第13話 委員長のヒミツ

 次の日の朝。


「あの、舞川さん」


 いつものように席でお喋りをしていた二人に、委員長が声をかけた。


「こととん、どしたのー?」

「えっと、これをお返ししようと思いまして」


 そう言って委員長が出したのは、一冊の本。それは、昨日、舞川さんから没収したファッション誌だった。


「え、もういいの?」

「はい。次から気をつけてくれれば」

「こととん……。ありがとーっ♡」

「いいんちょー!!!」

「わぁっ! く、苦しいぃいいいーーーっ!!」


 嬉しさのあまり抱きついてきた二人に首を絞められ、慌ててそれを振り解こうとする委員長。


 没収とは言え、返さないというわけではないようだ。


 ……厳しいけど、本当は優しい。こういうことを、ギャップって言うんだろうな……。


 ――ギャップ……ギャップ…………ギャップ? ――――…あ。


 キーンコーンカーンコーン。


「チャイムも鳴りましたし、私は席に戻り――」

「ふふふっ♪」

「な、なんですか?」


 二人は顔を合わせて不敵な笑みを浮かべた。


 このとき、直感的に嫌な予感がしたのだが、果たして……。


 ――…ま、まさか……


「いいんちょーってさ……」

「実は……ダ・イ・タ・ン♥ だったんだね~」

「えっ?」


 委員長は、寝耳に水と言わんばかりに不思議な顔を浮かべている。


「あたしら知らなかったなぁ~」

「ど、どういう意味ですか?」

「ことと~ん、アタシら知ってるんだよ~♡」

「なにをですか!?」


 二人は目を合わせると、委員長の両端に立つ。


「こととんが、実は……とてもエッチなパンツを履いてるってこと……っ♡」

「えっ――」


「「それぇぇぇぇ~♪」」


 二人が息の合った動きで委員長のスカートの裾を、思いっ切り捲り上げた。


 ――あ、今日は紫……


「きゃっ、きゃああああああああああーーーーッ!!!!!」


 絶叫に近い叫び声を上げた委員長は、顔を真っ赤にしながら慌ててスカートの裾を手で押さえた。


「「あははははっ!」」

 

 教室中からなんだなんだと三人に視線が集まったが、どうやら具体的になにがあったのかは、わからなかったようだ。


 委員長からすれば、救いとしか言いようがない。


 ――だって……






 あれは、勉強再開から三十分が経過した頃、


「もりり~んっ! ここわかんなぁーい!」

「どれ? ああぁ、その問題はさっき教えた公式を――」

「忘れちゃった♪」

「……じゃあもう一回、最初から――」

「っ……も、森野君。あの……」


 教科書から顔を上げると、委員長がムズムズと体を小刻みに震わせていた。


 ――その仕草しぐさから察するに……


「廊下を進んで左だよ」

「お、お借りします……っ」


 そう言って、委員長は急いで扉の方へと向かおうとしたのだけど。


「――――え」

「おおぉ……っ!」

「へぇ~」


 僕たちの目は、扉の方に向かう委員長の下の方へと向けられていた。


 スカートの裾が…………捲れ上がっていたのだ。


 恐らく、座っている間に裾が変な曲がり方をしたのだろう。それによって、ショーツがまる見えになっていたのだけど。


 ――委員長が……そんな……


 そのショーツが、セクシーな黒のレースで、なんと……透けていた。


 それだけでも、普段のイメージとはかけ離れているというのに、まさかの――――…『紐』という。


「「「………………」」」


 無言で委員長を見送り、そして…――――――ガチャリ。


 その姿が見えなくなったところで、二人は自ずと目を合わせると、


「「え……えっろ……ッ!!!」」


「…………っ!!?」


 あまりの声の大きさに、一瞬、委員長が戻ってくると覚悟したのだけど。幸い、聞こえてはいなかったようだ。


 ホッと一安心……というわけにもいかず。


「ねぇ、今の見た?」

「見た見たー♪」


 ローテーブルを挟んで盛り上がる、二人の楽しそうな声。


 ――…はぁ。さっき鈴を部屋に寝かしつけておいてよかった……。


 さすがにあれは……まだ早すぎる。


 それにしても、委員長×セクシー下着という組み合わせから、そこはかとなく禁断の香りがするのは、きっと僕だけではないはずだ。


 結局、委員長がトイレから戻ってきた後も、すぐに勉強を再開することはできなかったのだった。






 ――それにしても、まさかあの委員長が……


「………………」


 ……なんだか急に、痛い視線が自分に向けられているような……そんな気が……


「……見ましたね?」

「!!? み、見てないよ……っ!?」

「……本当ですか?」

「本当です!」


 僕が抗議の声を上げていると、


「森野ヤラしい~」

「もりり~ん、パンチラゲットおめーw」

「……っ!! 森野君ッ!?」


 あ、あれ……? いつの間にか、僕が完全に悪者扱いみたいになっているんだけど。


「あはは……はぁ……」




 ちなみに、二人の小テストの結果は………………言うまでもないだろう。

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