第30話 二面作戦

 「正面組は大丈夫かな?」

 奇襲組になった竜也が呟く。

 「大丈夫だろ、王道館の猛牛にサリ女の氷帝だぜ?」

 烈太が答える。

 「夢田君や先輩もいるし何とかなるでしょ」

 「うむ、その通り♪」

 ジークリンデと黒月も心配してなかった。

 「皆様、お茶のご用意ができました♪」

 「クッキーも焼けてるよ♪」

 烈太の妻であるランプの魔神イブリンと、火の精霊のサラマンダーがお茶と菓子を

用意して現れた。

 竜也達がいるのは、豪奢な絨毯が敷かれたアラビアンな広いリビング。

 「しかし、ランプの中に入ったのは初めてだわ」

 「私もだよ、何か魔力が凄いし」

  竜也とジークリンデが感想を漏らすが、彼らは烈太の持つ変身道具でもある真帆のランプの中にいた。

 

 「俺も最初は驚いたが、快適だぜ♪」

 「ええ、旦那様にもお客様にも不自由はさせません♪」

 烈太とイブリンがいちゃつくが、二人の愛が動力源だから仕方ない。

 「魔法のランプで地中を進んで敵の城を目指すとか、思いつかなかった」

 外から見れば金色のオイルランプが、超高熱火炎を放出しながら地中を進んでいるという異様な光景になっている。

 竜也達は、妖精国の正規軍と共に正面から敵軍を引き付ける正面組と敵の本丸を落としに行く奇襲組に別れて作戦を行っていた。


 正面組のメンバーは、ハクギュウジンにヘリオスマンホープ、ハイウェイダーとエリザベスと巨大戦や魔法が得意なメンバーが敵の主力である霜の巨人フロストジャイアント部隊を引き付けて叩く。

 奇襲組は、フリーデンとジークリンデとイフリマンダ―こと烈太の三名が敵の本丸を攻め落とすと言う作戦だ。

 「高速先輩、ロボット貰ったのが驚いたな」

 烈太が正面組に回ったハイウェイダーの様子を思い出す。

 

 ドワーフ達が働く巨大な工場を案内された一行、そこにあったのは逆三角形なマッチョ体形の緑色の巨人であった。

 「これが俺のロボットか、でけえな」

 巨人に感心する飛車、彼の所にツナギ姿のドワーフがやって来る。

 「チャンプ、お前さんのバイクを巨人の心臓にするんだ」

 「おお、おやっさん♪ わかったぜ、見てな♪」

 飛車がマシンウェイダーで、巨人の体を上り出すと巨人の胸部に吸い込まれる。

 すると緑色の巨人は、瞬く間に黄色い仮面に銀の装甲を纏って行く。

 そして巨人は、巨大なハイウェイダーへと姿を変えた。

 「おおい! 中で蔦が俺に絡まって来たぞ~~!」

 中から飛車が叫ぶがおやっさんドワーフは冷静だった。

 「それはパイロット認証じゃ、魔法の脳波コントロールじゃい♪」

 笑顔でサムズアップするおやっさん。

 

 その様子を見ていた一行は、妖精ってとんでもない技術持っているなと言う感想を抱いた。

 かくして、ハイウェイダーは新たな力ハイウェイダージャンボで正面組として敵の巨大戦力と戦う事になったのだ。


 竜也達が進んでいるその頃、その正面組も敵を迎え撃つべく布陣していた。

 ずらりと並ぶは、妖精国騎士団の二十mサイズのロボット部隊。

 赤いカラーで、燃え盛る炎のようなヘッドパーツを付けた巨大な騎士。

 火の妖精達が乗る炎の妖精機ようせいきの部隊の後ろには、青いカラーの水の妖精機が控える。

 更に左右には、黄色の土の妖精機に緑色の風の妖精機と四大元素の妖精機が整列して待機していた。

 「妖精がロボットを使うとは知らなかった」

 牛田が妖精機を見て感心する。

 「地球と同様に、巨大な敵に対抗するべく作られたそうですわ♪」

 エリザベスが牛田に答える。

 「この戦力は、侮れないよ」

 希も妖精機達から感じたエネルギーに気を引き締める。

 「で、サリ女の会長さんも水の妖精機に乗るんだろ?」

 飛車がエリザベスに尋ねる。

 「ええ、機体と指揮権をお借りできましたの♪ 皆さんの援護を勤めさせていただきますわ♪」

 エリザベスが微笑む。

 「頼らせてもらうぜ,奇襲組も動いているみたいだし俺達も頑張ろうぜ♪」

 飛車も自分の機体を見てから、仲間達にサムズアップした。


 正面組が準備を終えたころ、足音と唸り声を響かせ雪煙を上げながら現れたのは

青白き巨人フロストジャイアントと巨大な白狼フロストウルフの部隊であった。

 「出たな巨人野郎、行くぜ!」

 「「応っ!!」」

 土の妖精機の部隊が、魔法で大地を揺らして敵の足を鈍らせる。

 「全機揃え! 防壁、構築っ!」

 エリザベスの指揮にに従い、水の妖精機の部隊が魔法で氷の壁を作る。

 フロストジャイアント達が口から吹雪を吐くがそれは逆にヒーロー側の防壁を強化するだけであった。

 

 敵の足を止める事に成功した所で、風の妖精機の部隊が火の妖精機の部隊を抱えて空を飛び敵の軍勢に火の雨を降らせてから逃げる。

 

 風と火の妖精機部隊と入れ替わりに、ヘリオスマンホープがハイウェイダージャンボとハクギュウジンを抱えて飛び敵陣へダイブ!

 青白い巨人と巨大ヒーロー達の接近戦が始まった。

 「ちいっ! 狼共が面倒くせえ!」

 ハイウェイダージャンボがフロストウルフに足元を攻められながらフロストジャイアントと殴り合う。

 「ごめんね、ごめんね!」

 犬好きなヘリオスマンホープは謝りながら光線で、フロストウルフを蹴散らしつつフロストジャイアントの攻撃を躱して殴り返す。

 「今は愛護精神は押さえろ!」

 ハクギュウジンも、雷を纏った張り手でフロストジャイアントを殴り倒して行く。


 巨大ヒーローを援護すべく、土と火と風の妖精機の部隊も攻めに動き巨大ヒーローがフロストジャイアントの相手に専念できるようにフロストウルフを攻撃し始めた。


 正面組が戦う中、地中を進む奇襲組にも変化があった。

 「……これは? 誘導されてますっ!」

 イブリンがランプの中の自室で、レーダーである水晶玉を見て異変に気付く。

 巨大な黄金ランプが出た場所は広大な雪原、敵の城は見えるが遥か先であった。

 「マジか? 罠かよ!」

 「どっかっで敵に作戦がバレてたってわけね!」

 「致し方あるまい」

 ランプから放り出された竜也達、ランプ自体は縮小して烈太の手に戻っていた。

 彼らの周囲を取り囲むのは、地球でも猛威を振るったアイスゴーレムと氷の鬼のアイスオーガの混成部隊であった。


 「楽はさせてくれねえって事だな、変身するぞ!」

 烈太がランプの蓋をこすって回す、するとランプの口から炎が噴き出し蓋が開く!

 ランプの中からイブリンとサラマンダーが飛び出し、烈太の周囲を炎の竜巻が包むと竜巻の中から現れたのは黄金のランプを全身鎧として纏った赤き炎の戦士だ。

 「人と魔神が交わって、三つの願いで悪を討つ! イフリマンダ―参上っ!」

 烈太はイフリマンダ―に変身した。

 「竜虎合装、フリーデンムーント!」

 竜也も一気にフリーデンムーントに変身した。

 「私も全力で行くよ!」

 ジークリンデも完全に、ドラゴンの姿になった。


 「げっへっへ♪ 覚悟しろ地球のヒーロー共、突撃っ!」

 ヒーローが変身中に攻めると痛い目を見るので、変身を終えたのを見計らい指揮官らしいアイスオーガが攻撃を命じた。

 手下のアイスオーガ達は、全員がアイスゴーレムの胸を殴ると棘の生えた氷のゴリラと言わんばかりの装甲を纏い突進して来た!

 「上等だ、全力で燃やしてやるよ!」

 イフリマンダ―の全身から放たれた熱波が、瞬時に自分達近くの敵の集団を蒸発させる。

 「俺も負けてられないな!」

 フリーデンムーントも後続の敵にドラゴンブレスを放射し、敵を貫き砕いて行く。

 「やるなあ、だがこっちはホームだ幾らでも出せるんだよ♪」

 指揮官のアイスオーガが叫び、再び襲い来る氷の軍団。

 「何度だって、砕いてやるっ!」

 ジークリンデと共に闇を纏った爪や尻尾で敵兵を砕くフリーデンムーント。

 「自分達のリソースだけが無限だと思ったか? 俺の熱も無限だっ!」

 襲い来る氷の敵兵を、水蒸気も残さず蒸発させるイフリマンダー。

 「馬鹿な! たった二人と一匹だぞ、それに火と水の属性同士の愛称なら相殺されるはず?」

 アイスオーガも妖精の世界の住人、彼の知識では火と水はシーソーの如く勝ったり負けたり氷と火なら相殺されるはずだと考えていた。

 「悪いが、闇に四大属性は関係ない!」

 アイスオーガの影から現れたフリーデンムーントが、背後から拳で敵の心臓を貫き粉砕する。

 「魔神の炎は妖精の炎より上位だって知らないんだな、こいつら」

 残った敵兵を蒸発させてからイフリマンダ―が呟く。

 フロストン王国の部隊の敗因は、自分達の法則の範囲外の強さのイフリマンダ―とフリーデンの実力を見誤った事。


 妖精の世界で、自分達のホームなら負けないと思っていたフロストン王国の部隊。

 それに対する奇襲組のフリーデンとイフリマンダ―達は、地球よりも魔力に満ちた世界の恩恵を受けて戦えていたのだ。

 「ぷは~~~~♪ たっちゃん、魔力が吸い放題の使い放題だよこの世界♪」

 地上に降りて元に戻ったジークリンデが同じく元に戻った竜也に抱き着く。

 「ちょっ! リンちゃん、テンション上がり過ぎてる!」

 竜也がジークリンデを抱き止めるが、ジークリンデはハイになっていた。

 「あいつら、魔力吸い過ぎでハイになってるな」

 元に戻った烈太が呆れる。

 「旦那様、私もこちらの世界に来て力が溢れて来ます♪」

 イブリンも戦いの後だというのに肌がつやつやで元気になっていた。

 「お前もかよイブリン、なら早く敵の本丸を叩きに行こうぜ?」

 「はい、旦那様♪」

 イブリンが烈太に従い、真紅の絨毯を虚空から取り出す。

 烈太がイブリンと共に絨毯に乗り、空中に浮かび上がる。


 「お~い、そっちもそろそろ遊ぶのは止めて行こうぜ?」

 烈太がじゃれ合っている竜也達に叫ぶ。

 「わかった~! ほら、リンちゃんまだお仕事中だから起こして!」

 ジークリンデに雪原で押し倒された竜也が叫ぶ。

 「ぶ~! たっちゃんが、キスしてくれなきゃどかないよ?」

 ジークリンデがとんでもない要求をする。

 「いや、マジかよ! わかった」

 竜也がジークリンデとキスを交わすとジークリンデが竜也を抱き起こした。


 「旦那様♪ 愛する妻は、旦那様にご褒美をいただきとうございます♪」

 ジークリンデ達のやり取りを見たイブリンも烈太に要求する。

 「……イブリン、お前もかよ?」

 烈太もため息をついてから、瞳を閉じてイブリンとキスを交わす。

 竜也と烈太は互いのパートナーの機嫌を取ると、再び敵の本丸を崩すべくそれぞれが魔法の絨毯とブラックドラゴンに乗って進み出した。

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