裏サークル『麻雀同好会』後編

 『麻雀同好会』。彼らは悪しき寮則『麻雀の禁止』を打ち倒すべく、裏サークルとして暗躍する。彼らは強さを手に入れるため、会員同士で争い、力を高める。


 ◇


 『麻雀同好会』の結成理由は麻雀のできる大学寮を手に入れることだ。そのためには公認サークルとして、大学に認めさせればよい。だが、ただ申請しても却下される。


 彼らが同好会を認めさせるためにとる手段は実にシンプルだ。実績を出す。つまり、大会で結果を残すのだ。


 狙いは『麻雀武闘祭ぶとうさい』。全国の高校生、大学生の団体が麻雀のチーム戦で覇を競う大会だ。


 予選を勝ち抜き、本戦の舞台に上がれば、試合中継がネットで配信される。そこでは試合後に各チームにインタビューの機会がある。彼らはそこで堂々と大学の名前を宣言し、表舞台に上がるつもりなのだ。


 おおやけの場で大学の名前を使って、公認サークルであると宣言されれば、大学側も認めざるを得ないという算段だ。


 武闘祭で勝ち残るために、彼らは貪欲どんよくに強さを求め、競い合う。同好会における勝負は遊びではない。たたかいに向けた訓練なのだ――。


 ◇

 

 精鋭達が代表となり、いよいよ『麻雀武闘祭』に挑む。予選を抜けるには、ブロック内の上位3チームに入ればよい。初めての外部チームとの実戦。精鋭といえども緊張は隠せない。


 しかし、拍子抜けするほどあっさりと決着がつく。


 勝った。 彼らは勝ち抜けが決定し本戦へ手を進める。


 勝因は二つ。特別な参加資格など無いこの大会には弱者から強者まで、様々な実力の者が居たこと。そして、『麻雀同好会』の気質だ。とりわけ、彼らは弱者を徹底的に叩くことが得意だった。同好会の新人教育で繰り返し行われてきた事だからだ。


 彼らの目的は達成されたも同然。本戦のインタビューは勝ち負けに関係なく行われる。そこで大学の名前をだして、公認サークルを名乗るだけだ。


 だが、彼らは欲張る。せっかく本戦に来たのだ。さらに上を目指したい。もっと勝ちたい。


 ――が、結果は惨敗。『麻雀同好会』の精鋭達は赤子の手を捻るように蹴散らされた。所詮は新興サークルに過ぎないとでも言うように、代を重ねて研鑽けんさんを積んできた者達に踏みつぶされた……。


 ◇


 敗退した彼らはインタビューを受ける。中継を見る会員たちは熱狂している。悲願が果たされる瞬間を待っている。


 司会がコメントを求め、代表が答える。中継を見ている会員たちとは裏腹に、静かな闘志をこめて。


 「悔しいです。また、挑戦します。」


 ただ、それだけ。精鋭たちは名乗らない。同好会が待ち望んだチャンスをにした――。


 大会の本戦で、闘う者達の本気に触れて、精鋭達は思い知った、自分たちが今まで何をしていたのか。


 それはだ。


 麻雀をおもちゃにして、寮のルールに反抗するという学生運動のおままごと。目的を果たしてしまえば、みんな熱を失い、麻雀は闘争ではなく、ただのゲームになってしまう。


 それではいけない。それでは勝てない。だから彼らは『麻雀同好会』を裏サークルのまま存続させることを選んだ。さらなる闘争を、さらなる強さを求めて。


 彼らはまだ、勝負を降りてはいない。


 ◇


 ――部室にて、彼らは糾弾きゅうだんされる。何故、計画通りに行動しなかったのかと。


 彼らは答える。


 「雑魚に教える気はない。知りたいなら勝てばいい。お前たちが計画を果たせばいい。」


 不遜な態度で煽る。闘争を激化させる。それは強さのために、真の目的のために……。


 ◇


 大学と学生寮を繋ぐ並木道に、桜が舞う季節になった。一人の新入生がある噂を耳にする。

 なんでも、大学のオリエンテーションで配られたサークル一覧にはっていない、裏サークルがあると。寮の2階、第1棟と第2棟を繋ぐ廊下にある開かずの部屋。そこに立っている学生に「海底撈月ハイテイラオユエ」と告げると入れるらしい。なんとも面白そうな話だ。


 こうしてまた、仲間を増やす。『麻雀同好会』は闘いから降りない。ただ強さを求めるのだ。

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