第6話 全属性の勇者候補

「……結構じめじめしてるのね。」


 ダンジョンの入り口の洞窟に入った瞬間、エリザベートが眉をひそめる。

 まあ、気持ちのいい空気とは言えないね。


「ここはしばらくすると、門番のガーゴイルが現れるから、洞窟を抜ける瞬間は気をつけてね。」


「わかったわ。」


「必ず一発は当ててね、そうすれば、経験値を吸えるから。」


 僕はエリザベートに言った。

 エリザベートもゾフィーも狩りは初めてで、まだレベル1だと言われたからだ。


 本人がレベル1かつ、魔法スキルがレベル1だと、スライムですら一発で倒せない。

 単独では薬をがぶ飲みしないと、魔法使いは狩りにならないのだ。


 レベルが上がればHPもMPも全回復するのだけど。最初の頃のレベル上げが、魔法使いは辛いのだ。

 だから必ずパーティーを組む。


「ええ、ありがとう。」


 洞窟を抜け、地面がなだらかになったところで、壁の燭台が、ぼっ、ぼっ、と音を立てて、順番に火がついていく。


 そして火がすべてともった瞬間、天井近くの壁にとまっていた、石の魔物たちが一斉に動き出した。


「──風の刃ウインドカッター!!

 ──炎の礫ファイアーボール!!」


 エリザベートが両手からそれぞれ魔法をはなつ。同時はかっこいいなあ!

 さすが複数属性持ちなだけのことはある。


 だけどやっぱりまだ火力がたりなくて、ガーゴイルを一撃で倒すには至らなかった。


「──聖なる斬撃ホーリーブレイク!!」


 ゾフィーも攻撃をしかけるが、やはり一撃で倒すには至らなかった。


「──混ざり合う破壊者ミックスデストロイヤー!!」


 エリザベートとゾフィーが攻撃した魔物を、アリシアが一撃で一度にほふる。


「ア、アリシア、あなた、その力って……。

 ──まさか、剣技に複数の魔法を乗せているの?」


 ゾフィーが驚いた眼差しでアリシアを見つめている。


「えっと、そうですね。

 いくつかの魔法を、剣の攻撃時に加える攻撃方法です。」


「ち、ちなみに、アリシアの〈天恵〉で与えられたスキルを聞いてもいいかしら?」


「ええと……。〈火魔法レベル1〉、〈水魔法レベル1〉、〈風魔法レベル1〉、〈雷魔法レベル1〉、〈土魔法レベル1〉、〈聖魔法レベル1〉、〈闇魔法レベル1〉、〈剣聖〉でした。

 そこに幸運10倍が加わりました。」


「「「全属性!?」」」


 思わず俺たちの声が揃う。


「まるで建国の英雄騎士の再来だわ……。

 ──勇者よ、そのスキル。」


「マジェスティアラン学園に入ったら、目をつけられる危険があるわね……。」


 まったくだな。

 きっと貴族たちからの、嫉妬や、やっかみの対象になること間違いない。


 僕はまだ公爵家ということと、お祖父様の存在があるから、それでも絡んでくる人間はいるだろうけど、もしそんなスキルがあったとしても、アリシアほどじゃあないと思う。


 本来なら、僕に付いて生まれてくることを望まれていたスキルたちだ。

 僕についていたとしても、そこまでおかしいとは思われないけど、アリシアはただの平民だからな。


 それに最初から複数の魔法を1つの攻撃で使うなんてこと、出来るもんじゃないのだ。

 これも剣聖のスキルのおかげなんだろうけど、ほんとにチートだなあ。


「そ、そうなんですか?」


 目をつけられる、という言葉に恐れをなすアリシア。


「大丈夫よ、心配しなくても、私たちがそばについているから。」


「一緒のクラスになれるよう、学園にお願いしてみない?

 心配だわ、アリシアとクラスが離れるの。

 別のクラスじゃ、ずっとついてるなんて無理だもの。」


「そうね。

 頼んでみる価値はありそうね……。」


 ゾフィーとエリザベートが、2人きりで何やらヒソヒソと話し合っている。


「あ!スクロール、ドロップしましたよ!

 みんなで拾いましょう!」


 アリシアがすべてのガーゴイルを一撃で倒したので、足元にたくさんのスクロールが散らばっていた。


「そうね!買い食いの予算がこれで変わるもの、全部拾わなくちゃね!」


 僕たちは手分けしてスクロールを拾った。

 ガーゴイルの落とすものだから期待してなかったんだけど、1つだけ濃い赤のスクロールを発見した。


「これは高く売れそうね!」


「みんなで山分けしましょうね!」


 僕はスキル定着確定の、濃い紫のスクロールが欲しいです……。


 ガーゴイルの守っていた扉をあけて奥に入る。痺れ粘液を出すタイプのスライムたちが、ピョンピョンとはねていた。


「ここは僕にやらせてくれない?

 さっき一撃も当てられなかったしさ。」


「ええ、構わないわよ。」


「ありがとう!

 ──速回転斬りワールフラッシュ!!」


 飛んでくる痺れスライムたちを一網打尽にする。ボトボトとアイテムをドロップし、その中に謎の液体も3つあった。


「こ、これ、僕が貰ってもいいかな……?

 謎の液体なんだけど……。」


「別に構わないわよ?

 そんなのまともに売れないし。」


「ありがとう!

 僕は無限に入るマジックバッグを持っているから、ドロップ品はいったん、僕がまとめてあずかろうか?」


「そんなの持ってるの?

 じゃあお願いしようかしら。」


「うん、誕生日に貰ったんだ。」


「いいわね!私も欲しいな。」


 みんなが自分のバッグにしまっていたスクロールや、スライムが落としたアイテムを拾って渡してくれる。僕はそれをマジックバッグの中にしまった。


 その最中に神の福音の音がする。


 レベルが13になりました。

 HPが3上がりました。

 MPが3上がりました。

 攻撃力が1上がりました。

 防御力が2上がりました。

 俊敏性が1上がりました。

 知力が2上がりました。

 スキル、〈相手がほんの少し素直になる〉を習得しました。


 レベルが14になりました。

 HPが2上がりました。

 MPが2上がりました。

 攻撃力が2上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が3上がりました。

 知力が1上がりました。

 スキル、〈植物が育ちやすくなる〉を習得しました。


 うん、もはや何も言うまい。帰ってから飲む謎の液体に期待しよう。今日は人数もいることだし、もっとたくさん手に入れるぞ!


 僕たちは狭い階段を降りて、ダンジョンを更に下へともぐった。

 壁は土壁に苔が生えていて、妙にしっとりと柔らかかった。


 ひとつ下の階には、痺れスライムとゴブリンがいた。

 僕たちに気が付いて、ゴブリンが、ギャッギャッ!と警戒の声を発する。


「来るよ!気をつけて!」


「──風の刃ウインドカッター!!

 ──炎の礫ファイアーボール!!」


「──聖なる斬撃ホーリーブレイク!!」


「──混ざり合う破壊者ミックスデストロイヤー!!」


「──横一線ホリゾンタリー!!」


 ゾフィーとエリザベートがまず攻撃をあて、そこにアリシアと僕が攻撃を加えて倒す。まだ2人は一撃では倒せないみたいだ。


 だけどあっというまにこの階層の魔物をすべて倒してしまった。初めてのパーティーにしては、なかなかに連携が取れてるんじゃないかな?


「凄く効率がいいわね!

 どんどん倒せるのが気持ちいい!」


「油断しないでね、次々強くなるからさ。

 あ、そうだ、せっかくパーティーを組んでいるんだし、売れるようなものでもないから、これを使ってみようか。」


 僕はこの間拾っておいた、一定時間攻撃力15%アップの消耗品スクロールと、一定時間防御力10%アップの消耗品スクロールと、一定時間俊敏性10%アップの消耗品スクロールと、一定時間知力15%アップの消耗品スクロールを使った。


 パーティーを組んでいれば、使った人間だけでなく、パーティー全体にかかるのだ。


「わ!スクロールを使うのなんて初めてよ!マクシミリアン、ありがとう!」


「たったの10%から15%だけど、一撃で倒せる可能性が上がったと思うよ!

 この調子で頑張ろう!」


 スクロールって、使うと体にも直接変化のあるものなんだな。なんかほんの少し暖かくなったようにも感じるし、体に力が湧いてくる気がする。


「レベルが上がったら使わなくなるものだしね、どんどん使って稼いでいこう!

 魔物を倒し続けていれば、どうせ次々同じようなのを、拾うだろうからね。」


「早く下の階に行きましょう!

 レベルも上がったし、早く攻撃力を試してみたいわ!」


 エリザベートが一番ワクワクしている。魔法使いはレベルが上がるまで、戦力として見なされないからな、無理もない。


 下の階層に降りると、今度は痺れスライムと、こん棒を持っているのだけじゃなく、弓矢を構えているゴブリンがいた。


「──風の刃ウインドカッター!!

 ──炎の礫ファイアーボール!!」


 エリザベートの魔法攻撃が、1体の痺れスライムは倒せなかったが、もう1体の痺れスライムを一撃でほふった。


「やった!初めて自分一人で倒したわ!」


「あぶない!エリザベート!」


 ゾフィーがエリザベートをかばう。ゴブリンの放った弓矢が飛んできたのだ。


「まわりをちゃんと見てなくちゃ駄目よ、エリザベート。」


「ごめんなさい。気をつけるわ。」


「エリザベートさんに何するんですか!

 ──混ざり合う破壊者ミックスデストロイヤー!!」


 アリシアがエリザベートに弓矢を放ったゴブリンを倒した。


「私もやるわ!

 ──聖なる斬撃ホーリーブレイク!!」


 ゾフィーの攻撃が他のゴブリンを倒す。


「やった!私も1人で倒せたわ!」


「ちょっ、危ない!ゾフィー!

 ──横一線ホリゾンタリー!!」


 思わずエリザベートを振り返ったゾフィーめがけて飛んできた痺れスライム4体を切り落とす。謎の液体の瓶をドロップした。


「こいつは当たったら、痺れさせられた上に服を溶かされるんだ、気をつけて。」


「ゾフィーったら。」


 人のこと言えないわね、という表情でエリザベートが笑う。ゾフィーも眉を下げてごめんなさい、と恥ずかしそうに笑った。


 僕たちはこの階も順調に魔物を一掃し、たくさんのスクロールやアイテムをマジックバッグにつめて、下の階へと降りたのだった。

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 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 14

 HP 162

 MP 128

 攻撃力 78

 防御力 64

 俊敏性 58

 知力 87

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く モテる(猫限定) 目薬を外さない 美味しいお茶を淹れる 体臭が消せる 裸に見える 雨予報(15秒前) カツラを見抜ける 塩が見つかる 上手に嘘がつける 快便になる 他人の才能の芽が見える 相手がほんの少し素直になる 植物が育ちやすくなる

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