


 とずっと自信が持てなかった。


 ちなみに、男性が苦手になった私は、中高一貫の女子校に進学した。

 幸い、女子校の日々は平和だったけど。

 やっぱり男子への苦手意識はそのままだった。 


 でも、高校に入った時に決めたのだ。

 裕也さんにきちんと思いを伝えようと。

 勇気を振り絞ろうと。

 というわけで、今日は、初めて、「次」を私から口にしてみた。


 緊張で、手からは汗が流れていた。

 「ごめん。ちょっと用事があって」

 「悪い。ちょっとパス」

 とか悪い予感ばかりが思い浮かんだけど、返事は予想外だった。


 別れる前に伝えたいことがあるんだと。

 そして、告白された時は、天にも昇る気持ちだった。


 でも、次の瞬間、手を握られた時は、ビックリしてしまった。

 嫌だったんじゃない。

 小さい頃を除けば、男の人に手を握られたのは初めてだったのだ。


 心臓がドキドキして、何がなんだかわからなかった。

 ひょっとして、手を繋ぐくらいで、あんな反応、失望されたかな。

 なんて、またネガティブな考えが湧いて来てしまう。

 裕也さんがそんな人じゃないとはわかっているのに。


(よし、イメージトレーニングしよう)


 と、手を握られる様子を思い出したり。

 肩を抱き寄せられる様子をイメージしたり。

 あるいは、その、キスされる光景をイメージしたり。


 でも、その度に凄く緊張してしまうのを感じるだけだった。


(私、本当に大丈夫かな)


 同い歳で彼氏が居る友達は、もっと平然と手を握っているのに。

 あるいは、性行為の事も赤裸々に話したりしてくるのに。

 

(私、本当にダメダメだ)


 でも、失望されたくない。

 付き合って行く上では避けて通れない関門。


(慣れなくちゃ、慣れなくちゃ)


 なんて考えながら、眠る直前の時間を過ごしていた。

 裕也さんからの電話があったのはちょうどその時。

 明日、家に遊びに来ないか?というものだった。

 もちろん、答えはYESだった。


 でも、彼氏の家に招かれるなんて。

 もちろん、それまでだって、行ったことはあった。

 でも、今は恋人同士の関係。

 手を繋ぐだけじゃなくて、それ以上の事も求められるかも。


 たとえば、キス、とか。


(私、本当に、大丈夫かな)


 その日は、なかなか寝付けなかった。

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