第27話 敵は冬と共に

 「ここだけ五月な気分だな、そろそろ十二月だってのに」

 何とか黒月の鎧を継承した竜也、鎧はファフナー邸の竜也の部屋に置かれた。

 「留守番とか自宅警備する使用人ができたね、たっちゃん♪」

 ジークリンデが微笑む。

 「わ、我の扱いがぞんざいである~~~っ!」

 泣き出す黒月。

 「まあ、手足出して動けるなら働いてもらわないとな」

 ジークリンデに同意する竜也、試練の一つを片付けた竜也は学業にヒーロー活動にと日常を過ごしていた。

 

 だが、放課後のパトロールをしている時に竜也とジークリンデは飛び跳ねて移動する雪だるまと言う怪しい存在を目撃した。

 「そこの雪だるま、何処から出て来た!」

 「たっちゃん、こいつ多分邪妖精だよ!」

 竜也が警告を発し、ジークリンデが敵の素性を指摘する。

 「げげっ! お前らはもしや、ドラゴンと竜騎士かっ!」

 竜也達に発見された雪だるまは驚く。

 「邪妖精なら狩らないとな、竜結っ!」

 竜也がフリーデン委変身し、ジークリンデもドラゴン娘の姿になる。

 邪妖精、それは妖精の中でも邪悪な存在で竜騎士の討伐対象である。

 「ちきしょうっ! 日本なら竜騎士はいないと思ったのにっ!」

 雪だるまが叫びを上げ、戦いの構えを取る。

 「俺だって、変身してやるフロスト~~~ン!」

 雪だるまは叫ぶと同時に分厚い氷の体もつ鬼のような怪人へと変身した。

 「俺様はフロストン王国の戦士アイスオーガ、竜騎士め覚悟しろっ!」

 アイスオーガはフリーデンに向かい、霜柱のナックルダスターが付いた拳で殴り掛かって来た。


 「ちょうどいい、黒月の籠手を使うぜ!」

 フリーデンは腕に黒月の鎧の籠手を纏って拳を作り、迎え撃とうとした。

 「結界張るよ!」

 ジークリンデが、被害防止の為の結界を張ったのが間に合う。

 フリーデンとアイスオーガの拳がぶつかり合い、衝撃が走る。

 「げげっ! 俺のパンチを止めただとっ!」

 「ヒーローが、悪のパンチに負けてたまるかよ!」

 フリーデンが踏み込み、アイスオーガの一撃を押し返す。

 「なら、こいつをくらえ、アイスミサ~~イルッ!」

 アイスオーガが距離を取り身をかがめて、背中から無数の霜柱を飛ばして来た。

 「なっ! これは、避けるより受けた方が早いっ!」

 激しい音を立てながら、敵のアイスミサイルを受けるフリーデン。

 だが、鎧でダメージは防げてもフリーデンの体は凍り付いてしまった。

 「げっへっへっ! 凍ったな、なら砕くだけだ~♪」

 アイスオーガが空気を凍らせて氷のメイスを作り、フリーデンへと振りかざす!

 「させるか~っ!」

 ジークリンデがドラゴンブレスを吐くが、アイスオーガはメイスを振るいドラゴンブレスを受け流した。

 「へっ! 受け流し判定クリティカ~~ル♪ 死ねや~~っ!」

 アイスオーガが狙いを変えて跳躍し、ジークリンデにメイスを振りかざしたその時フリーデンの氷が砕けた。

 「させるかよ! ホルンブリッツェンッ!」

 フリーデンが角から黒い電撃を放ち、アイスオーガにダメージを与える。

 「リンちゃん、行くぜ!」

 「オッケ~♪」

 ドラゴン形態のジークリンデにフリーデンが乗り空を飛ぶ。

 「砕けるのはお前だ、エクスプロジオン・ファウストッ!」

 闇を纏った拳でアイスオーガを殴るフリーデン、アイスオーガはその身を砕かれ爆散した。

 「フロストン王国、ヤバい敵が出て来たな」

 「そうだね、報告しに行こう」

 敵を倒し、結界を解いた二人は日本支部へと向かった。

 

 「なるほど、フロストン王国かどうやら雪の邪妖精達の組織みたいだね」

 支部に来た二人をアーサーが迎え、図鑑を取り出して調べて見たことを告げる。

 「本拠地は何処なんですか?」

 竜也が尋ねる。

 「それは現在調査中だ、暫くは見つけたら叩いて行くしかない」

 アーサーが答える。

 「了解です」

 竜也も答えた。

 「もしかして、そいつらを叩いて行けば怪物五百体の試練もクリアできるかも?」

 ジークリンデが思いつく。

 「そうか、そう考えればやる気も出て来たぜ♪」

 竜也が納得した。

 「うんうん、若者がやる気を出すのは良い事だな」

 アーサーは何かを企むように微笑んだ。


 「竜也君達がフロストン王国の怪人と交戦した話は届いてますよね?」

 モニターの先にいるクラウスに語り掛けるアーサー。

 「聞いている、早すぎる気はするが戦争に連れて行くしかあるまい」

 クラウスが頷いて答える。

 「領主になる以上、初陣は早い方が良いですよ」

 アーサーが語る。

 「ああ、根回しも済んだしフロストン王国との戦争に投入して行こう」

 クラウスが竜也達を積極的に敵組織との戦闘に投入すると決めた。


 「フロストジャイアントに、フロストウルフにと氷系統の敵が多いな」

 幻想科の魔法図書館にて敵に繋がりそうな情報を漁る竜也。

 「邪妖精も色々あるからね」

 ジークリンデも妖精図鑑などを見ながら静かに呟く。

 「雪や氷の邪妖精は冬になると活気づき、人間界へ攻めて来るか」

 「サンタクロースと邪妖精が戦ってる記録もあるね」

 ジークリンデが竜也に見せた本には、サンタの軍団対青白い小悪魔の群れがぶつかり合う挿絵が描かれていた。

 「とにかく、冬は敵に有利になる季節って事か」

 「気を付けないとね」

 竜也達は気を引き締めた。


 一方、そこは妖精達には常冬の地と呼ばれる場所。

 大地は何処までも白く、木々は凍り付いた雪と氷の世界。

 雪山に立つのは青く輝く氷の城を抱く極寒の国、フロストン王国。

 「……は~、今日も戦果は無いようね?」

 灰色の壁に白い床の謁見の間、白い雪の玉座に座るのは青い氷のドレスに身を包んだ銀髪に白い肌の美少女が一人けだるそうに呟く。

 彼女の名はプリンセス・フロストン、この国の支配者。

 「申し訳ございませんプリンセス! 偵察部隊の者達が、地球のヒーロー共に倒されました!」

 プリンセスに跪いて詫びる雪だるま。

 「何なの? ヒーロー、ヒーローって忌々しい!」

 プリンセスが怒りながら立ち上がり氷のブレスを雪だるまに吹き付ける。

 氷漬けにされた雪だるまが、すぐに元に戻る。

 「妖精女王の軍との戦いも膠着状態であります」

 雪だるまが一礼する。

 「良いわ大臣、時間は幾らでもかけましょう万年雪のように」

 プリンセスは落ち着きを取り戻した。

 「流石はプリンセス、先代の薫陶を受けられたお方」

 大臣と呼ばれた雪だるまがプリンセスを讃える。

 「貴方の賛辞は寒いわ大臣、計画を練って必ず地球を手に入れましょう」

 プリンセスの瞳に宿るのは氷の如く堅い意志。

 「ははっ! 全てはフロストン王国の為に!」

 大臣が気の棒の腕を上げた敬礼をして叫ぶ。

 「敬礼は省略して良いから、お互い休みましょう本日の執務は終了」

 プリンセスはそう言うと、玉座の後ろから退室していった。

 

 プリンセスは氷で出来た青い私室に戻っていた。

 「ヒーローなんて最低、私を毒親からも学校でのいじめからも助けてくれなかったくせに!」

 氷で出来たキングサイズのベッドに寝転がるプリンセス。

 「お母様は私を認めて受け入れてくれた、私を毒親から解放してくれた」

 プリンセスは地球で虐げられて過ごしていた時を思い出していた。

 氷結系の超能力に目覚めたら自分を化け物と罵り部屋に閉じ込めた毒親。

 そんな彼女の家に現れた先代の女王は彼女の実の家族を殺害し、彼女を解放して国へと連れ帰り養女として育てた。

 プリンセスにとって、女王こそが救い主であり家族であった。

 「お母様は地球の春を恋しがっていた、地球を欲しがって戦って来た」

 自分には優しく美しかった先代の女王クイーン・フロストン。

 彼女が妖精界の女王との戦いで敗れた事により、プリンセスは王国を継いだ。

 「必ず地球を手に入れて、凍らせてやる」

 プリンセスは何度目かの決意を新たにした、国の戦力を全て使い果たしてでも養母の悲願を達成すると。


 悲しき少女の怨みと野望が、地球を狙っていた。


 そんな敵の首魁の思惑など知らない竜也達は対照的に暖かく過ごしていた。

 「ヒャッハ~♪ すき焼きよ~♪」

 ファフナー邸では、ジークリンデが大量の牛肉を用意して叫んでいた。

 「リンちゃん、肉が分厚くない?」

 竜也がステーキ肉だよねそれ、と食卓に積まれた牛肉のタワーを見る。

 「大丈夫、ちゃんと火を通して食べ切るから♪」

 ジークリンデは気にしてなかった。

 「ステーキ肉はステーキで別腹で良いんじゃね?」

 「たっちゃん、ナイスアイデア~♪ じゃあすき焼きはスライス肉ね~♪」

 ジークリンデはステーキ肉は冷蔵庫に戻した。

 「継承者よ、野菜の下拵えはできたであるぞ」

 台所では黒月の鎧がエプロンを付けて野菜のカットなどをしていた。

 「黒月、お前伝説の鎧じゃなかったっけ?」

 「されども、今はこの家に仕える身でもあるゆえに問題はない」

 黒月の答えに呆れつつ、竜也もすき焼きの準備を手伝う事にした。

 「まあまあ、新たな敵も出たし英気を養わないと駄目だよね♪」

 ジークリンデが笑う。

 「左様、明日にでも大戦でもない限り平時は英気を養うべし」

 黒月がジークリンデに同調する。

 「ま、食える時に食い寝られる時に寝るってのは聞く話だな」

 竜也も納得し、今はすき焼きに専念する事にした。


 やがて、黒月も揃って食卓に着きすき焼きが始まる。

 「たっちゃんはい、お肉♪」

 「ありがとう、じゃあお返しに♪」

 互いに肉を交換し合う竜也とジークリンデ。

 「そう言えば、継承者の家は隣では?」

 黒月が食べながら疑問を口にする。

 「そうなんだけど、今の内からリンちゃんと過ごして生活習慣とか覚えろってさ」

 「なるほど、通い婚のようなものであるか」

 竜也の答えに黒月が納得する。

 「そうだね、私もたっちゃんの家に行くしどちらかと言うと通い合い婚だね♪」

 ジークリンデが笑う。

 「家が隣同士だからできる暮らしだよな♪」

 「継承者の家庭が円満でないと、我も困るのでありがたい事である」

 「夫婦円満で子孫繁栄しないとね、たっちゃん♪」

 「いや、食事中に言うなよ恥ずかしい」

 「そなたは歴代の中でも、一番夫婦仲の良い継承者かも知れぬな♪」

 竜也が照れて、ジークリンデと黒月が笑う暖かな団欒の時間。

 この温もりが後に力になる事を、竜也達はまだ知る由もなかった。

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