第12話 勉強会スタート!

 リビングのローテーブルを囲うようにして始まった勉強会。


「よっしゃー! がんばるぞぉおおおおおーーーっ!!!」


 気合十分の舞川さんがペンを走らせる…………が、僅か一分後。


「ああぁー疲れたぁー……」


 と言ってお菓子の山の中からスティック状のチョコスナックを一本手に取り、ポリポリと食べていく。


 また一本、また一本と食べていき……そして、


「やっぱりこれが定番だよねー。あ、なくなっちゃったー」


 あっという間に小袋の中身が空っぽになった。


「ま、舞川さん! まだ始まったばかりですよ!?」

「糖分が切れちゃったんだからしょーがないじゃーん」

「そんなにすぐ必要になるほど勉強していないじゃないですか! テストは明日なんですよ!? そもそも――」


 と早速始まった口論の隣で、柊木さんはというと、


「ふんふんふ~ん♪」

「えへへへっ」


 心地いい鼻歌を奏でながら、膝の上に乗せた鈴の頭を優しく撫でていた。


 どうやら、鈴には癒し係の任務が与えられたらしい。


「鈴ちゃんはー、今日幼稚園でなにしたのー?」

「えぇーとねー、おえかきーっ!」

「お絵描きかー。ねぇ、その描いた絵、今度お姉ちゃんに見せてくれるかなー?」

「うんっ、いいよーっ!」

「ホント!? 嬉しいぃぃぃ~っ」


 ペンをノートの上に置くと、満面の笑みで鈴の頭を撫でる柊木さん。


 撫でたくなる気持ちはわかるけど。


 ――このままだと、勉強会の意味が……はぁ。






 そんなこんなで勉強会が始まって二十分が経過しようとしていた頃、


「なあー森野、ここなんだけどさー」


 隣に移動した柊木さんが、教科書の問題文を指さして尋ねてきた。


 ちなみに、鈴はソファーの上でクマのぬいぐるみと一緒に遊んでいる。


「ここってどうやって解くの?」


 むにゅっ……。


「あ……」

「? どしたの?」

「いや、べ、別に……っ」

「? なら早く教えてよ」

「う、うん……」


 腕に当たる感触と、ふんわりと香る女の子の匂い。


 その至近距離に、心臓はバクバクと高鳴っている。


 ――や、柔らか……じゃなくて!


「――ふふっ」


 ふと前を見ると、テーブルに頬杖をつく舞川さんがニヤァーとした顔でこっちを見ていた。


 ――み、見られてたっ!?


「舞川さん! よそ見をしないで次の問題に集中してくださいっ!」

「はぁーい♪」


 ――次は、これでイジられるんだろうな……。


「うぅ~ん、この問題は……」


 じーーーーーっ。


「……? 鈴ちゃん、どうしたの?」


 名前を呼ばれると、鈴はソファーから下りて舞川さんの隣に立った。


「おねーちゃんの……おっぱい、おっきぃいいいーっ!」

「へっ?」


 舞川さんの口からは珍しく素っ頓狂な声がこぼれた。


「お、おっぱい?」

「うんっ!」

「おっぱい……おっぱいかー……」


 舞川さんは、机の端に乗せている自分の胸と……なぜか柊木さんを交互に見ると、ニヤッとあの笑みを浮かべた。


「お姉ちゃん、いいこと思いついちゃったー♪」

「いいことー?」

「ふふっ」


 ――あの顔、なにかが起きるような……そんな予感が……


「アタシの『これ』と~れんお姉ちゃんの『あれ』を~、揉み比べるっていうのは、どうかなー?」


 ――やっぱり……って、ええぇ……っ!!?


「ま、舞川さんっ! 今はそんなことをしている場合では――」

「じゃあ最初は、恋お姉ちゃんからねー」

「えっ? ――…あんっ……!」


 突然、柊木さんの口から喘ぎ声が漏れた。


 鈴が、その小さな手で胸を揉んだからだ。


「すごーいっ。モチモチ~っ」

「あっ……鈴ちゃん……ダメ……っ」


 まず学校では見ることのできない……頬を赤く染め、身じろぐその姿……。


 ――…ぼ、僕は、一体なにを……見せられているんだ……。


 ……ほんとは、お兄ちゃんとして『ダメだよ』と注意しなければならないのだけど。


 横で繰り広げられる仲睦まじい? 光景から目が離せない。


「んっ……」


 鈴の純粋な好奇心に、柊木さんはただじっとしていることしかできなかった。


 そして一分が経過したところで、鈴は舞川さんの膝の上に移動すると、さっきと同じように胸を……


「んんっ……♥ 鈴ちゃん……上手だねっ……」


 柊木さんのときとは違う、なんというか……イケない雰囲気を感じる。


「おや~? もりりん、どうしたの~……っ?」

「…………ッ!!?」

「ふふっ。気になるなら、後で揉ませてあげよっか~……?」


「なっ……」


 ――揉む? 今の鈴みたいに……


「そ、そんなことはダメですっ! 不純です!」

「ええぇー、ダメー?」

「ダメに決まっていますっ!」


 委員長は立ち上がると、腰に手を当てて言った。


「とにかくっ、そんな破廉恥なことは一刻も早く止めて、勉強を再開してくださいっ!」


「「はぁーい」」


 委員長の一声で、“乳比べ”という幸せなイベントは幕を閉じたのだった。

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