第25話 黒月の鎧 前編
「世の中には、間が良いのか悪いのかわからない時があるな」
「……うん、何となく言いたい事はわかる気がする」
「そして、悪い事って重なるんだよね?」
竜也はジークリンデを連れて、岸野流の道場を訪れていた。
「黒月の鎧は、確かに継承権は竜也にあるしそっちの組織から話も
聞いているんだがその鎧の方がとんでもない事になりそうなんだ」
竜也の祖父、道行が溜息をつきながら語る。
「え~っと? 封印みたいなのがされてるんじゃなかったっけ?」
「その封印が今朝破られていたと聞かされてな」
孫の言葉に道行が重々しく返す。
「わかった、リンちゃん探しに行こう」
「おっけ~~♪」
竜也とジークリンデが立ち上がり、黒月の鎧を探しに走って行った。
一方、その鎧である黒月はと言うと竜也を求めて封印されていた山の地下から出て里に下りて来ていた。
「ここが今の人里か、早く我が継承者を見つけねば」
昼間の商店街をガチャガチャと金属音を立てて鎧が動いていれば世間の目が向く。
会社員や学生やらの通行人は一瞥はするものの、怪人やヒーローを見慣れているので気にも留めなかった。
「あら、鎧が動いてる? ヒーロー呼んだ方が良いかしら?」
「わ~♪ 鎧だ~♪」
男の子を連れた子連れの主婦が訝しむ、子供の方は楽しそうだ。
「子連れか、ならば一つ楽しませてやろう♪」
黒月が子連れの主婦の所へと近づき、バイセップアップのポージングを取る。
物前でポージングされた主婦は固まり、子供ははしゃいだ。
「おお、受けておるな♪ ならば型でも見せてやろう♪」
子供に受けた事で調子に乗り、黒月の鎧は岸野流の型の演武を道のど真ん中で披露し始めた。
「何だ? 黒い鎧が踊り出したぞ?」
「スゲエ、鎧の癖にキレキレな動きしてやがる!」
「鎧が踊ってるの受ける~♪」
「やべえ、動画撮るべ♪」
市民達は、黒月が何かパフォーマンスをしていると見てスマホで動画を取り出したりと撮影を始めた。
「おおっ、見物人が集まてしまったか? まあ、民を喜ばせるのは良い事だ♪」
武術の型から、宴会や村祭りで行われた庶民の踊りを踊る黒月。
「こうして踊って、民を喜ばせれば我を纏った継承者も人気者よ♪」
人気取りをしようと頑張る黒月、だが彼もヒーローのスーツ。
見物人の中に悪しき気配を感知した。
「暫く~♪ あ、暫く~~~っ♪」
見物人を不安にさせないようにコメディっぽく振舞い、悪しき気配へと向かう黒月。
見物人も、何が起きたと黒月が向かった駅前の広場を見る。
「そこの貴様、ヴィランであるな? 正体を現せ!」
黒月が、地面に座りアクセサリーを売っている露天商の男を指さす。
すると、露天商の男は立ち上がって笑い出した。
「ば~れ~た~か~っ♪」
露天商の男は口と鼻と耳から白い煙を吐き出して、緑色のイボガエルの怪人に姿を変えた。
「俺の名はドクイボガエル! ホロコーストの怪人だ、毒ボールを喰らえ~っ♪」
ドクイボガエルが自分の体の丸いイボを引きちぎって投げつける。
「させるかっ!」
黒月が体を張ってドクイボガエルの毒ボールを市民に当たらぬように受ける。
市民達は銭湯が始まった区域から避難を始め、一部はヒーローや警察に通報を始めた。
「おのれ鎧の化け物め、貴様は何処のヒーローだ?」
ドクイボガエルが黒月をヒーローの類だと感じ取る。
「我が名は
毒液に身を汚されつつも構えを取る黒月。
「見つけた、黒月っ!」
「あの黑いのが黒月ね!」
フリーデンに変身した竜也とジークリンデが空から舞い降りた。
「おお、そなたは我が継承者♪ だが今は継承の儀式よりも悪党退治が先決!」
「え、戦えるのあの鎧!」
「俺だって、初めて見るよ! 俺も行くぜ!」
フリーデンが黒月に加勢しようと突っこむ。
「この程度に加勢は不要、
黒月の全身から手の形をした影が現れ、ドクイボガエルを絡め取ると持ち上げて空高く投げ飛ばした。
「よし、なら空へ飛んでブレスで止めだ!」
フリーデンが空を飛び、ドクイボガエルへ暗黒のブレスを発射して止めを刺した。
フリーデンが地上に降りると、ジークリンデと黒月が手四つだった。
「やるではないか竜の娘、だが認めんぞ!」
「うっさい、私がたっちゃんのお嫁さんなのは事実なんだから!」
「ちょ! 二人とも止めろっ!」
フリーデンが割って入ろうと近づくと二人が息を合わせて
「止めないで!」
「止めるでない!」
と、フリーデンを静止する。
「いや、息合ってんじゃねえかお前ら!」
「合ってない~っ! ボコボコにして五月の飾りにしてやるんだから!」
「単語の節句だけでなく常に床の間に設置せんか!」
「とにかく俺の嫁と喧嘩すんな! 地元に迷惑だ!」
ジークリンデの背後に回り、腰を抱きしめ引っぺがす。
「うぬぬ~っ! 継承者よ、なぜもっとお淑やかな娘を娶らん!」
「私は十分、お淑やかなお嬢様よ!」
「俺が元気なリンちゃんの事が好きだからに決まってるだろ!」
「な、惚気か! いかん、いかんぞ継承者よ先代は嫁選びでしくじったんじゃ!」
「私はたっちゃんの、SSRで星6の嫁よ!」
「先代の継承者って、何があったんだよ」
離れはしても火花を散らすジークリンデと、黒月。
それはまるで嫁と姑の争いに似ていた。
変身を解いた竜也とジークリンデと黒月は、やって来た警察に事情を聞く為として
警察署まで連れていかれたのであった。
お説教と怪人退治の報酬の支払いを終え、警察署から解放された二人と一領。
「……やれやれ、警察の厄介になるとはなっとらんのう」
「あんたのせいでしょ、馬鹿鎧っ!」
「警察署の前で争うなよ、お前ら」
竜也がジークリンデと黒月を窘めた。
「ぐぬぬ~っ!」
「がるるる~っ!」
「だからお前ら、いがみ合うなよ! 黒月は継承の儀式するから山へ戻れよ?」
「そ~よ! 何でこっちが出向くまで待てないのっ!」
「嫌じゃ、あの蔵は退屈じゃから戻りとうない! 白陽だけ狡いんじゃ~~っ!」
地べたに寝転がってガシャガシャと駄々をこねる黒月。
「とりあえず、祖父ちゃんの道場へ行くか」
「そうだね専門家だし、放っておこうか?」
「ええい、我を置いて行くでないわ!」
足早に岸野流の道場へと向かう竜也達を黒月が追いかける。
竜也達が道場へと到着すると、道行と学が纏っていない
「お兄様? 何故、竜也様やジークリンデ様にご迷惑をかけているのですか!」
道場に入ってすぐに白陽の鎧が可愛らしい美少女の声で叫んだ。
「ひっ、白陽っ! わ、我が悪いのではないわ!」
黒月が言い返す。
「黒月よ、そなたは相変わらず落ち着きがないのう」
白牙も呆れてぼやく。
「まあまあ、色々あったが竜也に黒月を継承してもらおう竜騎士ではあるが」
道行が宥めつつ話を進める。
「ところで、たっちゃんはもう竜騎士なんだけど継承できるの?」
ジークリンデが疑問を口に出す。
「問題はございませんよ、ジークリンデ様♪ 竜也様が直に黒月に変身することもできますし竜騎士になられた際もお兄様を追加装甲として纏えます♪」
白陽の鎧が穏やかに答える。
「竜と虎の力を合わせるのだから、
白牙が名前を提案する。
「で、儀式ってタイマン張るの?」
ジークリンデが今度は儀式の内容について聞いてみる。
「ジークリンデさんは、竹を割ったような性格だねえ♪ まあ、そう言う事だね」
道行が笑いながら肯定する。
「ジークリンデ様は、竜也様を信じてお茶でも飲みながらお待ち下さいませ♪」
「いや、何か軽くない? 本来なら厳粛な儀式だったりするんじゃないの?」
あっけらかんとした白陽の言葉に逆に心配になるジークリンデ。
「さて、そういうわけで姫子と応児君に連絡を入れて来るかお寿司も頼まないと」
道行は、一人道場を退室した。
「道行~? 我が分はサビ抜きの特上を供えるのだ~♪」
白牙が贅沢な注文をする。
「竜騎士の家とはまた違う感覚だな、何か楽しいけど♪」
ジークリンデがマイペース過ぎる道行達を見て微笑む。
「学様の時もこのような感じでした♪」
白陽の鎧もにこやかな感じで語る。
「そう言えば学君は? こう言うのいなきゃ駄目なんじゃないの?」
流派の後継者がこの場にいなくても良いのだろうかと疑問に思うジークリンデ。
「学様は、マルタ様のお家にお呼ばれしてますのでそちらの方が優先です」
「そうなの? まあ彼女の家に呼ばれたなら行かないと駄目だけど」
「ええ、流派の存続の為には次の継承者を確保せねばなりませんから♪」
「そう言う後継ぎとかってのは家もと同じだね」
白陽の鎧に言われて納得したジークリンデ。
「何というか、外野は盛り上がってるな」
「盛り上がる事は良い事ではないか継承者よ♪」
「いや、お前なあ」
これから対決する相手に対しフランクな黒月に呆れる竜也。
「待ってろよ、道着に着替えてくるから」
「うむ、着替えて来るが良い」
竜也も着替える為に道場から一時退室し、着替えを終えて戻って来る。
道行も戻ってきており、今度は正座をして見守っていた。
ジークリンデも正座をする。
「それではこれより継承の義、鎧取りを始める! 両者、前へ!」
白牙が叫ぶと同時に黒月と竜也が対峙し、礼を交わす。
「始めっ!」
白牙の合図と同時に、竜也が動いた。
「てりゃっ!」
「せいっ!」
竜也の手刀と黒月の手刀がぶつかり合う。
「まずはその腕一本もらうぜ」
手刀の打ち合いから黒月の腕を極めて取ろうとする。
鎧取りの儀式、それは文字通り黒月の体である鎧に岸野流古武術の技をかけて籠手やら足甲やらのパーツを分解して竜也が身に付けて行くという儀式である。
「定石通り、だがまだやらんぞ!
黒月が岸野流の突きである鐘撞を竜也に放ち吹き飛ばす!
吹き飛ばされる竜也、クルっとバク転をして持ち直す。
「ちっ! だったら樵で足取りだっ!」
竜也が突進して距離を詰める。
「何の、
間合いを詰めた竜也の額に黒月の肘打ちが襲う。
「フェイントだっ!」
「樵ではなく水車かっ!」
足を黒い鱗に包まれ鋭い爪を持つドラゴンの物に変え、オーバーヘッドキックに当たる蹴り技の水車で黒月の肘を蹴り上げてバラした竜也。
「まずは腕一本、分捕ったり♪」
間合いを取り、肘打ちをして来た方の黒月の籠手を竜也は自分の腕に嵌めた。
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