二
警察に届出ていること、そもそも大家と神楽の仲が良かったこともあり、案外簡単に碧の部屋に入る事が出来た。
中は物が散乱しており、ますます心配になってしまった。
「泥棒にでも入られたんかなあ」
神楽の呟きには誰も反応しない。
「やっぱりなんかあったんじゃ…」
気が滅入りそうになる僕に、隼人が言う。
「考える前に手動かしな」
こんな時でも冷静な隼人に、年下とは思えない頼りがいを感じた。
しばらく無言になりながら、物を片付けつつなにか手がかりが無いか探っていた。
そんな空間に、携帯の着信音が鳴り響いた。
僕のだ。
表示された画面を見て驚く。
碧の友達からだった。
「悠さん!碧ちゃんいなくなったってどういうことですか!?」
マンションの一室に響く叫び声とも取れる一声。
若い女の子の声量恐るべし、等と考える間もなく彼女は次々にまくし立てる。
「どこ行ったとか分からないんですか?実家とかは!?高校の頃と住所変わってますよね!?」
『とりあえず落ち着いて、驚かせてごめんね。僕らも何も分からなくて今探してるところなんだ。』
携帯の向こうから何やら話し声が聞こえる。
彼女たちは今2人で電話をかけてきたようだ。
「何か見つかりましたか?」
『いや、家も見てみたんだけどほぼ何も。携帯も電源切ってるみたいで』
「そうですか……」
彼女はそれっきり黙り込んでしまった。
『心配かけてしまってごめんね。
もし何か思い出せる事があったら
また教えてくれたら嬉しいな』
「わかりました、こちらも急に電話かけてしまって
ごめんなさい。」
それに大丈夫だよ、と返答する。
「じゃあまた何かあったら」と電話を切ろうとすると
「あ!」
と大きい声が聞こえた。
目の前の隼人が会話を気にしていて、スピーカーにしろとジェスチャーする。
僕はその通りにして、携帯を、テーブルの真ん中に置いた。
「あの、碧ちゃんのお母さんに会ったことあります」
『えっ』
予想だにしなかった言葉に、僕らは一同どよめいた。
「多分かなり若くて、血が繋がってないって聞いたような…
碧ちゃんは"とうかさん"って呼んでました。
親子ってよりも、仲の良い友達みたいに思えました。」
それは、何の手がかりも持ち合わせてない僕らにとって
これ以上ない貴重な情報だった。
「でもいつからか…ぱったり見なくなって。
碧ちゃんも、その時期に暗い顔してました。
それでそのまま居なくなってしまって
すごく心配したんです。」
『なるほど、もしかしたらそのお母さんが関係してるかもしれない。
"とうかさん"を探せば、碧に辿り着けるかも。
間違いなく有力な情報だ、ありがとう。』
なんとか解決の糸口が見つかりそうになり、胸を撫で下ろした。
神楽と隼人も続けて彼女たちにお礼を言った。
「お嬢ちゃんたちナイスだよ~!本当にありがとう!」
「助かった、ありがとう」
「いえいえ、私たちにはこれくらいしか出来ませんから。
…碧ちゃんをお願いします。」
『ああ、もちろんだ。』
彼女たちはそう言うと、電話を切った。
『とりあえず、僕らは部屋の中の手がかりを探そう。
神楽は、"とうかさん"を知ってる人がいないか探して貰えないか?
人脈とツテが多いから、任せるよ。』
そのセリフに、隼人と神楽はすぐさま頷いた。
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