七
昼下がり。キャッキャと騒ぐ子供たちの声がこだまする。
目の前に座る「院長」は朗らかな女性だった。
私を一目見た瞬間、ポロポロと泣き出したので少し目が腫れている。
ひとしきり撫でられた後、応接室のような場所に通された。
「ちょっと痩せてるけど、元気そうでよかった」
彼女はそう言って麦茶の入ったグラスを置いた。
『電話でお話した通り、何も覚えてなくてごめんなさい』
記憶が無いことに罪悪感があり、まともに顔を見れない。
「生きててくれただけでよかった。そんなこといいの。それに…」
院長は少し戸惑いながらも続ける。
「ここにくれば、探してるものが全部見つかると思うから」
ズキッと、胸の奥深くが痛んだ。
「"
『はい。私の育ての親だと聞いてます』
院長は目を伏せる。神妙な面持ちでこう言った。
「___今ね、実はどこにいるか知ってるの」
思わず目を見開く。少し身を乗り出すように聞き返した。
『それで今どこに?』
「こうなる前の本人からキツく止められてたの。でも碧ちゃんなら言ってもいいわ」
そう言うと院長はおもむろに携帯を取りだし、真剣な眼差しで指を動かし続けた。
ピコン、とスマホの通知が鳴る。
この時の衝撃を、私は忘れない。
それは消したくて消した記憶。
どうしてもと願って手放した罪の記憶。
もう何も忘れない。
大事な事を、全て思い出したのだから。
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