第5話


 思い切り、後ずさってしまった。

 驚きを隠せない。 足音がしただろうか。

 それにいつ、入ってきた?

「手鞠。お前、勝手に入ってくるな。」

「ブーッ。春ちゃんばっかり、ズルい!一人占めはいけないんだよ。」

 困惑する自分を放って、二人はなにやら話している。

「ごめん、妹の手鞠。手鞠。挨拶。」

榛聡一郎はしばみそういちろうヶ娘、手鞠。話は聞いたよ。その願い、聞いてあげる。」

 手鞠と言う少女は、ニコニコ。

「えっと…?」

「今晩があんたの正念場になるよ。血眼になって探し回ってる奴等から、決別したいなら、腹を括りな。ここにいる以上、あんたは、もう、帰れないから。」

 喜春の発言が頭に入らない。…え?

「人にはね?嫌でも縁があるんだよ。絶ちきりたくとも、断ちきれない。でも、そんな時に、この私、籠屋縁のにお任せあれ!どんな悪縁も、絶ちきる!」

 ビシッと指を立てる少女。

「その補佐はお任せあれ!蛇の目゙イサメ"が、助け立ち致す。」

 ビクッ。またいつ、入ってきたのか?

 ギョロっとした目が特徴的で、赤と黒の混じった着物を着ている少年。

「蛇の目…蛇?」

「如何にも。私自身は、蛇の妖怪。蛇の目は、この目は、、目利きが効くんですよ。お見知りおきを。」

 そのギョロ目は、何だか、不気味に映る。

「喜春くんも…妖怪なの?」

「どう見える?」

 フッと喜春は笑った。


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 手鞠は、水晶玉から、映る景色をケタケタと見ながら、見ていた。

 美織から聞いた話である程度は、聞いていたが、神経質そうな男と嫌みたらしい女だ。

 美織は、保護されて間もないが、一目見ただけでも、ギスギスに痩せすぎており、暴言や暴力などに、疲弊も相まって、弱りきっている。髪に艶はなく、肌はボロボロ。子を護るだけの一つで動いている。

「嫁があんなにギスギスなのに、よくもまあ、仕立てのいいお洋服を着れるね?」

「見てみなよ。このおばあさんなんて、趣味悪い洋服を着てるよ。あれはなんだろう?見たことない指輪だ。」

 迷いこんだ二人を、見ながら、クスクス、笑う。




 美織は、喜春から部屋から出るなと釘を刺された。

 喜春が、襖に、凭れかかるようにいて、目を瞑っている。

 不安で、眠ってる我が子を抱き上げ、不安げに、見つめている。

「…昼間の話は本当…なの?」

「嘘ついて、どうすんの。為るようにしかならないんだから、待ってなよ。」

 そうなんだけれど、何だか、ざわざわして、不安定。

「…水鏡見てみなよ。」

 声をかけられたので、机の上に置かれた、盆に水が張られていて、すると、靄がかかり、次第に何か、浮かんできた。

「…雅彦さん…お義母さん…。」

 水鏡に映った姿は、と同じの服装のまま。

 喜春が隣に座り込む。

 手鞠とイサメが、映っていた。


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