昼下がり。キャッキャと騒ぐ子供たちの声がこだまする。


目の前に座る「院長」は朗らかな女性だった。

私を一目見た瞬間、ポロポロと泣き出したので少し目が腫れている。

ひとしきり撫でられた後、応接室のような場所に通された。



「ちょっと痩せてるけど、元気そうでよかった」


彼女はそう言って麦茶の入ったグラスを置いた。



『電話でお話した通り、何も覚えてなくてごめんなさい』


記憶が無いことに罪悪感があり、まともに顔を見れない。


「生きててくれただけでよかった。そんなこといいの。それに…」


院長は少し戸惑いながらも続ける。




「ここにくれば、探してるものが全部見つかると思うから」


ズキッと、胸の奥深くが痛んだ。



「"透霞とうか"を探しているのよね?」


『はい。私の育ての親だと聞いてます』



院長は目を伏せる。神妙な面持ちでこう言った。



「___今ね、実はどこにいるか知ってるの」



思わず目を見開く。少し身を乗り出すように聞き返した。


『それで今どこに?』


「こうなる前の本人からキツく止められてたの。でも碧ちゃんなら言ってもいいわ」


そう言うと院長はおもむろに携帯を取りだし、真剣な眼差しで指を動かし続けた。



ピコン、とスマホの通知が鳴る。

この時の衝撃を、私は忘れない。



それは消したくて消した記憶。

どうしてもと願って手放した罪の記憶。

もう何も忘れない。


大事な事を、全て思い出したのだから。

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