第二章・A 『第一次世界大戦』
今から約三百年前のある日、ある国が建国された。魔族連合国と名付けられたその国は、魔族を民とした、全く新しい土地に出来た国だった。魔族とは、人間以外の魔法を使う知的生命体の種族の総称である。単体では人間よりも強いことが多いが、寿命が長い為か数は少なく、もっぱら村や集落のような少人数のグループで種族ごとに群れて暮らすため、今回のような国として様々な種族の魔族が群れるのは初めての事だった。
建国者はサトウと名乗る人間で、転生者だった。経緯や正確な理由は不明で、魔族の保護と地位獲得のための建国だと、演説でその人物は語っていた。その当時、人間による魔族への攻撃及び侵攻は、一部の国の人間の中でも反対の声が上がっており、奴隷廃止を求める声と合わさって社会問題になろうとしていた。
これを受け、各国の首脳陣はこの新しく出来た国を脅威として判断し、人類連合を設立し、魔族による侵攻に対抗するための同盟を結成。(最も、これには他にも要因があったのだが)一部の国は不参加を表明したが、概ねほとんどの国が人類連合に参加することになった。
それから、数年の時が流れたある日、事件が発生した。人類と魔族の運命の転換点となった、一つの事件――魔族の王による、王女誘拐殺害事件である。内容はその名の通りで、魔族連合国の王である転生者のサトウが、ランド帝国の王女を誘拐したうえで殺害、その死体は発見されず、凌辱や猟奇的な殺人との噂もあった。
この事件にランド帝国の王は激怒。同盟国に呼びかけ魔族連合国に宣戦布告――ここに、人類と魔族の第一次世界大戦が勃発した。主な戦場地となったのはランド帝国と魔族連合国の国境線。そして、もう一つが、バイズ共和国国内であった。と言うのもバイズ共和国は元々、今の領土の北側半分しかなく、南側は魔族が支配していた。と言っても、彼らは元々この世界の人類の歴史にしては珍しく共存関係にあり、国をそれも認めていた。しかし、魔族連合国建国の際に、この南側も魔族連合国に編入することになり、結果としてバイズ共和国は世界大戦に巻き込まれ、内戦のような戦いが起こった。
その戦いは凄惨を極めた。昨日、隣で笑い合った隣人が、明日には殺す殺されの敵同士となる。道には死体が転がり、家の壁は血で塗られ、棚には誰かの頭蓋骨が飾られた。
非日常は、正常を異常に、異常を正常へと変化させる。戦争は長く続いたわけではなかったが、それでも、人類と魔族が互いに互いを激しく忌み嫌うようになるまでには、十分な時間だった。
戦争は、数か月で人類側の勝利という形で幕を閉じた。魔族一人一人は人間よりも強かったが――戦争は個では決まらない。人類は数も多く、練度においてもはるかに上を行き、経験も魔族軍とは圧倒的な差があった。一方、様々な種族で構成され、使う言語もまちまちな魔族軍は、戦場において非常に非力な存在だった。人間達が使う戦法、武器、兵器、地の利。すべてにおいて魔族軍ははるか劣っていた。
初期の方こそ、魔族軍はその強大な個の力で優勢であったが、戦争が続くにつれ、様々な面で劣る魔族軍は次第に劣勢になっていき、領土の大部分を占領された時点で、これ以上の戦闘は困難だと判断した魔族連合国首脳陣は無条件降伏を宣言した。そうして、第一次世界大戦は終結した。
その後の講和会議で、魔族連合国は領土の三分の二を失い、様々な制約や賠償の元、レグム王国の植民地として、緩い統治を行われることになった。現在は十五年ほど前に統治は解かれ、一国家として独立を果たしてる。
そして人類は、この悲劇を繰り返す事の無いようにと、ある国際法を制定した。転生者の扱いや処刑に関する転生者法と、人類と魔族の取り決めを決めた人魔法だった。この法は人類は魔族より上位の存在として、様々な優越権を認める法だった。幼少期からの徹底的な反魔教育により、人は魔族を虐げるようになった。税金、食事代、医療は倍以上の値段を取られ、公園のベンチで座る事も認められなくなった。元々、人間の国で暮らす魔族も決して少なくは無かったが、この法が制定されてからしばらくして、暮らす事が困難になった魔族は、魔族連合国へ亡命し、人間の国から魔族はほとんど姿を消した。
ただし、バイズ共和国は別だった。この国は、戦争後に南側の部分を併合し、人魔法を適用したため、一部の魔族たちは、自分達の故郷から出て行く事に納得しなかった。反魔政策は苛烈を極めたが、結局、今日に至るまで、バイズ共和国は魔族を完全に追い出す事は叶わなかった。
そしていつしか人は、この国をこう呼ぶようになった――曰く、『逢魔の国』と。
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