七章 暗碧の真実

『神様なんて居ない』


安寧も、平穏も、訪れない。

この身で生まれ落ちてから、ずっと。


慣れていると思っていた。

罵声も嘲笑も、耳にも残らない。



けれど、あの日だけは辛かったなあ。




目も開けられないような、大雨の日。

実の親に捨てられてどこにも居場所がなかった。


家と体裁だけは立派だ。

一族の恥とされる私を家業の施設に預けられる訳もなく、あの息が詰まる家で、ただ死んだように生きているだけの存在だった。


みんな顔を歪ませて、頼んでもいないのに親と自分の悪口を聞こえるように呟く。

もう慣れてしまったと思っていた。




ああ、あの日も雨だったかな。

広い客間に親戚が集まり、私の次の引き取り手を探すために話し合っていた。


当然、誰も引き取りたいわけが無い。

忌み子で、邪魔者で、死んだ方がいい存在。

誰からも望まれず捨てられた人間。


いいよ、好き勝手言ってくれれば。

それでも、同じ部屋にぽつんと座る私に。

当時8歳の私に、大人たちは口をとめなかった。




言われ慣れてる言葉が胸に刺さる。

苦しい。自分を否定されるのは。

私だって、生まれてきたくはなかった。

望まれたかった。



普通に、生まれてきたかった。





涙を堪えて下を向いていると、喧騒の中、綺麗な声が響き渡った。



「誰もいないのであれば、私が引き取ります」



そしてその声の主は、誰かが反応する間もなく。

私に手を伸ばした。



「嫌われ者同士、仲良くやろうよ。

うち、おいで。」



その人こそが、彩織透霞だった。

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青と虚と憂い事 鳴沢 梓 @Azusa_N

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