三
目の前で大音量のロックが響く。
それは叶多との思い出の音楽だった。
都内某所、小さいライブハウスに碧を連れてやってきた。
ライブを生で見てみたいと目を輝かせる碧に押され、叶多と以前通っていたロックバンドのライブに来ていた。
僕の作る楽曲のルーツにもなっている。
メンバーは全員男性なのだが、美しく力強い歌声のハイトーンボーカルが魅力的なバンドだ。
僕はいつも後方で観ていたのだが、碧の引き運が強すぎるのか最前になってしまった。
ふと隣を見ると、楽しそうに小刻みに頭を振る碧がいた。
来る前にバンドの曲を聞き漁ったようで、既に口ずさめるようになっていた。
「お前らたのしんでるかー!」
「いえーい!」
ボーカリストの煽りに、声を張り上げる碧。
楽しそうでなによりだ。
ライブが終わったあと、碧を見送る為に駅まで歩いていた。
「ライブってあんなにも楽しいものなんですね~最高でした」
いつもの不器用な愛想笑いではなく、自然と微笑みながら言う碧の足取りは、まるでスキップをしているかのように軽やかだった。
「かなりギリギリで取ったチケットだったけど、まさかあんなにいい位置だと思わなかったよ」
「私は運が良い方なんですかね?とにかくほんとうに楽しかったです!連れてってもらえて良かったです、ありがとうございます」
その言葉に、僕の口角が自然と上がる。
「良かったよ、僕らもいつかあんな熱狂的なライブをやりたいね」
僕は何故か碧の顔を見るのが気恥ずかしくなり、視線を地面へと逸らしながら言った。
「絶対やります、やってみせますよ
……じゃあ明日もスタジオで」
碧はそう言って手を振った。いつの間にか駅に着いていたようだ。
僕は走って改札に向かう碧に踵を返し、一人歩き出す。
碧の歌は段々と完成度の近いものになっていた。
特徴的な声だ。これは中々にいけるかもしれない。
そう思いながらスマホを取りだし、音楽をかける。
きっと上手くいく。そう願い、すっかり暗くなっている夜空を見上げた。
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