七章 暗碧の真実
一
『神様なんて居ない』
安寧も、平穏も、訪れない。
この身で生まれ落ちてから、ずっと。
慣れていると思っていた。
罵声も嘲笑も、耳にも残らない。
けれど、あの日だけは辛かったなあ。
目も開けられないような、大雨の日。
実の親に捨てられてどこにも居場所がなかった。
家と体裁だけは立派だ。
一族の恥とされる私を家業の施設に預けられる訳もなく、あの息が詰まる家で、ただ死んだように生きているだけの存在だった。
みんな顔を歪ませて、頼んでもいないのに親と自分の悪口を聞こえるように呟く。
もう慣れてしまったと思っていた。
ああ、あの日も雨だったかな。
広い客間に親戚が集まり、私の次の引き取り手を探すために話し合っていた。
当然、誰も引き取りたいわけが無い。
忌み子で、邪魔者で、死んだ方がいい存在。
誰からも望まれず捨てられた人間。
いいよ、好き勝手言ってくれれば。
それでも、同じ部屋にぽつんと座る私に。
当時8歳の私に、大人たちは口をとめなかった。
言われ慣れてる言葉が胸に刺さる。
苦しい。自分を否定されるのは。
私だって、生まれてきたくはなかった。
望まれたかった。
普通に、生まれてきたかった。
涙を堪えて下を向いていると、喧騒の中、綺麗な声が響き渡った。
「誰もいないのであれば、私が引き取ります」
そしてその声の主は、誰かが反応する間もなく。
私に手を伸ばした。
「嫌われ者同士、仲良くやろうよ。
うち、おいで。」
その人こそが、彩織透霞だった。
青と虚と憂い事 鳴沢 梓 @Azusa_N
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