二
スタジオでの練習は夜遅くまで続いた。
神楽の空腹の音が異常な大きさで鳴り出したのを皆で笑い飛ばしながら、近くのファミレスで晩飯を食べる事になった。
まだ湯気が出ているオムライスを「あつっ」と言いつつも美味しそうに頬張りながら、神楽が碧に話しかける。
「碧ちゃんバイトどーすんの?」
「まだ決めてないですね」
碧はまたしても大きなチョコレートパフェを食べていた。主食やおかずは食べないのだろうか。
「じゃあうちんとこでバイトしね?
人手不足で困ってるんだわ」
その言葉を聞いて、隼人が真っ先に静止する。
「やめとけ」
「いやいや!怪しい所じゃないよ!
碧ちゃんの状況じゃ履歴書書くの大変だろうし、手続きも面倒臭いだろうから即採で働ける所あるよって提案!」
神楽が慌てふためいて発言の意図を説明する。
碧は微笑みながら返答した。
「一応の戸籍はあるので面倒臭くないですけど…それより施設の出って伝えた途端敬遠されるので雇って貰えないんですよね、正直今すぐにでも紹介して貰いたいです」
声のトーンが下がる。新生活の準備はかなり難航しているようだ。
「日中のカフェ店員やって欲しいんだよね~
夜はバーになるんだけどそれはやんなくていいから」
神楽は嬉々とした表情で言う。
「やりますよ!ぜひ!」
「やったー!碧ちゃんいたらお客さんたくさん来るよ」
もう既に決まってしまったらしい。
納得いかない表情の隼人。るんるんと誰かに連絡を入れている神楽の首根っこを掴む。「ぐえっ」と神楽が謎の声を発するのを無視してこう告げた。
「碧、言っとくけどこいつには気をつけろ。女ばっか引っ掛けて遊んで、金を巻き上げてるこの世の屑みたいな奴だからな。マジで気をつけろよ」
「なんてこと言うの!可愛い子ばっか構うのは否定出来ないけどお金は自分で稼いでます~」
「どうせそのカフェだかバーだかわからん店もお前が引っ掛けた女の寄せ集めなんだろ!」
隼人と神楽はそんなことを言い合いながら軽く取っ組み合いのようになっていた。
「やめてください二人とも!」
碧が困ったように二人を窘める。
「危なそうだったら直ぐに辞めるんで大丈夫です、そんなに心配しないでください」
そう言って不器用な愛想笑いまでする碧に、流石に反省したのか二人は大人しくなった。
しばらく雑談しながら食事を進め、落ち着いた頃に僕から話を切り出した。
「今日が一回目で、これから何度か練習して仕上げていくわけだけど。自分なりに目標を定めてみた」
三人は真剣な表情で僕を見つめる。
「4ヶ月後に初LIVEを開催する事になった。
知り合いのライブハウスに事情を伝えたら、ぜひ使って欲しいと引き受けてくれた」
「えっ!?」
一番大きい声で反応したのは碧だった。
「期間は4ヶ月だ。その間になんとかモノにしたい」
碧は「うーん」と不安げな顔をする。
「何とかなりますかね~…」
「バカ、何とかするんだよ」
隼人の言葉は厳しくも、励ましているように感じる。
それが本人にも伝わったのか、碧は顔を上げて意気込んだ。
「はい!頑張らせて頂きます!」
碧の宣言に、僕含め三人はホッとした表情で顔を見合せた。
「Recollection」初LIVEまであと4ヶ月。
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