第9話 ほんの少し素直な、メイドのサラ

 僕たちは全員揃って呆気に取られていた。しかし、すぐに気を取り直し、階下のフロアにて作戦会議を始める。


「どうしましょう……?」


「どうするも何も、倒すしかないんじゃないかな?逃げるにも全員は無理だと思う。」


「そうよね……。だけど、どうやって?」


「うーん……、またさっきみたいに飛びかかられたら厄介だしなぁ……。」


 全員で頭を悩ませていると、


「──おい、そろそろ喋ってもいいか。」


「イグナイトスティール!!」


 おしゃべりな筈のイグナイトスティールがずっと黙っていたと思ったら、突然喋りだした。まあ僕が黙っててって言ったんだけど。


「「剣が喋った!?」」


 ゾフィーとエリザベートが目をまんまるにしてこちらを見ている。


「そ、それひょっとして、もしかして……。

 建国の英雄騎士様の?」


「うん、イグナイトスティールだよ。

 お祖父様に譲ってもらったんだ。」


「──建国の英雄騎士?」

 アリシアが不思議そうにしている。


「アリシア、建国の英雄騎士である、フェルディナンド・スワロスウェイカー様をご存知ないの?」


「この国に住んでいれば、大人も子どもも、みんな知っている方よ?」


「ひ、引っ越してきたばかりなんで……。」

 アリシアは焦ったように言った。


「話続けていいか。」


「あ、うん。」


「──ありゃキングメタルスライムだ。

 今のお前たちには、どうあがいたってむりだぜ。経験値こそ高いが、防御とHPが桁違いな上に、回避率まで異常ときた。

 まともにゃ攻撃が当たらねえよ。」


「そ、そんな……。

 じゃあどうしたら……。」


「──言ったろ?お前たちには無理だ、と。

 だが、この俺は違う。」


「倒せるの!?」

 僕は自信満々に言うイグナイトスティールに目をみはる。


「倒せるが、お前1人を操るだけならなんとかなるが、あいつの動きに巻き込まれたら、そこの嬢ちゃんたち、おっ死ぬぜ。」


「──わ、私たちが、ここに隠れていればいいってこと?」


「でも、マクシミリアン1人で本当に戦わせるの?いくら伝説の武器だからって……。」


「私にも手伝わせてくださいな!イグナイトスティール様!」


 突如セクシーな声がする。アリシアの武器のストームホルトだ。


「アリシアの武器もしゃべるの!?」


「はい!イスラファンさんに作っていただいたんです!」


 嬉しそうに言うアリシアに、再び呆然とするバイエルン姉妹。


「私たち2人なら、必ず倒せますわ!」


「……ふうん、お前、何が使える。」


「サポートのための霧も出せましてよ?」


「めくらましか。いいな。分かった。

 今回はお前にも手伝ってもらおう。」


「僕たちは、どうすればいいんだ?」

 僕はイグナイトスティールに尋ねた。


「私がめくらましの霧を発生させます。

 こちらからは見えて、向こうからは見えない霧です。その隙に同時に会心の一撃を放てば、倒せるかと。」

 ストームホルトも自信満々に言う。


「……いっそのこと、その隙に、ゾフィーとエリザベートの2人だけでも、地上に逃げられるか試してみる?」


「それじゃあなたたちが危険だわ!」


「そうよ、反対だわ!」


 ゾフィーとエリザベートは納得してくれなかった。気持ちは分かるけど、ここにいても2人とも助からないかも知れないからね。


「うん。まあ、失敗すれば、僕だけじゃなくてみんなも死ぬかもしれないから、僕たちだけで戦うなんて、本当なら、できればやりたくないけれど……。

 最悪2人が地上まで逃げて、騎士団を呼んできてくれれば、万が一僕らがやられても、助けが間に合うかも知れないでしょ?」


「……失敗した時のリスクが高いなら、やるべきじゃないんじゃないかしら。」


「私もその方がいいと思うわ。」


「ここにこのままいたら、全員死ぬかも知れない。でも向こうから見えないなら、2人はうまく逃げられるかも知れない。

 どうするか、みんなで決めよう。」


 ゾフィーとエリザベートは、顔を見合わせてお互いに逡巡していた。


「……わかったわ。

 絶対助けを呼んでくる。」


「ええ。」


 2人が力強く返事をする。


「だいじょうぶですよ!

 ストームホルトがたいじょうぶって言った時は、絶対にだいじょうぶなんですから!」

 アリシアが明るく言った。


「じゃあ、作戦を伝えるよ。

 こっちに来て貰えるかな?」

 みんなが僕のそばに集まる。


「まず、ストームホルトが、霧でキングメタルスライムの視界を奪う。

 その隙に、ゾフィーとエリザベートは、階段を抜けて地上に逃げて。

 出口の前を塞いでるから、通り辛いと思うけど、気付かれないように、キングメタルスライムの体に触れないようにしてね。

 2人が逃げたのを確認したら、僕とアリシアでキングメタルスライムを攻撃する。

 うまくすれば全員助かるよ。

 ──いいね?」


「──お前がやんのか。」


「すみません、お願いします。」

 僕はイグナイトスティールに頭を下げた。


 僕たちはキングメタルスライムのいる上階に向かう、階段のギリギリはじっこに身を寄せ合い、様子を窺った。ここまではキングメタルスライムもやってこない。


「じゃあ、行くよ……。」


「──優しい妖精の霧カインドピクシーミスト!!」


 ストームホルトの魔法が、辺り一帯を緑色の霧のようなもので覆った。


「これは……」


「すごい魔力ね……」


 作られたばかりで、まだイグナイトスティールほどじゃないにしても、さすがはイスラファン作の意思を持つ喋る武器だ。


「準備はいい?……3、2、1、0!!」


 0!!と同時に、ゾフィーとエリザベートが一斉にキングメタルスライムの脇をすり抜けて走り出す。無事に後ろの階段までたどり着いたようだ。こちらに手を振っている。


「──いこう、イグナイトスティール。」


「ああ。気を抜くなよ。」


「お願いね!ストームホルト!」


「任せて。必ず守ってみせるわ。」


 僕たちは、視界を失ってなお、僕たちを探すように、ポンポンと弾んでいるキングメタルスライムの前に並んで立った。


「──鉤爪と食らいつく顎ジャバウォック(アギト)」


「──穿ち滅ぼす蛇の牙アジ・ダハーカ


 イグナイトスティールが氷属性のドラゴンの斬撃で、ストームホルトが風属性の巻き付いた大蛇が噛みつくような竜巻で切り刻み、それが会心の一撃となったのだろう、キングメタルスライムはそのまま姿を消し、冠をドロップした。──レアアイテムだ!


「「やったあああ!!!」」


 僕たちは、イグナイトスティールとストームホルトの連携により、スライムの上位種を倒すことに成功したのだった。


 神の福音の音が立て続けに鳴り止まない。


 肩もみがうまくなる 寝坊しなくなる ラッキースケベが起きる確率が上がる パンツが見えそうになる パンツの種類を言い当てられる 相手が一番喜ぶプレゼントが分かる 魚が寄ってくる


 ていうか、なんなんだよ!

 このエッチなのばっかりなスキルは!


「ふう、良かった〜。」


 だいじょうぶとは思いつつも、背中の汗が凄いよ……。怖かった……。


「はい、ホッとしました!

 でも、当分ここまで強い敵とは、戦いたくないですね……。」


「まったくもって同感だよ。他のダンジョンを探さないとなあ。僕はまだ目的のものがドロップしてないし。」


 僕たちは一緒にダンジョンの外に出た。


 冒険者ギルドにつくと、連絡を受けたメイドのサラが、馬車と共に迎えに来ていた。


「ダンジョンスタンピードの可能性があるダンジョンを見つけて、証拠を持ってくると聞いていたが……。」


 冒険者ギルドのギルド長さんが僕に言う。


「はい、これです。」


 僕はそう言うと、マジックバッグから、ゴブリンメイジ、ゴブリンジェネラル、キングメタルスライムのドロップ品、宝箱から見つけたエクストラポーションを渡した。


 遠くからでも、それに気が付いた冒険者ギルド職員たちの顔色が変わる。


「これは……!

 君たちが本当に倒したのかね?」


「はい、キングメタルスライムだけは、イグナイトスティールと、ストームホルトが倒してくれましたけど。」


 僕の言葉に、冒険者ギルド長さんが、僕たちの下げた剣を見て納得したようだった。


「では、こちらはダンジョンスタンピードの可能性の証拠として、冒険者ギルドにて預からせていただく。さっそく騎士団にも状況を報告し、協力を仰ぐつもりだ。」


「はい、よろしくおねがいします。」


 あーあ、やっぱりドロップ品持って行かれちゃったな。仕方ないか。


 冒険者ギルドの入り口でアリシア、ゾフィー、エリザベートが待っていてくれていた。


「終わったの?」


「うん、証拠品を預けてきたよ。」


「そう、じゃあ、明日は同じ時間に同じところで待ち合わせでいいわよね?」


「え?」


「えっ?て……、ダンジョン探索が終わったら、みんなで買い食いをするんでしょう?」


「あっ!そうだった!」


「今日はもう疲れちゃったから、明日にしましょうっていうことになったのよ。」


ゾフィーとエリザベートが嬉しそうに言う。


「そっか。うん、分かった。

 同じ時間に同じ場所だね?」


 こんな美少女3人と街を歩けるなんて!

 楽しみだなあ。


「遅れないでくださいね?」

 アリシアも嬉しそうだ。


「マクシミリアン様、お疲れでしょう。

 お荷物をお預かりいたします。」


 サラがそう言って僕のマジックバッグと、イグナイトスティールを受け取ってくれる。


「うん、ありがとう。」


 サラと向かい合って、公爵家の馬車に乗り込み、みんなに馬車の中から手を振った。


「……。」


 どうしたんだろう?サラの様子がなんだかおかしい。無言なのはいつものことだけど、僕と目線を合わせないようにしているというか、不機嫌そうにそっぽを向いている。


「どうかした?サラ。」


「……マクシミリアン様と親しい同年代の女性は、今までずっと私だけだと思っていたのですが、どうやら、もう違ってしまったようだなと、思っていただけです。」


 えっ?サラ、すねてる?すねてるの?


 荷物を預ける時に、サラの手に触れた僕の手が、少し光った気がしたのを思い出した。


 あっ!ひょっとして、スキルの力……?


 最近なんとなく冷たく感じていたサラだけど、内心はそうでもなかったのかなって、僕はちょっとだけ嬉しくなったのだった。

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 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 23

 HP 184

 MP 152

 攻撃力 98

 防御力 88

 俊敏性 80

 知力 103

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く モテる(猫限定) 目薬を外さない 美味しいお茶を淹れる 体臭が消せる 裸に見える 雨予報(15秒前) カツラを見抜ける 塩が見つかる 上手に嘘がつける 快便になる 他人の才能の芽が見える 相手がほんの少し素直になる 植物が育ちやすくなる おいしい水が手に入る 悪口が聞こえる 肩もみがうまくなる 寝坊しなくなる ラッキースケベが起きる確率が上がる パンツが見えそうになる パンツの種類を言い当てられる 相手が一番喜ぶプレゼントが分かる 魚が寄ってくる

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勇者の孫は逆チート〜ハズレスキルしか手に入れられない不遇な男の、やがて英雄?になる物語〜 陰陽 @2145675

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