四
「何度来られても答えられない。迷惑だ。
帰ってくれないか」
森の奥にあるような、静けさの中に佇む大きな屋敷。
中年の女性は迷惑そうにこちらを見ていた。
真宮家の存在を知った僕は、暇そうな神楽に頼み込んで
本家の住所と連絡先を調べてもらった。
目の前の女性は電話に出てくれた人だ。
嘘をついても仕方ないと思い、単刀直入に碧の話をした。
碧は少し前にここに来ていたらしい。
自分がどんな人間だったか、手がかりを掴みに。
だが、今どこにいるかは頑なに教えてくれなかった。
何かを知っている口ぶりなのは間違いない。
僕は頭を下げる。
『お願いします。こんな大事なこと、彼女が途中で放り出すと思えないんです』
「だから何度も言ってるだろ。あの子はここに来た。
生きてるよ、今はそれどころじゃないんだ」
『どうか碧の居場所を教えてもらえませんか』
食い下がらない僕に、女性は深いため息をつく。
「碧、ね。
私も心配してたから、世話してくれたのは感謝する。
でも今あの子は……音楽なんてやってる場合じゃない」
『それは……』
「そっとしておいてくれないか」
さっきとは打って変わって、雰囲気が変わる。
慈しみのような、懇願のような。
女性は、そんな表情をしていた。
彼女が望まない事を、無理に進める必要は無い。
『わかりました。
何度も申し訳ありませんでした。』
深く頭を下げた。
ああ、ここで終わりなのか。
あと一歩なのに。
悔しさを胸に、その場を後にした。
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