閑話 カイトの旅。 1
カイトは…冒険者に為った。
ランクを上げてBランクに為り、リリデアの町を出る事にした。
そしてカイトの目的は、6年前に自分が傷を付けてしまった人を探す旅に出たかったからだ。
「なぁカイトよ!そんなにジュリの事が忘れられねぇの?」
「そうだけど?なに」
「なにって、お前今更探してよ!見つかってもよ……、あのジュリの性格だぞ?お前の手なんて二度と取らねえと思うぜ?俺はよ。その証拠に、六年も町に帰って来ないのがその証拠だろ?ん?」
「それは……そうだと俺も思うよ。でもさ、謝る事はできるだろ?」
カイトは後悔していた…それはもう何年もだ。
10才のあの時、ジュリの差し出した手を意地を張り取らなかった事を。
ジュリとの旅が疲れたと言うのもあるが、人と出会うと必ずトラブルに見舞われるのが嫌だったのだ。
たかがそれだけの事で、ジュリのあの優しかった手を取らなかった。
その優しさが、失くなったと分かったのは。
ジュリと離れて、思い知らされたのは暫く経った頃だった。
リリデアの町で、一人で暮らし。
13才の年で冒険者に為り、依頼を受けて報謝を貰って一人で喜んだが……虚しかった。
ここにジュリが居たなら、どんな言葉が返って来たのだろうかと。
今でも山の中でさ迷う夢を見る。
あの暗くて寒いくて怖い森の中を、さ迷う夢と10才の頃のあの夢を。
16に為っても、背が伸びてジュリに追い付こうが夢を見るのは…ジュリと会った時の夢だ。
俺はチビで泣き虫で、泣いてばかりの俺に優しくしてくれた。
身元も分からない小汚ない餓鬼を、拾って食べ物をくれて服をくれた。
暖かい寝床を用意してくれたあの夢を。
繰り返し、繰り返し……夢にでてくる。
そして、俺がジュリの手を取らなかったあの瞬間で目が覚める。
何度手を伸ばしても届かないのだ。
それが嫌で嫌で、あの頃の自分が嫌いなのだ。
だから手を取りに、必ずジュリを見つけ出してあの手を取って夢を終わらせると心に決めたのだ。
「だけど行くんだよ。兄ちゃんに預かった金は、そのまま預けて置いていいか?ギルマス」
「……そんなもん、良いに決まってるだろ?バカが!」
「ひっでぇ~誰がバカだよ!」
「それは、お前のこった」
「本当に酷いよなぁ~!さて、ソロソロ行くかな?」
「お、おい!宛もなく行くんだろ?お前気を付けろよ?ランクは上がったとはいえ…未だBランクだ!油断するんじゃねえぞ!」
「分かってる、油断しないよ。じゃ行ってきます」
「おう、行ってこい!バカ息子!」
「最後まで酷いなあ……」
じゃ!と言ってギルドを出て、町を出た。
「さて、どこに行くかなぁ……宛も無いし兄ちゃんみたいに空も飛べないしなぁ…?仕方ない地道に探して歩くか。先ずはこの国をでないとな!」
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