六
鉛のように重い身体を、ゆっくりと起こした。
薄暗い自分の部屋を見渡して、ため息をつく。
病院で目が覚めたあの日以来、憂鬱な朝。
いや、もしかしたら何も知らなかったあの日の方が幾分かマシな目覚めだったかもしれない。
頭が痛い。吐き気がする。空気中の見えないもの全てが、自分の体を押さえつけているような感覚に目眩がしそうだった。
この世界で『碧』として目が覚めてから、周りの人達はみんな当たり前のように優しくしてくれていた。
そのおかげか、自分の"過去"とちょっぴり苦い"悪意"に、打たれ弱くなっていたようだ。
肺に何かを抱えているような居心地の悪さを感じながら、あの日受けとった『施設』の連絡先を探す。
が、何処にもない。
時々痛む頭を手のひらで押さえながら、書類の山を崩していく。
こうなるなら、その場で行動すればよかったのに。
ますます滅入ってしまう気分にため息が漏れる。
ふと、書類の間にパンフレットが挟まっているのに気づいた。
それを手に取ると、先程とは比べ物にならないくらいの頭痛が襲ってきた。
視界が揺れる。まるで鈍器で力いっぱい殴られたかのような衝撃。
「桃園孤児院……」
表紙にはそう書いてあった。
めいっぱい笑う子供たちの写真の中に、面影のある少女。
ゆらゆらと揺れる視界で、微かな記憶が蘇る。
ここが私の故郷だ。
パラパラとページをめくり、連絡先を登録する。
目に入った荷物をかき集め、何かに追われるように家を飛び出した。
そこに、真宮憂が存在すると信じて。
無くなった全てのものを、取り戻せると願って。
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