第15話

籠屋縁のお客様は、お忍びで来られる神々や権力者たちから、極一般的にも開放されていて、閑古鳥とも、程遠い。

手鞠は、先生のお勉強を終えてから、兄の部屋へ向かう。

喜春ではなく、稲穂の方だ。

稲穂の部屋は、稲穂が趣味にしている読書の本棚が、四方に、設置され、すぐに、読めるようになっている。

「いっくん。遊んで。」

稲穂は、何かを書いていたようで、筆を止めた。硯にたっぷりと、墨を入れ、筆に、墨をつけている。

手元には、半紙が置かれ、文字の羅列。

「何してたの?」

「勝手に入っちゃダメだとあれほど、言ったのに。まあいいや。〝日記”だよ。」

稲穂の力は、喜春とも、手鞠とも異なる。

特殊な力である。

起きた出来事を忠実に、半紙に筆を滑らすと、スラスラと、文字が踊るように現れ、“この国”で起きたことが、鮮明に写し出される。

稲穂の仕事であり、稲穂のそれは、国の機関に提出されていく仕組み。

詳しいことは、よくわからないが、事態の把握や今後の対策等に役たてるそう。

「いつ見ても、いっくんの文字は、生きてるみたいだね。」

「そうだね。意思があるみたいだよ。」

半紙に書かれた文字は踊るように動いて、忙しない。

書き終わると、ビタッと貼り付く。どんな原理だろうと、榛家七不思議の一つ。

「五頭橋で、窃盗の容疑で、捕まえた犯人は、屯所行きみたいだね。姿は、鼠で、すばしっこい。窮鼠かな?」

「五頭橋だと離れてるけど…あ。鉱山近くの?」

「そう。鉱山で働く人々を狙ったり、一攫千金を狙っていた奴等に、荒稼ぎしてたみたいだね。」

我が家の宿の冒険者たちも訪れる有名な鉱山だ。豊富な資源を有していて、近隣諸国から、やって来る。ちなみに、うちにちょっかいを出す国もあるが、黙らしている。

「いっくんのその情報は誰から聞いてくるの?」

「内緒。」

艶然に微笑む兄に釈然としない。


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籠屋縁にようこそ!! 春子 @0525-HARUKO

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