第23話 スポーツの秋
「やばい、食べ過ぎた~っ!」
風呂上がりに体重計に乗ったジークリンデが叫ぶ。
前回、宇宙に漁に出てまで食欲の秋を満喫したジークリンデ。
その結果として増えた体重に衝撃を受けていた。
「……ううっ、腹筋の上に脂が乗っちゃったよ」
うなだれるジークリンデ、この腹は竜也には見せられない。
「こうなったら、運動して脂肪を燃やさなきゃ♪」
ジークリンデの瞳が燃えた、必ずや腹の脂を燃やし尽くすと決めた目だ。
「えっと、俺にダイエット協力しろと?」
「うん、一緒に運動して!」
翌日、ジークリンデは竜也を呼び出して打ち明けた。
「でも、運動すると腹減るぜ? 後は全く食わないのも駄目だし」
感覚共有でジークリンデの気持ちが伝わって来るので付き合う事にする竜也。
「その辺りは私も勉強したよ、食べ過ぎないようにするから大丈夫♪」
「じゃあ、運動になるような依頼でも日本支部で探そうか?」
「お金も入ってダイエットもできる、行けるよたっちゃん♪」
竜也の言葉にジークリンデが喜んだ。
そして二人は竜騎士ミュージアムとなっている日本支部へとやって来た。
支部長兼館長であるアーサーに招かれた二人は館長室へと入る。
二人は、アーサーと共に応対用の椅子に座り話し出した。
「う~ん、普段頼んでる放課後の見回り程度じゃ運動には足りないだろう?
かといって、展示品の清掃は竜也君なら任せられるがジークリンデ君は怖い」
アーサーが正直に二人に話す。
「え~? 私そんなに大雑把じゃないのに~!」
ジークリンデが不平をこぼすもさらりとスルーするアーサー。
「ジークリンデ君のパワーは自分の性格以上だと自覚しておくように、君と竜也君の二人は竜騎士の歴史の中で生まれた特異点かも知れないんだ」
アーサーが溜息をつきながら語る。
「……え? 俺達って、何かおかしいんですか?」
不安になる竜也。
「私達、普通のカップルなんですけど?」
ジークリンデは不満げに言う。
「良いかい? まず、竜騎士になって一年にも満たない二人が大竜騎士になれると言うのは快挙なんだよ!」
アーサーが一息ついてから叫ぶ。
「知らなかったです、リンちゃんが行けるって言うからそういうもんかと?」
「そうそう、自然に行けるって頭の中のスイッチが入った感じで」
「うん、君達はもしかすると本当に特異点かも知れないな」
「え~っと、それだと何か不味いんでしょうか?」
「私達、何も悪い事してないんですけど?」
「何が起こるかはこちらもわからないが、新たな伝説を築くかも知れない」
「実感はないんですが、頑張ります」
「私達の鎧のレプリカが飾られるかもね♪」
実感がわかない竜也とはしゃぐジークリンデ。
「その時は変身した君達の型を取るよ、そして運動になりそうな案件だがこれはどうだろうか?」
アーサーが立ち上がり、執務机から取り上げたのは一枚のパンフレット。
「あ! 槍試合の時に一緒に走った東海龍王だ!」
「だな、アジア屈指のドラゴン娘らしいけど」
東海龍王がトラックを走る写真が表紙のパンフレットだった。
「そう、ドラゴンレースの覇者である東海龍王だ」
アーサーが続けて何かを言おうとした時、部屋の入り口がドンっ! と開かれた。
「やあ、僕だよ♪」
入って来たのは青いジャージ姿に黒髪短髪の日焼けした美少女、東海龍王だった。
「な! 東海龍王だとっ?」
「ポスターの人だな?」
「何しに来たの!」
「ジークリンデが此処の所属だって聞いて、遊びに来たよ♪」
ドヤ顔でサムズアップする東海龍王。
「いや、普通に入って来れないのかね?」
アーサーは東海龍王に呆れていた。
「パンフレット見たよねジークリンデ? 僕と一緒にレースしよう♪」
気にせずマイペースに話す東海龍王。
「え~? ドラゴンバイトなら受けて立つけど?」
面倒くさがるジークリンデ。
「大丈夫、僕はドラゴンバイトでも強いからどっちもやろう♪」
笑顔を崩さない東海龍王。
「たっちゃん、出ても良いかな?」
「ちょうどいい運動になるから良いんじゃない?」
竜也に話を振るジークリンデ。
「そうか、ならジークリンデ君の秋のドラゴンレースに選手登録をしておこう」
アーサーが支部長らしく話を纏める。
「パートナーと支部長の許可も出た、やったね♪」
嬉しそうに喜ぶ東海龍王。
「えっと、何で私あんたに気に入られてるの?」
東海龍王の考えが読めないジークリンデ。
「何言ってるのさ、一緒に走ったらもう僕達は友達だよ♪」
「タイマン張ったらダチって言う、ヤンキー漫画のノリか?」
東海龍王の言葉に竜也は呆れた。
かくして、次の週に市内の競技場で開かれるドラゴンレースにジークリンデが参加する事になった。
「俺とリンちゃんが走るのはわかるけど、何で委員長も走ってるんだ?」
「たっちゃん、デリカシーがない事言っちゃ駄目!」
「ちょっと、空手の試合が控えてるの」
ジークリンデに付き合いジャージ姿でタイヤを引きながら一緒に校庭を走る竜也。
どういう理由か、黒帯に白い空手着姿でタイヤを引きながらマルタも走っていた。
「ふ~! そろそろ切り上げて見回りの仕事に行こうぜリンちゃん?」
五週ほど走って離脱した竜也がジークリンデに声をかける。
「ごめ~ん! 私、走るからしばらくたっちゃんだけでお願~い!」
ジークリンデは返事をしながらマルタと一緒に走っていた。
「わかった、無茶し過ぎんなよ?」
ジークリンデの意思を尊重し、竜也は一人片づけをして竜騎士としての見回りの仕事へと向かった。
竜也が帰るとマルタとジークリンデは走りながら語り始めた。
「良いの、岸野君を一人だけにして?」
「大丈夫、たっちゃんと私は離れていても繋がってるから」
「本当にそうらしいから羨ましい」
「そっちだって、離れてても繋がってる癖に」
汗を流して走りながら語り合う二人。
「委員長、試合じゃなくてダイエットでしょ?」
「そっちこそ、真面目に基礎鍛錬するような性格じゃないでしょ!」
「私は最初からダイエット目的、レースはついでだけど勝ちたくなったの!」
「……ドラゴンにも、競う相手っていたの?」
マルタの方が先に息が荒くなりながらも喋る。
「ドラゴンのライバルはドラゴンなの~っ!」
ジークリンデが叫びながらも疲れたらしく先に止まった。
そしてマルタも走るのを止めてジークリンデの隣で休んだ。
「そっちも色々あるのね」
「うん、仲間内でスポーツ近いとか色々やってるから」
「竜騎士の定義が行方不明ね」
「私は定義なんて、ど~でもい~っ!」
「ツッコむ気力がないわ」
二人は校庭に寝転がった。
「ねえ、しばらく一緒に走らない?」
「そうね、お互い痩せたいのは同じみたいだし」
「おっけ~♪ 裏切ったら、焼肉おごりだからね?」
「お断り、それやったっらリバウンド確定だし」
「そ、そうだった!」
「私の所のダイエットメニュー教えるけど、試してみる?」
「マジで♪ やるやる♪」
疲れを残しながらも起き上がるマルタと、ダイエットメニューと聞いて跳び起きたジークリンデ。
二人は共に痩せるという目標に向けて手を組んだ。
「で、それがダイエットメニューなんだ」
生姜の漬物と鶏肉が入った大根おろしのスープを見て竜也が呟く。
「生姜で代謝を、大根おろしで消化を良くするんだって♪」
「そして鶏とブロッコリーでタンパク質かあ、ポン酢入れて良い?」
ジークリンデが竜也を家に呼び教わったダイエットメニューを披露する。
「入れなくても大丈夫♪」
笑顔で答えるジークリンデ、言外に入れるなと言うサインだ。
「で、大根おろしのサラダでビタミン類を摂るのか」
「うん、後は糖分と炭水化物控えめで飲み物は温かいので行けるって♪」
「ああ、普通に世間で聞くダイエットの方法だな」
「たっちゃんもしばらくは一蓮托生でよろしく♪」
この日より、竜也もジークリンデのダイエット食に付き合う事となった。
そして、レース当日の陸上競技場。
「ジークリンデ、お腹引き締まってるね♪」
青い拳法着風の勝負服で姿で語りかける東海龍王。
「別に、ダイエット頑張って元に戻しただけだから」
黒いセパレートの陸上ユニフォームの上に鱗の胸甲と腰鎧を纏ったジークリンデ。
「あ~、わかる♪ 食べ過ぎるとすぐお腹出ちゃうよね♪」
「あの時は負けたけど、今日は賞金かかってるから勝ちに行くから」
「僕だって負けないよ、賞金で焼き肉食べ放題するんだから!」
「そっちも狙いは同じか!」
ここでジークリンデは初めて東海龍王をライバルと認識した。
槍試合の時のレースでは負けて少し悔しい程度であったが、賞金が絡んだ事で
彼女の中で東海龍王は蹴落とすべき相手に昇格した。
そして始まるドラゴン娘達の競争、ジークリンデは第一コースの内輪。
東海龍王は第五コースの外輪からのスタートを切った。
「リンちゃん、大丈夫かな」
竜也は客席で走り出したジークリンデを見守っていた。
「行ける、賞金! 焼肉! 賞金! 焼肉!」
ジークリンデは己の欲望を滾らせリズムを取りながら走っていた。
呼気から漏れるドラゴンブレスが彼女を包み黒い嵐と変えていた。
他のドラゴン娘達もパワーで追い抜くジークリンデ。
「賞金と焼肉は僕の物だ~~~っ!」
外周から青い流星となった東海龍王が追い上げて来た。
「負けてたまるか~~っ!」
こいつには負けられない、ジークリンデの闘志が燃えて速度が上がる。
「リンちゃん、頑張れ~っ!」
竜也がジークリンデを応援する、その言葉が力になる。
「……くっ! 僕だって~っ!」
ジークリンデに追いつく東海龍王、だが竜也の応援を受けたジークリンデはそれを追いこす。
自分い喰らいつく東海龍王をジークリンデが追い越し、ゴールに辿り着いた。
「よっしゃ~~~っ♪」
汗まみれになりながらも笑顔でガッツポーズを決めるジークリンデ。
「ま、負けた! うわ~~~~ん!」
二位となった東海龍王はゴールにたどり着くと泣き崩れた。
他の選手達も驚愕していた。
予想外の大勝利を収めたジークリンデは賞金を見事ゲットした。
「運動した後の焼肉、最高~♪」
「おめでとう、リンちゃん♪」
レースを終えたジークリンデは竜也を伴い焼肉店へと来ていた。
「お肉焼いて♪ あ~んして食べさせて♪」
「はいはい♪ 野菜も食べようね♪」
竜也が肉を焼きジークリンデに食べさせる。
「あ、僕にも焼いて♪」
「はいよって、ちょっとまて!」
「ちょっと、何であんたが此処にいるの!」
「僕は自腹でやけ食いに来たんだ♪」
竜也とジークリンデの席に東海龍王が来ていた。
「だったら、一人寂しくボッチ焼き肉でもしてなさいよ!」
二人の時間を邪魔されたジークリンデが怒る。
「リンちゃん、焼けた肉は飯に乗せるぜ」
「うん、たっちゃんありがとう♪」
竜也には可愛く反応するジークリンデ。
「僕も混ぜてよ、友達じゃないか♪」
「友達なら、邪魔するな~!」
こうして、東海龍王に絡まれつつも竜也と勝利の焼肉を楽しんだジークリンデ。
その結果、また振出しに戻ったのは言うまでもなかった。
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