警察に届出ていること、そもそも大家と神楽の仲が良かったこともあり、案外簡単に碧の部屋に入る事が出来た。


中は物が散乱しており、ますます心配になってしまった。



「泥棒にでも入られたんかなあ」


神楽の呟きには誰も反応しない。


「やっぱりなんかあったんじゃ…」


気が滅入りそうになる僕に、隼人が言う。


「考える前に手動かしな」


こんな時でも冷静な隼人に、年下とは思えない頼りがいを感じた。



しばらく無言になりながら、物を片付けつつなにか手がかりが無いか探っていた。


そんな空間に、携帯の着信音が鳴り響いた。

僕のだ。


表示された画面を見て驚く。

碧の友達からだった。



「悠さん!碧ちゃんいなくなったってどういうことですか!?」



マンションの一室に響く叫び声とも取れる一声。

若い女の子の声量恐るべし、等と考える間もなく彼女は次々にまくし立てる。


「どこ行ったとか分からないんですか?実家とかは!?高校の頃と住所変わってますよね!?」


『とりあえず落ち着いて、驚かせてごめんね。僕らも何も分からなくて今探してるところなんだ。』


携帯の向こうから何やら話し声が聞こえる。

彼女たちは今2人で電話をかけてきたようだ。


「何か見つかりましたか?」


『いや、家も見てみたんだけどほぼ何も。携帯も電源切ってるみたいで』


「そうですか……」



彼女はそれっきり黙り込んでしまった。



『心配かけてしまってごめんね。

もし何か思い出せる事があったら

また教えてくれたら嬉しいな』


「わかりました、こちらも急に電話かけてしまって

ごめんなさい。」


それに大丈夫だよ、と返答する。

「じゃあまた何かあったら」と電話を切ろうとすると



「あ!」



と大きい声が聞こえた。



目の前の隼人が会話を気にしていて、スピーカーにしろとジェスチャーする。

僕はその通りにして、携帯を、テーブルの真ん中に置いた。



「あの、碧ちゃんのお母さんに会ったことあります」


『えっ』



予想だにしなかった言葉に、僕らは一同どよめいた。



「多分かなり若くて、血が繋がってないって聞いたような…

碧ちゃんは"とうかさん"って呼んでました。

親子ってよりも、仲の良い友達みたいに思えました。」



それは、何の手がかりも持ち合わせてない僕らにとって

これ以上ない貴重な情報だった。



「でもいつからか…ぱったり見なくなって。

碧ちゃんも、その時期に暗い顔してました。

それでそのまま居なくなってしまって

すごく心配したんです。」



『なるほど、もしかしたらそのお母さんが関係してるかもしれない。

"とうかさん"を探せば、碧に辿り着けるかも。

間違いなく有力な情報だ、ありがとう。』



なんとか解決の糸口が見つかりそうになり、胸を撫で下ろした。



神楽と隼人も続けて彼女たちにお礼を言った。


「お嬢ちゃんたちナイスだよ~!本当にありがとう!」


「助かった、ありがとう」



「いえいえ、私たちにはこれくらいしか出来ませんから。


…碧ちゃんをお願いします。」



『ああ、もちろんだ。』



彼女たちはそう言うと、電話を切った。




『とりあえず、僕らは部屋の中の手がかりを探そう。

神楽は、"とうかさん"を知ってる人がいないか探して貰えないか?

人脈とツテが多いから、任せるよ。』



そのセリフに、隼人と神楽はすぐさま頷いた。

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青と虚と憂い事 鳴沢 梓 @Azusa_N

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