第5話 クールなメイド、サラ

「身の程を知れ!

 痴れ者が!」


 ドゴボコドッカーン!という、まるで爆発音のような音と共に、窓の向こうに玄関の扉と男の人が吹っ飛んだのが見える。


「また、お祖父様ですか?」


「ええ。最近また新しく、マリア様に絡んでいる男性があらわれたそうよ。」


 母が困ったように柳眉を下げる。

 母は祖母とは血が繋がっていないので、祖母をマリア様と呼んでいる。


 別にお義母様と呼んでもいいのだけど、お祖母様が元王女様だから、従順な家臣の家系出身の母は、一家揃ってマリア様と呼んでいるのだ。


 まあ、お祖母様と呼ぶのには、違和感のある幼い美少女の見た目だから、僕としてもその方がいいかな、と思っている。


「急いで業者に来てもらわなくてはね。

 今日中に扉、なおるかしら……。」


「多分、大丈夫だと思う。」


 うちの出入り業者のザッカス親方は、うちがしょっちゅう、こうした修理を頼むものだから、ドアも窓もあらゆる素材を5つはストックしてくれているのだから。


「そうね。

 朝食の前に急いで頼まなくちゃ。

 ああ、朝から騒がしいこと。」


 母は食堂を出て行った。ちなみに父は既に騎士団の仕事で家を出ていていない。

 朝食を一緒に食べるのは、父の休日くらいのものだ。


 それも責任者として、有事の際はたびたび呼び出されるので、幼い頃から父と過ごした時間はあまりない。


 せいぜい剣の訓練を見て貰う時くらいだ。

 剣の稽古の為には積極的に時間を取ってくれるから、幼い頃の僕は、父と一緒に過ごしたくて、剣の練習に励んだのだった。


 まあ、今でこそ、僕も剣は大好きになったから、英才教育はありがたかったけどね。

 おかげで何のスキルがなくても、そこそこ戦えるまでにはなったんだし。


 母が食堂から出て行ったあとで、僕と祖母がテーブルについて、給仕が始まった。

 そこに祖父が戻ってくる。


「──まったく。こりん奴らだわい。

 マリア、安心せい。

 しつこい男は追っ払ったからな。」


「ありがとう。……怖かった。」

 上目遣いでうるうると祖父を見る祖母。

 ……いや、いくらでも返り討ちに出来ますよね?お祖母様。


 これが男をたてるということだろうか。降りかかる火の粉は自分で払えるお祖母様だけど、こと異性絡みとなるとお祖父様を頼る。


 お祖父様もこう見えてモテるのがわかる、白髪に薄い頭皮ながら、今なお頑健な体つき。僕も早くああなりたいものだ。


 白髪でも筋肉が凄いと、めちゃくちゃ若々しく見えるというのを、僕は祖父で知った。

 何なら父より筋肉が凄いのだ。


 いずれ祖父の頭髪だけは受け継ぐと言われている僕としては、モテ要素の1つとして筋肉を得ることはさけて通れないのだ。


「ワシの分も料理を運んでくれ。」


 お祖父様がお祖母様の隣の椅子にドッカと腰掛け、何事もなかったようにメイドたちの給仕が始まる。


 彼女たちも落ち着いて慣れたものだ。

 スワロスウェイカー家において、これは日常の光景だからな。

 慣れて貰わないと困るんだけど。


「マクシミリアン様、本日のご予定をお伺い出来ますでしょうか。」


 僕専属のメイド、サラが、僕の後ろに立ってたずねてくる。ショートカットの切れ長の目をした銀髪に緑の目の美人で、僕より3歳年上のクールなお姉さんだ。


 彼女の親も代々スワロスウェイカー家につかえていて、小さい頃は幼馴染の1人として遊んで貰ったりもした。


 ……一緒にお風呂に入ったこともある。


 美しく清らかなお祖母様が近くにいなければ、僕は彼女が初恋の相手になっていたんじゃないかなと思う。それくらい美人だ。


 僕がお祖母様を好きになった時、一時期冷たかったこともあったけど、従者の立場をわきまえて、その後優しくなった。


 けど、どっかその時から距離を感じてもいる。それまでは、単なる幼馴染という感じだったのに、明らかに従者として一線を引かれたというか。


 僕はそれが少しさみしく感じているのだけれど、彼女は自分の立場をまっとうしているだけなのだから、僕がそれを言う権利はないんだよね。


 けど、2人きりの時くらい、幼馴染として会話したいなあ、とも思う。

 いつかそんな日が、またくるといいのだけれど。


「今日は同級生たちと、ダンジョンにこもる予定なんだ。」


 あれから4日経っている。アリシアとバイエルン姉妹の防具も完成している筈だ。

 同年代の子たちとパーティーで狩りなんて初めてだから、僕はワクワクしていた。


「お帰りはいつ頃になられますか?」


「うーん、日が暮れる頃までには帰ってくるつもりだよ。」


「かしこまりました。」


 そう言って、あとはまたじっと後ろに立っている。

 メイドと主人は一緒に食事をしない。

 分かってるけど、僕は食事をしない人に近くに立たれていることに、未だに慣れない。


 ほんとはコックス防具店でアリシアの防具を注文したら、単独でダンジョンにこもろうと思っていたのだけど、ふと、思ったのだ。


 アリシアの幸運10倍があれば、一緒に狩ることで、かなりいいスキルをドロップしやすくなるんじゃないか?と。


 完全に他力本願だけど、一度試してみる価値はある。

 単独でダンジョンに行くのを取りやめて、今日という日を楽しみにしていたのだ。


 レベルの記載のあるスキルは、自分自身のレベルが10上がるごとに、1レベル上がる仕組みなのだ。


 いいスキルを手に入れる前にどんどんレベルアップしてしまったら、先々そのスキルを育てるのが困難になってくるからね。


 おまけに魔法のスキルがあると、その分知性やMPが上がりやすくなる。

 お祖父様やお祖母様みたくカンスト出来るわけはないんだし、早めにいいスキルを手に入れるにこしたことはないのだ。


 僕は食事を終えて部屋に戻り、外出着に着替え、防具を身に着け、イグナイトスティールを携えて、いざ出発だ!


「──お待たせ!」


「私たちも今来たばかりよ。」


「パーティーで狩りなんて、初めてのことで楽しみです!」


「ええ、私たちもよ。

 今日はよろしくね。」


 中央広場の大木の下に集った、僕と、アリシアと、バイエルン姉妹が挨拶をかわす。


「どこのダンジョンに行くつもりなの?」


「初心者向けと教えて貰ったダンジョンに行く予定です。最下層にはサイクロプスが出るところです。」


「レアなスキルやスクロールを落とす可能性のある魔物がたくさんいるからね。

 アリシアはこの間そこで、幸運10倍のスクロールをドロップしたんだよ。」


「幸運10倍ですって!?」


「レア中のレアじゃないの!」


「……運が良かったんです。」


 アリシアはえへへ、と頭の後ろに手を当ててはにかむ。


「いいスクロールをドロップしたら、たっぷりお小遣いが稼げそうね!」


「私たち、あんまりお小遣いを貰えていないから、ダンジョンで稼ごうと思っていたところなのよ!」


 貴族の令息令嬢とはいえども、自分の自由に使えるお金を与えて貰える子どもは限られている。


 夜会用の礼服だとか、髪飾りだとか、必要なところにはお金をかけてくれるけれど、それ以外にはお金をかけない親も多い。


 爵位はあっても、領地にお金があるかどうかはまた別の話だからだ。

 商工会に所属している、事業を営む男爵の子息のほうがお金を持っている、なんてことも珍しくないのだ。


 ……まあ、それでも、王家をのぞけば、ベルチェノワクロイス王国で、うちに勝る資産を持ってる貴族はいないんだけどさ。


 稼ぎのある下位貴族の令息が、上位貴族の令嬢を妻にする、なんていう政略結婚が、貴族の間ではよくおこなわれている。


 その点で言うと、バイエルン伯爵家は、貧乏という程ではないけれど、お金がありあまっているほうではない。


 そこに来てこの2人の美貌だ。マジェスティアラン学園に入ったら、成金貴族からの婚姻の申込みが殺到するだろうなあ。


 バイエルン伯爵は清貧をよしとする人だから、お金に目がくらんで娘を売り渡すような真似をする人ではないけどさ。


「お金を手に入れたら、私、買い食いというものをしてみたいの!」


「子どもの頃からの憧れだったものね、私も楽しみだわ。」


 エリザベートの言葉に、ゾフィーが手のひらを胸の前で合わせてうなずく。


「わ……私もしてみたいです……。」


「アリシアも?」


「自由になるお金とか、なかったので……。

 うちは貧乏だから……。」


 恥ずかしそうにしながらも、アリシアも楽しみから頬が紅潮している。


「そうね、じゃあ、今日のダンジョン探索を終えたら、みんなで町に買い食いに出ましょうか!」


「楽しみね!頑張りましょうね!」


「はい!」


 エリザベート、ゾフィー、アリシアが盛り上がっている。女子だけの会話って、なんか入りにくいな……。


「マクシミリアンも、もちろん一緒に来るでしょう?」


「ぼ、僕?僕も行っていいの?」


「もちろんよ。」


「当たり前じゃない、パーティーの仲間じゃないの。」


「一緒に行きましょう!マクシミリアン!」


 うわあ……。めちゃくちゃ楽しみだ。

 僕たちは歩きながら、アリシアと出会ったダンジョンへと向かった。


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 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 12

 HP 157

 MP 123

 攻撃力 75

 防御力 61

 俊敏性 54

 知力 84

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く モテる(猫限定) 目薬を外さない 美味しいお茶を淹れる 体臭が消せる 裸に見える 雨予報(15秒前) カツラを見抜ける 塩が見つかる 上手に嘘がつける 快便になる 他人の才能の芽が見える

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