第4話 聖騎士候補と賢者候補

 僕は自宅の自分の部屋に戻ると、机の上に甘い飲み物を準備しつつ、ダンジョンで拾ったスクロールを一つ一つ確認していた。


 定着スクロールと、消耗品タイプのスクロールは、そもそも色からして違う。

 スクロールは色の濃さでレア度が違う。


 攻撃強化は薄い桃色で、防御強化は薄い水色、瞬間移動とかの特殊なやつは薄い緑色をしている。


 ちなみにゴミスクロールと呼ばれるタイプの、しょうもないやつは薄い茶色だ。茶色がたくさんあると、それだけで萎える。


 レアなスキルの定着スクロールは、濃い紫色をしている。

 当然アリシアが拾った幸運10倍の定着スクロールは、濃い紫色をしていた。


 あんな初心者向けのダンジョンでも、出る時は出るのだ、レアなやつも。

 それがあるから期待せずにはいられない。


 僕が拾ったスクロールは、大半が薄い茶色をしていて、少しだけ薄い桃色と水色と緑色のものがあった。


 これは売り物になるようなものじゃないから、ダンジョンで今後狩りをする時に使う用だな。今の僕なら、攻撃力10%アップの消耗品スクロールでも、地味に使える。


 けど、僕の今回のお目当てはスクロールじゃなかった。

 色を見た瞬間レアじゃないと分かってしまうスクロールと違って、僕は今回謎の液体をドロップしているのだ。それも2つも。


 謎の液体は、効果の分かる定着スクロールとは違って、飲んでみるまでスキルが分からない。


 だから売るとしても二束三文。それでも何らかのスキルは付くアイテムなのだ。

 運に期待してお安い謎の液体を大量に購入して、レアなスキルを狙う人も少なくない。


 実際、お祖父様の持つスキル〈攻撃力10倍〉も、謎の液体の瓶の中身を飲んで手に入れたものだ。もちろん飲んだ量は僕とは比べ物にならないけれど。


 身近な人がレアなスキルを手に入れているのを知っているから、眉唾物の伝説なんかじゃなくて、実際に手に入る可能性があるものだって思えるのがいいよね。


 僕は謎の液体の瓶をあけて、グビグビッと2本を一気に飲み干した。


 ウッ……。ま、まずい……。


 お祖父様から話を聞いて、ある程度覚悟はしていたけど、予想以上だなあ……。


 謎の液体は、緑色のドロッとした苦味のあるもので、とても美味しいなんて思えるもんじゃない。


 僕はスキルがつくって知ってるから、こうして飲めるけど、最初に飲もうと思った人って、勇者以上に勇者だと思う。


 どれだけ食べ物に困っても、これで飢えをしのごうとは思えないってくらいには、臭くて不味くて飲めたもんじゃないのだ。


 僕は用意しておいた甘い飲み物を一気に飲み込んで、謎の液体の後味を消した。


 ふう……。ちょっとはマシになったよ。


 口の中に苦味は残ったままだったけど、それでもまだ、甘い飲み物を飲む前よりは、口の中がマシになった。


 続けざまに神の福音の音がする。

 レベルアップの時だけでなく、こうしてスキルを新たに手に入れた時にも、神の福音の音は聞こえるのだ。


 スキル〈快便になる〉を習得しました。

 スキル〈他人の才能の芽が見える〉を習得しました。


 ……うん、最初っからうまくはいかないよね。こんなもん、こんなもん……。

 だけどちょっぴりだけ期待をしていたから、やっぱり少しはショックだった。


 謎の液体を飲んでえられるスキルは、大半がこんなおかしなやつばかりなのだ。

 レアスキルを手に入れるまでに、お祖父様もたくさんのユニークスキルを手にしたらしい。


 僕はどうせレベルアップしてえられるスキルが、謎の液体を飲んだのと変わらないんだから、まだそれを飲んでるのと同じだと思えば、可能性も見えてくるってものだよな。


 そのうちきっと、使い物になるスキルや、レアなスキルにも当たる!……筈。


 明日はアリシアと一緒に防具屋を見に行く予定だ。今度、と言われたけど、まだ学校が始まる前で予定もないし、アリシアも予定がないというから、明日ということになった。


 僕の防具も作ってくれた、父の所属する騎士団にも防具をおさめている、コックス防具店にアリシアを連れて行く予定だ。


 特にそこの店長のコックスさんは、腕を掴んだだけで体型をはかれるという特技の持ち主で、女性騎士から人気らしい。


 成人男性に胸の大きさをはかられなくてはならないという、思春期の女の子には恥ずかしくてたまらない、防具作成の為の正確な採寸をさけることが出来るのだ。


 悪質な店になると、採寸にかこつけてベタベタ体を触ってくる店員なんかもいるらしいからな。信用出来る店に連れて行ってやりたいと思ったのだ。


 だいぶ疲れていたのだろう、お風呂に入った途端、湯船の中でうっかり寝てしまった僕は、慌てて風呂からあがり、髪を乾かすのもそこそこに、ベッドに倒れ込んだのだった。


 ──次の日、僕は朝食を食べて身支度を整え、防具を身に着けて、イグナイトスティールを腰に携える。


 アリシアの防具を注文したあとで、またダンジョンにこもるつもりなのだ。

 昨日はスクロールも謎の液体も全部ハズレだったし、早くまた新しいのをドロップしなくては。


 僕が待ち合わせ場所の中央広場の大木の前についた時、アリシアはまだ待ち合わせ場所にいなかった。


 早く来すぎたかな?

 まあ、買い物が終わってもダンジョンに行く時間はじゅうぶんあるし、のんびり待つとするか。


 そう思って、待ち合わせ場所に立っている僕に、すぐ横に立っていた女の子が近付いて来て、クイッと袖を引っ張ってきた。


 なんだろうと思って振り返ると、可愛らしいワンピースを着た女の子が、上目遣いに、にくらしげに僕を睨んでいる。


「……気付かないなんて、酷いです。」


「ア、アリシア!?」


 昨夜とはうってかわって、髪の毛を可愛らしく編み込んでいて、ウエストが絞られているせいで、豊満な胸元が強調されている。


 か……、かわいい!!


「ご、ごめん!あの、その……。

 可愛すぎて、誰かわかんなかった……。」


 僕は正直に、慌ててそう言ってしまった。

 アリシアはポッと頬を染めて、


「なら、許します。」

 と言った。


 女の子って、髪型や服装ひとつで、こうも変わるもんなんだなあ……。

 元気で素朴な感じの女の子だと思っていたのに、今日は妙におしとやかな感じだ。


「おすすめの防具屋さんに、連れて行ってくれるんですよね?」


「う、うん。そこの店長さんは、腕がいいだけじゃなくて、採寸しなくても体型に合った防具を作れる人でね。

 女性騎士に凄く人気なんだよ。」


「そうなんですね!

 採寸がないのは、ありがたいです。

 前の防具を作った時、ベタベタ触られて嫌だったので……。」


 こんなに可愛い女の子だもんなあ。

 隙あらば触ってやろうと思っている男たちからしたら、採寸なんて絶好のチャンスだろうからな。


「うん、だから安心してね。

 ──あ、ここだよ。」


 僕はアリシアの前を歩いて、コックス防具店の扉を押して中に入った。

 中には既にお客さんがいた。


 一人は普通のポニーテール、一人は三編みポニーテールの、ツリ目の双子だ。どっちもめちゃくちゃ可愛かった。


 あれ?ひょっとして、この2人って……。


「ではバイエルン様、こちらが控えとなりますので、3日後以降に再度当店にいらしてください。」


 やっぱりだ!ゾフィー・バイエルンと、エリザベート・バイエルン姉妹だ!

 噂以上に可愛いなあ!

 あと、……おっきいなあ、胸元が。


 2人も採寸しなくていいって噂を聞いて、防具を作りに来たのかな?

 そんなことを考えながら、じっと2人を見ていると、普通のポニーテールのほうと目が合ってしまった。


「──何?」


 ジロリと睨まれる。初対面の女の子をジロジロ眺めちゃうなんて、失礼だったな。


「あ、ご、ごめんね!

 僕はマクシミリアン・スワロスウェイカーで、こっちの彼女は──」


「アリシア・スコットです。

 マジェスティアラン学園に入学予定です、よろしくおねがいします。」


「そうなの?私たちもなのよ!」


 屈託のない笑顔で、三編みポニーテールのほうが、アリシアに笑いかけてくれる。


「私はゾフィー・バイエルンよ。」

「私はエリザベート・バイエルン。

 私のほうが妹よ。」


 三編みポニーテールのほうがゾフィーで、普通のポニーテールのほうがエリザベートか。よく似てるけど、ゾフィーのほうが少し優しそうな感じがするな。


「あなたも防具を作りに来たの?」

 ゾフィーが笑顔でアリシアに話しかける。


「はい、一度作ったんですけど、サイズが合わなくなってしまったのと、昨日ダンジョンで駄目にしてしまって……。

 そしたら、マクシミリアンが、ここの防具屋さんを紹介してくれたんです。」


「そうだったの、私たちも昔作ったやつが合わなくなってしまって。

 それで作りに来たのよ。」

 エリザベートが言う。


 成長著しい年齢だものなあ。

 色々と。


「あなたは……、スワロスウェイカーってことは、建国の英雄騎士の……?」

 ゾフィーが初めて僕を見る。


「あ、うん、祖父です。

 で、でも、僕はあんまり大した存在じゃないから、期待しないでね?」


「そんなこと言って、お父様も騎士団長でしょう?凄いじゃない。」


「建国の、英雄騎士……?騎士団長?

 マクシミリアンって、なんか凄い人と親戚なんだね?」


「あなた、フェルディナンド・スワロスウェイカー様をご存知でないの?」

 ゾフィーが驚いた顔をする。


「私の家族は、移民だから、この国の歴史とか、まだそんなに詳しくなくて……。」


「この国で最も有名な方よ。

 彼はその方のお孫さんなの。」


「エリザベート。」


「あ、そうね。」


 僕を目の前で、彼、と呼んだことを、エリザベートがゾフィーにたしなめられる。


「──改めまして。バイエルン伯爵の娘、ゾフィー・バイエルンでございます。

 マクシミリアン・スワロスウェイカー公爵ご子息にご挨拶申し上げます。

 お会いできて光栄です。」


「バイエルン伯爵の娘、エリザベート・バイエルンでございます。

 マクシミリアン・スワロスウェイカー公爵ご子息にご挨拶申し上げます。

 ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」


 と、丁寧にカーテシーをして挨拶をしてくれた。本来令嬢と子息であれば、公爵子息の方が地位が上だから、先に2人が僕に挨拶をしなくてはならない立場なんだよね。


 というか、僕がスワロスウェイカーじゃなかったら、このまま話しかけて貰えなかったんだろうか。ずっと話しかけて貰えなかったし。そう思うと悲しい。


「──マクシミリアン・スワロスウェイカーです。今日はアリシア・スコットの友人の立場でこの店に来ておりますので、どうぞ気楽になさってください。」


 僕だって、別にこういう挨拶を、しようと思えば出来るのだ。貴族の子息として、必要な場面もあるからな。


「……というか、学園に入ったら同級生なんだし、くだけた話し方をしない?

 貴族同士の話し方、苦手なんだよね。」


「そういうことなら……。わかったわ。

 私たちも普段はこういう話し方だもの。」

 エリザベートがそう言ってくれる。


「あの、私たち、私の防具が出来たら、一緒にダンジョンにもぐる予定なんです。

 学園入学までに、少しでもレベルをあげておきたくて。

 よかったら、お2人も一緒に、パーティーを組みませんか?」


 アリシアが無邪気にそう言う。

 美少女3人とパーティーだって?


 学園のやつらに見られたら、嫉妬されそうだけど、今ならまだ学園入学前だし、誰かに見咎められることもないだろう。


 今のうちに仲良くなっておきたいなあ。

 僕としても大歓迎である。


「いいわね!あなた、噂の特待生でしょう?腕前を見たいと思っていたの!」

 エリザベートが嬉しそうに言う。


「そうね、こちらこそ、ぜひお願いしたいくらいだわ。4日後はどう?私たちも防具が出来てから合流したいから。」

 ゾフィーが言う。


「あ、そうか、私の防具って……。

 今から注文したら、2人の後に作りますよね。そしたら間に合わない……?」


「これからお願いしたとして、いつぐらいに出来そうですか?」


「スワロスウェイカー様のご依頼ですから、お2人に間に合わせますよ。

 3日後に取りにいらしてください。」


 コックスさんがそう言ってくれる。

 これはお祖父様というより、騎士団長の父親絡みだろうなあ。上得意だもの。


「じゃあ、4日後に、広場の木の前で会いましょう。よろしくね?」


「あ。こちらこそ、よろしく。」

 ゾフィーが差し出してくれた手を握る。


 普通令嬢の手なんて握らないけど、パーティーメンバーは組む時に、こうして握手をするのが決まりごとなのだ。


 すると。

 ゾフィー・バイエルン。

 才能の芽、〈聖騎士〉と表示される。


「楽しみだわ。よろしくね?」

 エリザベートの差し出した手を握る。


 すると。

 エリザベート・バイエルン。

 才能の芽、〈賢者〉と表示された。


「聖騎士と、賢者……?」


 僕の独り言を、2人は聞き逃さなかった。


「マクシミリアン、あなた、鑑定を持っているの?」


「え?い、いや、なんとなく、2人はそれが似合うなあって……。」


「私、鑑定で〈聖魔法レベル1〉と、〈剣士〉だと言われたのよ。」

 とゾフィー。


「私は〈火魔法レベル1〉と、〈水魔法レベル1〉と、〈風魔法レベル1〉だと言われたわ。目指すなら、ゾフィーが聖騎士で、私は賢者が最終目標になるともね。」


「そ、そうなんだ……。」


「鑑定がない人から見ても、私は賢者なの?

 私だって騎士が良かったのに。」

 エリザベートが悔しそうに、親指の爪を噛みながら言う。


「わ、私!私はなんですか!?」

 アリシアが食い気味に近寄ってくる。


「ゆ、勇者とかじゃないかな?」

 なんとなくで答えてしまう。


「勇者……!はい!がんばります!」

 アリシアは嬉しそうだった。


 いいなあ、2人には聖騎士と、賢者の可能性があるのか……。

 自分の才能の芽も見れたらいいのにな。

 なんで他人限定なんだよ!


────────────────────

 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 12

 HP 157

 MP 123

 攻撃力 75

 防御力 61

 俊敏性 54

 知力 84

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く モテる(猫限定) 目薬を外さない 美味しいお茶を淹れる 体臭が消せる 裸に見える 雨予報(15秒前) カツラを見抜ける 塩が見つかる 上手に嘘がつける 快便になる 他人の才能の芽が見える

────────────────────


 はあ……。スキル集め頑張ろう。

 僕はアリシアの腕を掴んだだけで、採寸結果表に数値を書き込むコックスさんに、驚いて目を輝かせるアリシアを見ながら、そう思ったのだった。


 まだ冒険を続けますか?

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