第2話

その少年は、じっと見つめて、見透かれてる気がする。

へばりつく喉の渇きを意識しながらも、何とか、口にした。

「お願いします。今夜一晩だけでも、泊めて頂くことは出来ませんか。」

「あんた、金持ってるの?」

「あ…いえ…今は…ですが、その一晩、泊めて頂ければ、何かしら、お手伝いをします。お願いします!」

戻ったにしても、自由な金など、ありはしない。一宿一飯の恩義として、手伝いぐらいしか、出来ないが、飯炊きだろうが、掃除だろうが、やってみせる。


少年は、はあとため息をつく。

「あんた、そんな赤ちゃん、抱いて、追い返ししたら、うちの評判に悪いんだよ。良いから中に入りな。」

「いいんですか?!」

「いいも何も…いい?夜だから静かにしてくれる?お客様に迷惑がかかるから。いいね?」

「はいっ。」

深く、おじきする。

失礼して、門の中にいれて貰うと、静かに門がしまった。

少年は珍しい手燭しゅしょくを持ち、灯りが、ほんのりと、灯す。

「もう灯りは大分、落としたから、躓かないように、ついてきて。」

「はい。」

ゆっくりと少年の後ろをついていく。

「あ。あんた、裸足だね。これ、履いて。」

差し出されたのは、下駄だ。

「ありがとうございます…。」

履き慣れない下駄は、正直、歩きづらいが、ここまで、走ってきたので、足の裏は、擦り傷が出来ていて、痛い。

「今が冬じゃなくてよかったね。二人とも死んでるよ。」

確かに、冬じゃなくてよかった。


裏口から、建物内に入ると、静かな空間で、造りが、モダンと言うべきなのか。

今の時代にあまり見ない内装だ。

「こっち。」

通された部屋は、い草の香りがまだ残っている畳の部屋で、何もない部屋だ。

「今は使われてない部屋だけど、勘弁して。今、布団の用意してくるから。あと、薬を持ってくるよ。足の裏、ちゃんと手当てしないと、大変なことになるよ。」

「ありがとうございます…。」

「飯、食う?赤子はミルクで良いの?」

「お願い出来ますか?私のは、何でも構いません。ありがとうございます。」

「待っていて。」

少年は、出ていく。

ほっと一息をし、座り込む。

ここまで、泣き声もあげない息子は、眠たそうにあくびしている。

将来は大物になるかもしれない。



ふっと意識が無くなり、少し、うたた寝をしてしまったようだ。

ハッと、腕に抱えていた我が子を見ると、腕からおらず、辺りを見渡すと、目の前に赤子を寝かせる布団が敷いていて、すやすやと寝ている。はあと息を吐いた。

「あ。起きた?眠いなら布団敷いたから寝たら?座りながらだと、体、強張るでしょ?」

「あ!いや…ありがとうございます。すいません。うたた寝してしまって…!」

「別に、大丈夫?食べれないなら気にせず、寝ちゃいなよ。」

「あ…すいません。」

残り飯だったのか、白米で、握られたおにぎりと具の少なめなお澄ましが机上に置かれた。

「具はなくて、塩むすびに、喉を湿らす程度のお澄まし。…ろくに食ってないだろ。あんた。母親なのに、痩せすぎ。握り飯は無理なら、お澄ましだけでも飲んで、栄養を蓄えて。」

吃驚した。何故わかった?

やはり、あまり食べてないから、わかるのだろうか?

「いただきます…。」

「ゆっくり飲みなよ。少しは、体、暖まる。」

ほっと、安心する。

優しい温かさと渇いた喉を癒す。

自然と涙が溢れてくる。

「…ほら。折角の塩分が抜けてるよ。」

ティッシュをくれた。

ボロボロと何時ぶりに、泣いただろう。

だが、何だか、とっても嬉しい。

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