第8話 ▷逃げる だが逃げられない!

「よし!ここからは慎重に行こう!

 もし本当にダンジョンスタンピードの予兆なら、いつどこからいる筈のない強い魔物が飛び出してくるかわからないしね!

 いつでも戦えるようにしておいて!」


「はい!」


「気を引き締めるわ。」


「わかったわ!」


 僕たちは注意深く進んで行った。


「あ!またゴブリンメイジがいる!」


 ダンジョンをしばらく進むと、ボスフロアでもないのに、先程通った階には存在しなかった、ゴブリンメイジがわいていた。


「本当だわ!……という事は、本当にスタンピードの前兆なのね。」


「まだ決まった訳じゃないけどね。

 とりあえず倒しておくよ!

 ──横一線ホリゾンタリー!!」


「ギャアッ!!」


 ゴブリンメイジを倒して、ドロップアイテムを証拠品として大切にマジックバッグの中にしまう。


 その最中に神の福音の音がする。


 レベルが15になりました。

 HPが3上がりました。

 MPが2上がりました。

 攻撃力が3上がりました。

 防御力が3上がりました。

 俊敏性が1上がりました。

 知力が3上がりました。

 スキル、〈おいしい水が手に入る〉を習得しました。


「あ……!あれ……、何でしょうか?」


 アリシアが指差した方向に目を向けると、そこには、先程まではなかったものが突如として現れていた。


「階段……?」


「みたいですね。」

「まさか……、この下にもボス部屋が有るのかしら?」


「どうなんだだろう?

 ……一応、行ってみるしかないかな?」


 4人で顔を見合わせる。そして、意を決して、その階段を下りていった。


 下の階へ降りると、他のフロアは明かりがあって明るかったのに、そこだけは部屋に入ってなお真っ暗だった。


「──光球ライト!!」


 アリシアの魔法によって、部屋全体が照らされる。さすが全属性の勇者候補。


「あ!ゴブリンジェネラルです!」


 アリシアが叫んだ。確かにゴブリンジェネラルがいた。これもさっきはいなかったやつだ。明らかにおかしい。


 というか、このダンジョンにわくはずのない魔物なんだ。


「倒しましょう!」


「ええ!?」


 言うが早いか、女性陣は攻撃を開始した。


「──風の刃ウインドカッター!!

 ──炎の礫ファイアーボール!!」


「──聖なる斬撃ホーリーブレイク!!」


「──混ざり合う破壊者ミックスデストロイヤー!!」


「──ホ、横一線ホリゾンタリー!!」


 倒しちゃったよ、ゴブリンジェネラル。新人が倒せる魔物じゃないんだけどな?

 神の福音の音がする。


 レベルが16になりました。

 HPが2上がりました。

 MPが3上がりました。

 攻撃力が2上がりました。

 防御力が2上がりました。

 俊敏性が3上がりました。

 知力が1上がりました。

 スキル、〈悪口が聞こえる〉を習得しました。


「……やっぱり間違いないみたいだね。」


「え?どういう事ですか?」


「このダンジョンの中には、本来出現するはずのない強い魔物が現れ始めているってことだよ!ゴブリンジェネラルは、もう少し強い魔物が出るダンジョンのボスなんだ!

 それに、このダンジョン、変化してる。」


「それはさっき聞きましたけど、ダンジョンが変化してるって、どうしてそれがわかるんですか?今までいなかったはずの魔物が現れたからってだけで……」


「それがあるんだよ。ほら、見て。」


 僕はそう言って、ゴブリンジェネラルが消えたあとの床を指し示した。


「血痕?」


「そう。多分ここで戦った人たちの血だと思うんだ。」


 ダンジョン内で死んだ場合、ダンジョンに吸収されてしまって死体が残らないから、代わりにその場に残された、血液の跡から死亡確認をするしかない。


「つまり、ここのダンジョンで誰かが死んだってことですか?」


「うん。多分だけどね。

 というか、これだけの量の血を流していたら、死んでなくても重症だよ。」


「そう……なんですか……。」


「僕とアリシアは、昨日お互いそれぞれ単独でダンジョンに潜ったけど、本来はパーティーを組んで入るものでしょ?

 新人向けって冒険者ギルドが決めてるダンジョンなら、怪我をすることはあっても、パーティーを組んでいれば、逃げられない程のことはそうそうおこらないからね。」


「おまけに、階段の入り口が消えたり出たりするダンジョンなんて、新人向けにはありえないことよね……。

 さすがにそれは、私にも分かるわ。」

 と、ゾフィーが言った。


「うん。だから、僕たちがここまで降りて来れたのはラッキーだったってことだね。

 早く調査を終えて帰ろう!」


「はいっ!」


「「ええ!」」


 ゴブリンジェネラルを倒したフロアはそこで行き止まりだった。だけど少し先に、


「あっ!宝箱ですよ!」


 アリシアが嬉しそうな声を上げた。


「ほんとだわ!

 ねえ!開けてみましょうよ!」


「うん!いいわね!中身は何かしら?」


 初めての宝箱に、みんなワクワクしながら蓋を開けると、中には、


「ポーション瓶!?」


 しかも、


「これ、上級の物じゃない!?」


 エリザベートの言う通り、確かに、エクストラポーションだった。


「エクストラポーションなんて、エリクサーをのぞけば、ポーションの中の最上級品よ、新人向けのダンジョンで手に入るなんて、聞いたこともないわ。」


「え!?まさか、そんな高価なものが入ってるなんて……。」


 アリシアが絶句している。


 まあ、それも仕方ないか。

 だって、今の僕らのレベルだと、なかなか手に入れられないものだし……。


「でも、これを売ればお金になるかな?」


「売れると思うけど、冒険者ギルドに証拠品として提出させられるんじゃ……?」

 アリシアの言葉にエリザベートが言う。


「うーん……、そうだね、報告する時に回収されちゃうかも。まあいいか!今はそれよりも、戻ることを優先しよう!

 証拠はこれでじゅうぶんだよ。」


「そうね、最下層に降りるのは危険だわ。

 私もそれがいいいと思う。」

 ゾフィーがうなずいた。


 全員一致でダンジョンを出て、戻って冒険者ギルドに報告することにした。


 戻る最中も再び魔物がわいていた。大した数じゃないけど、わくまでの時間が短くなっている気がする。僕がしんがりをつとめながら、時々現れる魔物を倒していく。


「きゃあっ!?」


 先頭を歩いていたアリシアが、突如大声をあげて立ち止まった。


「うわぁ!……ビックリした。」


「ちょっと!いきなり叫ばないでよ!」


「ごめんなさい!……って、これは……」


 僕たち4人は、目の前に現れたものを見て唖然としていた。何故なら、巨大なスライムに、地上につながる道を塞がれていたから。


「スライムだよね……?」


「えっと……はい。そう見えますね。」


「……ただのスライムじゃないわよ。こいつ……、きっと上位種よ。」


 そうなのだ。僕らの前に現れたスライムには、通常の個体にはない特徴があった。


 まず、大きさが違う。通常、スライムは両手の指先を合わせて丸を作ったくらいの大きさなのだ。しかし、今僕らの前にいるスライムは、ゆうに天井近い大きさだった。


「色が違いますね?」


「そういえば、灰色っぽい色をしているわ。──まるで、金属みたいな。」


 普通のスライムの色は緑色なんだけど、目の前にいるスライムは灰色をしている。スライムが集まってキングスライムになった場合も、緑色にならなきゃおかしいのに。


「それに、何か妙な魔力を感じる気がするんだけど……」


「私も同じことを思ったわ。」


「……」


「……」


「とりあえず倒してみようか。」


「そうですね!」


「わかったわ。」


 僕たちは出口につながる道を塞いでいる、スライムの上位種の討伐を行うことにした。


「よし!じゃあ、いくぞ!」


「はい!」


「ええ!」


「──横一線ホリゾンタリー!」


 僕はいつも通り、横一線を放つ。だけど、


「え?効いてない?」


 確かに命中したはずなのに、いっさいのダメージを与えられていないようだ。


「なにやってるの?いきましょ!」


「──風の刃ウインドカッター!!

 ──炎の礫ファイアーボール!!」


「──聖なる斬撃ホーリーブレイク!!」


 ゾフィーとエリザベートの攻撃が、確かにキングスライムに命中したのに、やはり大したダメージを受けているように見えない。


「おかしいわ!

 今までこんな事なかったのに!」


「固すぎるわ!普通じゃない!」


「とにかく、もう一度やってみましょう!

 ──混ざり合う破壊者ミックスデストロイヤー!!」


「ああ!」


「アリシアでも駄目なの……?」


 はじかれるでもなく、ぬるっと剣がスライムの体の上をすべった。


 ──突然、灰色のキングスライムが動き出した。そしてこちらに向かって、その巨体に似合わぬ動きで、ポンポンと飛び跳ねながら襲いかかってくる。


「危ない!避けろ!」


「きゃあっ!」


「くっ!」


「ぐぅっ……」


 僕はかじろうて避けることはできたけど、ぶつかられた衝撃で、アリシア、ゾフィー、エリザベートは吹き飛ばされてしまう。


「大丈夫ですか!?」


「なんとかね……」


「でも、あのキングスライム、どうしたら倒せるの?攻撃が通らないし、隙を見て逃げようにも、動きが早すぎるわ!」


「いったいどうしたら……。」


「なんであんな魔物がいるのよ!?」


「わからないけど……、何か変だよ。」


「ピィイイイヤアアアァ!」


 今度は、先程よりも速く襲ってきた。


「速いっ!?」


「マクシミリアンさん!

 一旦攻撃は諦めましょう!

 下になら降りれます!」


「そうだね!」


 急いでその場を離れて、ダンジョン階下に通じる階段に向かう。すると、さっきまで僕らが立っていた場所に、


「ピギャァアーッ!!」


 ドーン!!凄まじい勢いでぶつかった。

 ダンジョンの壁面が、スライムがぶつかった衝撃で凹み、パラパラと石が崩れ落ちる。


「うそぉ……?」


「なんて攻撃力なの……。」


「信じられないわね……。」


 コイツを倒さないと、ひょっとして地上に上がれない!?けど、無理だよ!

 ────────────────────

 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 16

 HP 167

 MP 133

 攻撃力 83

 防御力 69

 俊敏性 62

 知力 91

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く モテる(猫限定) 目薬を外さない 美味しいお茶を淹れる 体臭が消せる 裸に見える 雨予報(15秒前) カツラを見抜ける 塩が見つかる 上手に嘘がつける 快便になる 他人の才能の芽が見える 相手がほんの少し素直になる 植物が育ちやすくなる おいしい水が手に入る 悪口が聞こえる

 ────────────────────


 まだ冒険を続けますか?

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