あれからどれくらい経っただろうか。


飯を食べる気にもならず、寝る気にもならず堕落した生活を続けている。

叶多がいたらきっとだらしないなんて怒られてしまうだろう。

僕はそれに対して仕方ないだろ、などと返す。

そこからたわいも無いやり取りが始まって__


頬が濡れる。またどうしようもなく涙が溢れ出して止まらない。

あるはずのない妄想に取り憑かれるほど、僕の精神は疲弊しきっていた。


叶多に会いたい。朗らかな表情で笑うあの人を見つめていたい。柔らかな髪に触れたい。この手で抱きしめられたら、きっとこの涙も止まるのに。


赤くなった目を擦り携帯を手にした。

叶多がいた時のバンド、EGOISMの曲の再生ボタンを押した。

彼女の声を聞いては泣いて、思い出しては泣いての繰り返しだ。何の生産性も無いこの作業を毎日毎秒繰り返している。


ピロン、と通知音が鳴る。神楽からだった。


『ドアの前に差し入れ置いといた!

早く顔出せよ〜みんな待ってるよ〜』


スマホを置いてベットから降りる。

玄関のドアを開けると、何かがぶつかる音がした。

ドアの隙間から体を出して、手前に置いてあったコンビニ袋を取り、部屋に戻る。

袋の中には食品が数点入っていた。

僕の好きな菓子も入っている。


あの日スタジオを勝手に飛び出した僕を、まだ気使ってくれているのか。

そう思うとまた視界がぼやける。この数日で壊滅的に涙脆くなってしまったようだ。


おにぎりの封を開けて中身を頬張る。

さっき置いたスマホから叶多の綺麗な歌声が聞こえてきた。


ここ数日の自分勝手な行動を思い返す。

きっかけは叶多と碧だったが、自分が始めた事を放棄し引きこもり、メンバーとも連絡を絶っている。

本当に最低な人間だ。

だがどうしても、弾こうにも今の碧の歌声が叶多と重なって指が止まる。

いつからああなったのだろうか。

情けない自分に思わずため息が出る。


それと同時にまたスマホの通知が鳴った。

今度は碧からだ。


『お話したい事があります、どうしても

お家に伺ってもいいですか?』


いいわけが無い。と、通知を無視して黙々と飯を食べているとインターホンが鳴った。


もう来たのか。いくら何でも早すぎる。

メンヘラの素質があるんじゃないだろうか。

などと考えているとまたインターホンが鳴る。


背筋が凍るような思いをする、とはまさにこの事だろう。

僕は出る気にもならなかったが、何度も鳴る音に耐えられずに、ドアノブに手をかけた。

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