第9話
手鞠の朝は、誰かにいつも起こされている。
稀だったり、実兄だったり。
今朝は、実兄の稲穂だった。
喜春が少し、やんちゃタイプの勝ち気な顔立ちであるならば、稲穂は、中性的で、同じように綺麗に整った顔立ちで、柔和。
「起きな。お前は、いつになったら、自分で起きれるの?」
「…いっくん。朝になるのが、早いの。」
「夜更かしをしてるからだよ。喜春が保護した人間の縁切りをしたんでしょ?あの人がどんな選択を選ぼうが、横槍はダメだからね。」
「わかってるよ。」
布団からズリズリと這い出てきた妹に、着替えを促す。水色の涼しげな着物だ。
「今日はいい天気だよ。晴天。」
「お腹空いた。」
「お前は風情を学んだ方がいいね。着替えたら、お食べ。」
「いっくんは?」
「一緒に食べてあげるよ。今日はお前が好きな焼き鮭があるから。」
「やったあ!」
「ハイハイ。支度しなさい。稀。あとは頼んだよ。」
「かしこまりました。」
一旦、出ていく稲穂。代わりに入ってくる稀。
「稀は食べたの?」
「あとで頂きますよ。今日のは、いい鮭が手に入ったそうで、脂がのって、美味しそうですよ。」
「ふふ。」
脂ののった焼き鮭に大根おろしもあれば、良いコンビ。
「かか様はお帰りになった?」
「いえ。まだ掛かるかと思われますね。」
母は今、大事な会議に出席をしており、不在。
稀はキビキビと用意を済ませ、二人分の配膳を並べていく。
稲穂も前に座り、頂く。
「撫子ちゃんから文は届いたの?」
撫子は、手鞠の親友である。隣の大きな街に住んでいて、大店の娘。
「うん。おじさまが会議に出てるから、中々、返事は難しかったみたいだけど、おばさまが着いてきてくれるって。楽しみにしてるって。」
撫子は深窓のお嬢様であり、勝手に出歩けない。家とは違う。
「おばさまがついでに、着物を新調したいって言うから、付き合う。」
「それはよかったね。」
撫子の父の娘愛は、有名である。
本人は、朗らかとした優しい紳士な方ではあるけれど。
「あんみつ屋さんに行きたい。」
里一番の甘味処。
お気に入りは、あんみつ。
しかも、そのあんみつに、クリームたっぷりの蜜柑も多めにしてもらうのが、特にお気に入り。
くどくない甘さなので、ペロリと平らげてしまう。いつも不思議である。
「忘れてるようだから、釘を刺すけど。今日は先生がいらっしゃるんだから、お勉強に勤しみなさい。」
「…。」
途端に大人しくなる。
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