二
あれからどれくらい経っただろうか。
飯を食べる気にもならず、寝る気にもならず堕落した生活を続けている。
叶多がいたらきっとだらしないなんて怒られてしまうだろう。
僕はそれに対して仕方ないだろ、などと返す。
そこからたわいも無いやり取りが始まって__
頬が濡れる。またどうしようもなく涙が溢れ出して止まらない。
あるはずのない妄想に取り憑かれるほど、僕の精神は疲弊しきっていた。
叶多に会いたい。朗らかな表情で笑うあの人を見つめていたい。柔らかな髪に触れたい。この手で抱きしめられたら、きっとこの涙も止まるのに。
赤くなった目を擦り携帯を手にした。
叶多がいた時のバンド、EGOISMの曲の再生ボタンを押した。
彼女の声を聞いては泣いて、思い出しては泣いての繰り返しだ。何の生産性も無いこの作業を毎日毎秒繰り返している。
ピロン、と通知音が鳴る。神楽からだった。
『ドアの前に差し入れ置いといた!
早く顔出せよ〜みんな待ってるよ〜』
スマホを置いてベットから降りる。
玄関のドアを開けると、何かがぶつかる音がした。
ドアの隙間から体を出して、手前に置いてあったコンビニ袋を取り、部屋に戻る。
袋の中には食品が数点入っていた。
僕の好きな菓子も入っている。
あの日スタジオを勝手に飛び出した僕を、まだ気使ってくれているのか。
そう思うとまた視界がぼやける。この数日で壊滅的に涙脆くなってしまったようだ。
おにぎりの封を開けて中身を頬張る。
さっき置いたスマホから叶多の綺麗な歌声が聞こえてきた。
ここ数日の自分勝手な行動を思い返す。
きっかけは叶多と碧だったが、自分が始めた事を放棄し引きこもり、メンバーとも連絡を絶っている。
本当に最低な人間だ。
だがどうしても、弾こうにも今の碧の歌声が叶多と重なって指が止まる。
いつからああなったのだろうか。
情けない自分に思わずため息が出る。
それと同時にまたスマホの通知が鳴った。
今度は碧からだ。
『お話したい事があります、どうしても
お家に伺ってもいいですか?』
いいわけが無い。と、通知を無視して黙々と飯を食べているとインターホンが鳴った。
もう来たのか。いくら何でも早すぎる。
メンヘラの素質があるんじゃないだろうか。
などと考えているとまたインターホンが鳴る。
背筋が凍るような思いをする、とはまさにこの事だろう。
僕は出る気にもならなかったが、何度も鳴る音に耐えられずに、ドアノブに手をかけた。
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