第6話 ちょっぴりの進展
「柊木さんっ! なんですか、その短いスカートはッ!!」
土日を挟んで迎えた朝は、委員長の怒号から幕を開けた。
「なにって、丈を短くしただけじゃ~ん」
「校則違反ですっ!」
「えぇ~、いいじゃん別に~」
柊木さんのスカートを指さして、委員長が声を響き渡らせる。
その肺活量に感動した吹奏楽部や水泳部がスカウトに来るのも、時間の問題だろう。
「てゆーか、先週もこれだったに、なにも言ってこなかったんじゃん」
「そ、それは……様子を見ていたんです! あなたが、自分の格好の危うさに気づくかどうかを!」
「――ふぅ~ん、キケンねぇ~」
すると、二人のやり取りをそばで聞いていた舞川さんが割って入る。
「別によくな~い? パンツなんて見られてもいちいち気にしないし~」
「よくありませんっ! 服装の乱れは心の乱れです!」
腰に手を当てて注意する委員長。それに対して、舞川さんは、
「ふぅ〜ん。あっ、後ろー」
「後ろ?」
「……パ・ン・ツ、見えてるよ?」
「え? パ……パンツ……ッ!!?」
委員長は慌ててその場にしゃがんだが、スカートの裾が捲れていないことに気づくと、
「は、図りましたね……っ!!?」
――…ッ!? あ、あれは……
目の錯覚だと疑いたくなるほどに、委員長の背後には怒りの赤いオーラが浮かんでいた。
「アハハハッ! 冗談だよ、冗談w」
「いいんちょー、落ち着きなって~w」
お腹を抱えて笑っている柊木さんたちに鋭い眼光で睨みつけていた。
「顔が怖いよ~。ほら、リラックス〜リラックス〜」
「くッ……!! ……ん? よく見たら、舞川さんもスカートが短いじゃないですか!!」
「あ、バレちゃった~?」
舞川さんが後頭部に手を当ててとぼけた顔をしたことで、委員長の怒りのボルテージが今にもゲージを振り切ろうとしていた。
火に油を注ぐ、とはまさにこのこと。
――こ、ここは一旦、この場を去った方が……
「あっ。森野じゃん、おっは~」
「…………お、おはよう」
――お、終わった……。
「森野、助けてよ~。いいんちょーがイジわるしてくるんだけど~」
「イジわるではありませんっ! ただの注意です!」
柊木さんは徐に席を立って目の前まで来ると、
むぎゅっ♡
――っ!!? ひ、柊木さん……っ!!?
柊木さんは僕の腕に絡みつくように身を寄せてきた。
――こ、これは……この柔らかい感触は…――――危険だっ!
危うく理性が飛びそうになるのを必死に堪える。
こんな視線を集める状況でそんなことになってしまったら、高校生活はおろか人生が詰んでしまう。
――落ち着くんだ、自分……。
すると、その様子を見ていた委員長の目がまた段々と鋭くなっていく。
「森野君は、柊木さんの味方なのですか!?」
「えっ」
「あれ? いいんちょーって森野のこと知ってんの?」
「!! クラスメイトの名前を覚えるのは、と、当然のことですっ!」
「ふぅ~ん。さすがいいんちょー、しっかりしてんねぇ~」
――あ、あの……そんなにじーっと見られましても……。
「あははは……はぁ……」
その後はというと、朝のホームルームが始まるまで、二人は委員長の反応を楽しんでいたのだった。
今は数学の授業中。
黒板には数式の数々がびっしりと並んでいるが、正直、全く頭に入ってこない。
それは、ただ僕が数学を苦手にしていることも関係しているのかもしれないが、
――なにか、重要なことを忘れているような……。
そんな気がしてならないのは、心配性の
――それとも……
『相手のことを――』
――あっ、陸斗! ……そうだ、思い出したぞ。
僕には、『柊木さんのことをよく知る』という重要なミッションがあったんじゃないか。
――どうしてこんな大事なことを……。
「ふわぁ~~~」
――舞川さん、さすがに授業中に欠伸は…………あ。
目の前にいた。柊木さんのことをよく知る人物がっ!!!!!
……でも、話を聞こうにも、隣の席が柊木さんである以上、彼女にバレてしまう可能性が非常に高い。
だけど、聞かない限りは事が始まらないのも、また事実。
――うーん……。
と心の中で唸りながらチラッと横を見ると、
「ふわぁ〜……」
柊木さんも口の前に手を当てて欠伸をしていた。
眠くなるのもわかる。よくわかるのだけれど……。
僕の目はゆっくりと、組んでいる脚の艶めかしい太ももに向いてしまう。
目を前に戻そうにも言うことを聞いてくれない。
――いくらなんでもスカートの丈が短すぎ……っ。
すると、柊木さんが姿勢を変えるために脚を組み直したことで、一瞬だけ白いものが――
じーーーーーっ。
――ん? なんだろう……この、避けようのない一直線の視線は……
ゆっくりと顔を前の方へと向けると、
「ふぅ~~~んっ」
体ごとこっちに向けた舞川さんがじっと見ていた。
「せ、先生は……?」
「プリント取りに職員室に行ってくるって、さっき教室出て行ったよ~」
「そ、そうなんだ……」
………………。
「――ん? どしたの?」
横の方から、僕たちの状況に気づいて柊木さんが尋ねてきた。
「あのね~、今――」
「ちょっ!?」
「?」
僕の慌てた様子を見て、柊木さんは不思議な顔で首を傾げる。
「こ、これは違うと言いますか……」
「? なにが違うの?」
「ええぇ!? だから、その……」
「ふふっ。恋の丸見えの太ももを〜イヤラしい目で〜覗いてたんだよねぇー♡」
「……ッ!!? ま、舞川さん……!?」
「へぇ~」
覗いてしまったという紛れもない事実の前では、あらゆる言い訳は意味をなさない。
「ひ、柊木さん、これは……ですね……」
「もしかして、見たいの?」
「へっ?」
柊木さんは目の前に立つと、まるで誘うようにスカートの裾を揺らす。
わざとだということはわかっているのだけど。
「…………っ」
――どうやら体は正直なようで……
「ぷふっ、やっぱり見てるじゃーんw」
「!? そ、そんな……ことは……」
「顔真っ赤にしちゃって可愛いなぁ〜♪」
柊木さんからは笑われ、舞川さんからはイジられる。
そして、周りからの視線が……痛い。
昼休み。
先週と同様、僕と委員長は屋上で一緒に昼食を取っていた。
「はぁ……。柊木さんたちには困ったものです……」
「あはは……委員長も大変だね」
「そう言ってもらえるだけありがたいです……」
委員長はポツリと声を漏らすと、玉子焼きを口に運んだ。
「そういえば、森野君はいつから仲良くなったのですか?」
「え、誰と?」
「柊木さんに決まっているじゃないですか」
「え。僕が、柊木さんと……?」
「はい」
――仲良く? 他の人からはそう見えているのかな? ……まぁ、素直に嬉しいけど。
「これは、私の勝手なイメージですが」
と前置きして、委員長は言った。
「森野君は、あの二人のような人たちとは、あまり関わりを持たないと思っていました」
「ああぁ……僕も、最初はそう思っていたよ」
「そうなのですか?」
「う、うん」
僕は、さっき自販機で買ったお茶のペットボトルで喉を潤す。
……考えてもみれば、始業式の日に出会ってまだ一週間も経っていないのに、さっきのように話すことができている。
ということはつまり、
(ちょっとだけ進展しているってことで、いいのかな……)
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