五章 深碧の追想

そこは暗い昏い、夢の中。

揺れる水面を眺めながら、息が苦しくなるのを感じる。

そこでやっと、自分は海の底に沈んでいるのだろうと理解した。

記憶という記憶は、自分の中には存在しない。

頭の中を探っても、全ては朧気で、浜辺に打ち付けられる波のように大切な何かをかっさらってしまった後で、自分は空っぽなのだという現実を突きつけられるだけ。


…波?海に行ったことなんてあったっけ?

きっとあったのだろう。今の自分には、確かめる術もない。

このままもがくのを、足掻くのを諦めてしまえば楽になれるだろうか。


あの人との約束。

大切な人、忘れられない人。

一瞬浮かんでくる言葉が何だったのかも、思い出せやしない。


吐いた息がシャボン玉のようにぽつぽつと漂い、それは上に上に登っていく。

肺に水が溜まっていく。意識が霞む。


それよりももう、疲れた。

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