第26話 黒月の鎧 後編

 「……ぐぬぬ、だがまだ腕一本じゃ!」

 「おう、全部きっちり分捕ってやる!」

 鎧取りの儀式は続く、黒月は取られた箇所に闇で出来た黒い腕が生えていた。

 「ちっ、腕が引かれる! 取った部分を取り返そうってかっ?」

 黒月から取った籠手を嵌めた右腕が引っ張られる感覚に襲われる竜也。

 そう簡単には、渡さないと言う事らしい。

 「たっちゃん、頑張れ~っ♪」

 ジークリンデは竜也を応援する、彼女の本心は乱入したがっていたが必死に耐えていた。

 「ああ、頑張るっ!」

 竜也は相手を見つめて腰落とし、力を溜める。

 「影縛りを受けて見よっ!」

 黒月が闇の腕を伸ばして竜也の体に巻き付ける。

 「ふぉっふぉっふぉ、身動きは取れまい!」

 「舐めるなよ、ドラゴンブレスだっ!」

 竜也は鼻から息を吸うと、黒月に向かい大口を開けて漆黒のドラゴンブレスをぶっぱなした。

 「あば~~~っ!」

 ブレスが直撃し、壁に吹き飛ばされて竜也を縛る腕が解けたが黒月の鎧は壊れてはいなかった。

 「やっぱり、お前も闇属性だから威力が弱まったか!」

 「流石は我が継承者、凄まじい陰気よ!」

 属性攻撃はお互いに決まり手にはならないと、格闘に戻る双方。

 「ならば、岩徹っ!」

 「そっちもかよっ!」

 互いに武装した面を使った、ショルダータックルのぶつかり合いになる。

 ぶつかり合いに勝ったのは、竜也だっ!

 「……っしゃっ!」

 「ぶはっ!」

 吹き飛ばされた黒月に追撃する竜也、狙うは足っ!

 「足捕ノ型あしとりのかた籾摺もみすりっ!」

 倒れた黒月の足を取り、膝を両足で挟んでゴリっと捻り足の具足を抜き取る。

 「よっしゃ~っ♪ 足一本っ♪」

 竜也が黒月の右足の具足を奪い装着した事を喜ぶジークリンデ。

 黒月は抜き取られた箇所はやはり闇の足が生えていた。

 「ぐぬぬ~っ! 代々続けて来たが、この悔しさは三代目の時を思い出す!」

 黒月は竜也との対決でこれまでの自分の継承者を思い出していた。

 

 な、何じゃその面妖な蹴りはっ!

 たわけ、嫁御を怖がらせた仕置きじゃ!

 ぐぬぬ~っ! 覚えておれよ~っ!

 黒月は竜也が三代目の継承者に似ていると感じた。

 「そうか、ならお前に現代の継承者である俺を見せてやるっ!」

 改めて右の半身に構え、片手は開き片手は握る構えを取る。

 「ぐぬぅっ、来いっ!」

 「ぶち抜くぜ、鐘撞っ!」

 黒月は飛び蹴り、竜也は突きまたもぶつかり合う互いの攻撃。

 「これで両足はいただいた!」

 竜也は突きを当てるとともに拳からドラゴンブレスを放射して、黒月を足の具足からところてんのように押し出していた。

 「な、何と言う技の使い方じゃ!」

 「俺は岸野流の子であると同時に竜騎士だ、だから両方を組み合わせる!」

 もともと他流派の技を取り入れて来た岸野流、他流と自流の技を組み合わせる事に抵抗がない竜也は岸野流の人間らしいと言えた。

 「その器量、見事なり! だが、我はまだすべて取られてはおらんぞ!」

 黒月に残るのは銅と兜と片腕、まだ終わりではなかった。

 「ああ、お前を全部分捕ってやる!」

 竜也は再び構えた。

 

 「ぶ~、その積極性を私にも向けて欲しい」

 ジークリンデは竜也と黒月に少し嫉妬していた。

 「まったく、男の子と言うものは」

 白陽も竜也と黒月の勝負に呆れていた、彼女には楽しくじゃれ合っているようにしか見えない。

 「白陽の時は、どんなだったの?」

 「私の時は、それはもう可愛らしい学様と激しく~♪」

 白い鎧がくねくねと体を動かす様子はシュールだった。

 「似た者同士って、こういうんだね」

 ジークリンデはため息をつくと、竜也達に目を戻した。


 「竜が虎を制すと申すか、影千本っ!」

 黒月が無数の闇の突きを繰り出して来る。

 竜也は竜の爪を出してその猛攻を必死で払う。

 「突きだけ防げば良いわけではないぞ♪」

 黒月が竜也の足元に影を伸ばす。

 「甘い、これが本当の影踏みだ!」

 竜也が伸ばされた影を踏みつける。

 「な! まさか我の使い方を覚えて来たか!」

 「お前の足なら、お前が出した影を踏んで抑えられると思っていたぜ!」

 竜也が得た力は闇の属性、黒月の力もまた闇の属性。

 同じ属性同士、さらには手足に黒月の具足を纏っているなら相手の技に干渉できると竜也は気づいた。


 「出した影を踏まれると動きが止まるみたいだな、行くぜ!」

 竜也が黒月の闇の腕を払うと踏み込む。

 「極めて、投げるっ!」

 黒月の籠手が付いている腕を取って極める竜也、そこから黒月を担いで投げ飛ばし

腕の具足をすっぽ抜いた。

 激しい音を立てて床に倒れた黒月、残るは銅と兜のみ。

 「……ぐっ、手足が絞め付けられるっ!」

 両手足に黒月の鎧を装着した竜也の動きが止まる。

 「見事なり、だが我柄を身に付けてからが勝負よ!」

 竜也に体を取られても、遠隔で自分の体である具足を操れる黒月。


 「サイズ合わせだろ、負けるかよ」

 竜也はへその下に意識を向け、鼻から息を吸う。

 竜也はこういう時こそ気息を整え、心を平らにしろとの祖父の教えを思い出しながら息を吐いて気を練る。

 「むむぅ! ここで気を練るとは初伝の身でありながらできるっ!」

 「大事な事は初伝に詰まってるって、祖父ちゃんから気功と型を小学生から仕込まれてんだよ!」

 竜也は叫びと共に全身から山吹色の気を噴き出す、気の力で黒月による竜也の手足の縛りが解けた。


 「え? 私、たっちゃんがあんなのできるって知らなかった!」

 ジークリンデが竜也が気を出したのを見て驚く。

 「道行様が竜也様達に気の力は滅多に外で出すなと命じられておりましたから」

 白陽がさらっと答える。

 「私は、たっちゃんに余計な事しちゃったのかな?」

 ジークリンデが落ち込んでしまう。

 「ちょっと待って、リンちゃんそんな事ないって!」

 ジークリンデとの感覚共有で彼女の不安が竜也に伝わり、隙ができる。

 「余所見をするでないわ!」

 「ぐはっ!」

 黒月が竜也に岩徹をぶちかまし、竜也が吹き飛ばされて壁にぶつかる。

 「たっちゃん!」

 ジークリンデが慌てて叫ぶ。

 「ジークリンデさん、竜也様を信じて応援して下さい!」

 白陽がジークリンデに叫ぶ。

 

 「お主、あの女子の事がそんなに大事か!」

 黒月が叫ぶ。

 「……あ、当たり前だろ! 俺は、リンちゃんのヒーローなんだ!」

 竜也が立ち上がり、再び山吹色の気を放つ。

 「俺が身に付けた技もリンちゃんから貰った力も、全部大事だっ!」

 気を整えながら拳を構える竜也。


 「たっちゃん、頑張れ~~~っ!」

 ジークリンデが竜也の真剣さに涙を流しながら応援の叫びを上げる。

 その応援が、竜也に力を与えた。

 「むむっ、継承者の気が膨れ上がり更に黒い気じゃとっ!」

 黒月が竜也から山吹色の気だけではなく黒い魔力も出ているのを感じ取った。

 「これで決める、初伝奥義虎落しょでんおうぎ・とらおとしっ!」

 山吹色の気と黒の魔力が虎の縞模様の如く混ざりながらの体当たりをかます竜也。

 「ぐはっ!」

 黒月が体当たりの衝撃だけでなく気と魔力の双方を流し込まれて痛みに喘ぐ。

 だが、竜也の虎落は体当たりでは終わらない。

 「でりゃ~~っ!」

 体当たりは崩し、虎落の本命は崩しから自らの体を後ろへ倒しての巴投げだった。

 体当たりで気を流された時点で意識がダウンしていた黒月は、地震が多雨屋を突き飛ばした壁へと投げ飛ばされて兜と胴丸が渇いた金属音を立てて転がった。

 「よっし! 黒月の鎧、分捕ったり~~~っ!」

 技を決めた竜也、転がった兜を被り胴丸を身に付けて見事に黒月の鎧を全て取る事に成功したのだ。

 「うむ、勝者は竜也♪ これにて鎧取の儀は終了とするっ!」

 最後に白牙が現れて竜也の勝利を宣言する。

 

 こうして、竜也は黒月の鎧を継承したのであった。

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