「何度来られても答えられない。迷惑だ。

帰ってくれないか」




森の奥にあるような、静けさの中に佇む大きな屋敷。




中年の女性は迷惑そうにこちらを見ていた。




真宮家の存在を知った僕は、暇そうな神楽に頼み込んで

本家の住所と連絡先を調べてもらった。


目の前の女性は電話に出てくれた人だ。

嘘をついても仕方ないと思い、単刀直入に碧の話をした。



碧は少し前にここに来ていたらしい。

自分がどんな人間だったか、手がかりを掴みに。



だが、今どこにいるかは頑なに教えてくれなかった。

何かを知っている口ぶりなのは間違いない。



僕は頭を下げる。



『お願いします。こんな大事なこと、彼女が途中で放り出すと思えないんです』



「だから何度も言ってるだろ。あの子はここに来た。

生きてるよ、今はそれどころじゃないんだ」



『どうか碧の居場所を教えてもらえませんか』



食い下がらない僕に、女性は深いため息をつく。





「碧、ね。

私も心配してたから、世話してくれたのは感謝する。




でも今あの子は……音楽なんてやってる場合じゃない」




『それは……』




「そっとしておいてくれないか」




さっきとは打って変わって、雰囲気が変わる。

慈しみのような、懇願のような。

女性は、そんな表情をしていた。




彼女が望まない事を、無理に進める必要は無い。




『わかりました。

何度も申し訳ありませんでした。』



深く頭を下げた。





ああ、ここで終わりなのか。

あと一歩なのに。



悔しさを胸に、その場を後にした。

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