第29話 達成と妖精の国へ

 「目覚めよフリーデン、我が末裔の娘婿よ」

 黒い騎士鎧を纏った銀髪の美丈夫が竜也に語り掛ける。

 「だ、誰だ? ここは一体?」

 騎士に起こされた竜也が周囲を見回すと、そこは漆黒の闇の中だった。

 「我が名はジークフリード、ファフナー家の祖である」

 銀髪のジークフリードが名乗る。

 「失礼いたしました、リンちゃんのご先祖様」

 ジークリンデの祖先の霊だと気付き正座をする竜也。

 「そなたの前に現れたのは、領主の条件を達成した事を告げる為である」

 ジークフリードが用件を告げる。

 「ありがとうございます」

 取り敢えず礼を言う竜也、ジークフリードは竜也を見て話を続ける。

 「汝、竜騎士として民の為、世の為に剣を振るう事を誓うか?」

 「誓います」

 ジークフリードの問いに答える竜也。

 「汝、妻を愛し、子を為し、竜騎士の系譜を紡いで行くことを誓うか?」

 「誓います」

 きちんと相手の目を見て竜也は誓った。

 「よかろう! 汝を領主の位に相応しき者と認める!」

 ジークフリードが合格を言い渡す。


 「ありがとうございます、領地とかないので実感とかわかないけれど」

 「領地とは己が守ると決めた地の事だ、我がすえの娘を任せたぞ」

 「はい、二人で頑張って行きます」

 「ああ、あれは我が妻に似て扱い難い娘ではあるが汝への愛は真である」

 「はい、それはありがたく感じてます」

 「では励めよ、いつか祖霊の座で会おう」

 ジークフリードは、竜也とのやり取りを終えると姿を消して行った。

 

 翌日、竜也はジークリンデを伴い日本支部へと向かった。

 「と言う、夢というか体験をしました」

 「ご先祖様の私の見方が酷くない、支部長?」

 館長室の応接席でジークリンデがぶーたれる。

 「ジークリンデ君に関してはスルーで、竜也君はおめでとう♪」

 アーサーが笑顔で答える。

 「と言う事は、俺は領主級ってのになったんでしょうか?」

 竜也が不思議がる。

 「ああ、間違いない♪ 勲章は後で礼装に刺繍しておこう、本来なら祝典も

しないとまずいんだが戦いも迫っているから時間も予算もない」

 アーサーが真面目な顔になる。

 「戦いって、フロストン王国との?」

 ジークリンデが質問をする。

 「ああ、妖精の世界の女王との話がまとまってね傭兵として竜騎士の代表一人の他に地球のヒーローを雇ってもらう体裁で話が付いたんだ」

 アーサーが決まった事を語る、敵の本拠地は異次元の妖精の世界。

 「えっと、妖精の国が奴らと戦争中でしたっけ?」

 竜也が思い出して口に出す。


 「そう、人間とは適度な距離をと言う主義の妖精女王が治める妖精国と同じ世界の覇権を争い人間の世界も支配せんと企む冬の妖精達の国フロストン王国だ」

 アーサーが妖精の世界の事情を語る。

 「こちも地球の守りもあるし、妥当な落としどころね」

 ジークリンデが納得する。

 「代表一人って、そういや竜騎士が妖精達を地球から追い払ったんですよね?

そして妖精の国を抜け出して地球で悪さをするのが邪妖精じゃようせいで竜騎士の敵と」

 竜也が聞いた話を思い出す、かつて妖精達は地球にいたが人間に味方した竜騎士達との争いに敗れ新たな世界へと旅立った。

 「うん、そりゃ自分達を追い出した奴らに来て欲しくないよね」

 現在では関係改善がなされ交流が再開されて地球に帰ってくる妖精もいる。

 地球に帰還した妖精や、妖精の国から来た者達と組んだ人間のヒーローが妖精騎士ようせいきしと言い竜騎士と協力している。

 とはいえ、妖精の中ではドラゴンや竜騎士への根源的な恐怖感はまだまだ消えておらず交渉を重ねた結果が竜騎士は代表を一人と言うものであった。

 「それを踏まえて会長と僕が根回しに奔走して、君達が竜騎士の代表に決定した」

 アーサーが笑って竜也の肩に手を置く。

 「根回しって、二人はそんな事してたんだ」

 ジークリンデがアーサーをジト目で睨む。

 「ああ、君達は日本支部で初の最年少で領主級になった稀有な逸材だからね♪」

 アーサーがサムズアップする。


 「大人って狡いね、たっちゃん」

 「面倒な話だけど、奴らは殴りに行きたかったから渡りに船ではある」

 ジークリンデのぼやきに竜也が答える。

 「期待のルーキー初登板だよ、ホームランを決めて来てくれ♪」

 アーサーがノリの軽い野球監督みたいな事を言う。

 「イギリス人ならサッカーに例えない?」

 ジークリンデが呟く。

 「わかりました、ならクリスマスまでに奴らとの戦争を終わらせる気で行きます」

 竜也が力強く言う。

 「日本でのんびり冬休みを楽しむ為に頑張ろ、たっちゃん♪」

 ジークリンデもやる気を出す。

 こうして、竜也達は竜騎士の代表としてフロストン王国へと乗り込む事になった。


 「……集った仲間って、知り合いばっかかよ!」

 竜也達が集合場所のサリエル魔法女学院に着くと、見知った顔が揃っていた。

 「俺は、妖精の国から直接ご指名を受けたんだよ」

 烈太がぬいぐるみサイズの赤い蜥蜴を肩に乗せながら語る。

 「僕は銀河猟友団ぎんがりょうりゅうだんの代表として選ばれたんだ♪」

 希が胸を張る。

 「妖精って、宇宙人とも縁があるんだ」

 ジークリンデが妖精の国の交流範囲に感心した。

 「おいおい後輩共、先輩を無視するなよ♪」

 モヒカンにツナギ姿のイケメン、飛車先輩が話の輪に加わた。

 「先輩と妖精にどんな繋がりが?」

 竜也は素直に訝しんだ。

 「俺は妖精の国のレースのチャンプなんだよ♪」

 烈太以外は三校戦の代表チームだった。


 そんな椿原学園一行が日本に似合わない西洋の城な女子高に入るとすぐに、白い学ランのイケメンマッチョが立っていた。

 「やあ、椿原の諸君か宜しくな♪」

 王道館の牛田猛であった。

 「牛田さんも参加するんですね」

 「エリザべス会長から頼まれてな、引き受けた♪」

 牛田が豪放磊落に笑いながら答える。

 竜也はますますどういう基準で、人集めをしているのかがわからなくなった。

 「皆さん、こちらです♪」

 サリ女の生徒である、安藤メイが現れて一行を案内する。

 「この林の中に妖精の国と繋がる魔法陣があるんですよ♪」

 メイが学校の敷地内に作られた林を指さす、林の入り口にはサリ女の会長である

エリザベスが待っていた。

 「皆様、いらっしゃいませ♪ 当校は妖精の国とも懇意にしておりまして私が

サリ女の代表として参加いたします♪ 転移の魔法陣はこちらですわ♪」

 エリザベスに先導されて一行は林の中を進む。


 林の中心の開けた場所に着いた一行、そこの地面にはキラキラと青く光る魔法陣が描かれていた。

 「皆様、あの魔法陣にお入りくださいませ♪」

 エリザベスの指示に従い、一行が光る魔法陣の上に立つと最後にエリザベスもその中に入る。

 そして、魔法陣が強烈な光を放つと竜也達一行はレッドカーペットが敷かれた城の謁見の間に立っていた。

 玉座にポンと煙が起こり、黒髪の上に金の冠を被り紫色ドレスと蝶の羽を背中に生やした美しい女性が現れた。

 竜也達一行は、自然と全員が膝を付いて頭を下げた。

 「よくぞ参られた勇士達、顔をお上げください♪」

 女性の言葉に竜也達は全員が顔を上げた。

 「私の名はタニア、この妖精の国の女王をしております♪」

 妖精女王タニアが名乗る。

 「此度のフロストン王国との戦争に地球の友人達を巻き込んでしまった事は申し訳ございません、ですがこうなった以上共に手を取りこの戦争を終わらせましょう」

 タニアの言葉に、竜也達は頷いた。

 

 その後、タニアは一旦退室し竜也達は城の中の食堂へと通された。

 白いテーブルクロスの敷かれた長い食卓と西洋風な食堂に座る一行。

 しばらくすると、シャツにカボチャパンツと王子様ルックにキアゲハの仮面を付けて自分と同じ紫の髪の赤子を抱いた美少年とタニアが現れて上座に座った。

 「初めまして、勇士の皆♪ 僕はベロン、タニアの夫の王配だよ♪

そしてこの子は我らが姫、プチだ♪」

 フレンドリーに自己紹介をするベロン。

 「先ほどはどうも、ここではタニアとして振舞わせていただきます」

 タニアが明るい笑顔を振りまく。

 「タニアは良い女王だよ、そして良き妻で母だ♪」

 「あなた、恥ずかしいです♪」

 タニアとベロンがいちゃつき出す。

 「仲良い夫婦ってのは良いよな、家も母ちゃんが生きていたら」

 飛車がしんみりする。

 「そうだな、円満な家庭は憧れる」

 牛田は微笑んだ。

 「なら私と築きませんか♪」

 牛田に寄り添うエリザベス。

 「戦争中って、話を忘れそうになるな」

 「そうだね、でも守りたい温かさがあるから戦えるよね♪」

 烈太の言葉に希が続く。

 「ヒーローは何の為に、誰が為に戦うのか? って考えさせられるな」

 「守りたい平和があるからで良いんじゃない♪」

 竜也の問いにジークリンデが答える。

 

 「うんうん、若い勇士達は素直だなあ♪」

 「あなた? 皆様にお食事を、地球の皆様には高額な金銭はお支払いできない分

万全に武勇を振るっていただく為に不自由な暮らしはさせられません」

 タニアの言葉にベロンが手を叩く。

 「そうだね、ではごちそうをどうぞ♪」

 ベロンが再度手を手を叩くと、食卓の上にいつの間にか食器と料理の乗った皿が現れた。

 「まずはオードブルから召し上がれ♪」

 ベロンが叫び、食事が始まった。

 妖精の宮廷のフルコースは、前菜が赤と橙の野菜から始まり黄色と緑のスープに

青と藍の魚料理にと虹をコンセプトにしたメニューが振舞われた。

 「ごちそうさま、美味しかったです♪」

 ジークリンデが満足そうに食べ終える。

 「ああ、異世界の料理って初めて食べたけど美味かった」

 竜也も満足する。

 「おいおい幻想科だろ、お前達? 帰ったら妖精料理の店を教えてやるよ」

 後輩達に、椿原市でも異世界の料理が食える事を教える飛車。

 「いや、地球だと高級料理っすよ先輩?」

 烈太が手を横に振る。

 「宇宙料理と同じで、食材が貴重だからね♪」

 希も笑いながら語る。

 「貴重な体験をさせていただき、感謝いたします女王陛下」

 牛田は真面目に礼を言った。

 「本当にありがとうございます、陛下♪」

 牛田に続くエリザベス。

 「地球の勇士の学生達は面白いね、娘も大きくなったら地球へ留学させよう♪:

 ベロンは娘をあやしながら笑う。


 竜也達は、異世界での戦いの前の平和を満喫したのであった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る