第81話 おめでたい話

「くそぅ!こんなところで、終われないんだ。

 私は国に帰って、やる事が……」

 息苦しそうに喘ぎながら、リチャードは悪態をつく。


 もう必要ないと判断したのか、竜化を解いた琉旺さんに、シュウちゃんがすかさずマントのようなものを渡している。

 着ていた洋服はビリビリに破れてしまった為に、彼は裸なのだ。


「何をすると言うんだ?また誰かを騙したり、法に触れることをして金を稼ぐのか?」

 マントを羽織った琉旺さんが問いかける。

 リチャードは答えない。

 目は虚にどこか別のところを見ていて、何かを言おうと口をハクハクさせる。

「グフッ………ああぁリリ、心配するな。

 兄さんがなんでもしてやるぞ。

 どんなことをしてでも、お前のことを守ってやる」

 リリとは、リチャードの妹だろうか?


 リチャードは、琉旺さんが子供の頃から彼を付け狙い、何度も命の危機を感じる様な危険に晒してきた。

 罪のない動物を金儲けのために、残酷に狩って殺してきた。

 きっとそれだけじゃない。金が手に入るのなら、もっと色々やってるだろう。

 でも、リチャードには、そうしてでも守りたい存在があったのだろうか?

 彼なりの正義があったのかもしれない。


 ああ嫌だ!!!そんなことは、ほんの少しも知りたくなかった。

 勿論、リチャードの正義を知ったところで、今までしてきた悪事がチャラになるなんて事はありえない。

 けれども、その一端を知ってしまって、ほんの少しでも気持ちが揺れてしまうのがたまらなく嫌だ。



「わた……しを、………これで屠れると思ってもらっては……フフ、困ぁりますね。

 ………羽ぁり……まだ、います。

 まだ、ぉわって………な……ぃ」

 リチャードは、ハァハァと苦しげに喘ぎながら、まだいる羽蟻の存在を仄めかして、誰かが自分に続くだろうと、脅しをかけてくる。

 大変有効な手段だ。

 実際に、まだこれが続くのかと想像しただけで、体中に鳥肌が立って、震えてくる。


「ふふん、安心しろ」

 リチャードの言葉に答えるように、どこかから声が聞こえる。

「お前の言う羽蟻ならば、我と、我のつがいが、残らず綺麗に食しておいてやったぞ。

 お前は、思い残すことなく、冥府に旅立つが良いぞ」


 え?

 キョロキョロ頭を振ると、

「ここだ、ひなこ。足元だ」

と、聞こえる。

 見ると、ロンちゃんと恐竜ちゃんがいる。

 ………食べたのか?羽蟻を。


「ロンちゃん………食べたの?

 お腹壊さないの?大丈夫?ウィルス持ってる蟻でしょ?」

 見れば、確かに二匹とも、お腹がパンパンに膨れている。

「案ずるな。我らは、竜と恐竜だぞ。センザンコウにはならん」

 そうか?そうなのか?

 まぁ…………ロンちゃんがそう言うなら、信じよう。

 後で、なるべく早く、昭雄叔父さんの所に行って、胃薬と整腸剤をもらおう。


「なるほど、言い伝えは本当でしたか。

 “もしも竜家の根幹を揺るがすような大事が起こった際には、卵が何らかの手助けをするだろう。“

 まさかそれが、羽蟻を食い尽くすことだとは思いもしませんでしたが……。

 しかし、助かりました。

 ささ、狭いですが、この中に入ってお休みください」

 シュウちゃんは、そう言いながらケージの蓋を開ける。

 ロンちゃんと、恐竜ちゃんは、お腹が重そうにしながら、のそのそとケージに向かう。


「ちょ、ちょっと待って!!ロンちゃん!

 さっき、我のつがいって言わなかった?ってことは、何ですか?

 お二人は、ご夫婦になられたんですかぁ?」

「ひなこ……、そう大きな声で叫ぶな。

 十分聞こえているぞ。

 祝儀は、はずんでくれよ」

 ロンちゃんは、髭をひょろりっと動かすと、そのまま恐竜ちゃんを伴ってケージの中に入っていった。

 そっか………恐竜ちゃん、メスだったんだ。





 ロンちゃんのおめでたい話を聞いて、ぼんやりしていた私の耳に、大勢の足音が聞こえる。

 遼ちゃんと、三嶋さん、ムウさんはグリーンイグアナを抱いている。

 ふぁ!その子って、私が天井裏から覗いた時にいた子じゃ?


 おまけに、知らない人達もたくさん………。

 琉旺さんのおじい様の使いの者ですと名乗ったおじさまが、連れてきていた人達に指示して、片付けをしてくれるらしい。

 遅いよ……。

 もっと早くきて、お手伝いして欲しかった。



「いやぁ、何ぃ?ここ……めっちゃ、蛍いるやん。

 綺麗、ロマンチック〜」

 それでも、元気な三嶋さんの声を聞いて、ささくれ立っていた心が凪いできてホッとする。

 見れば遼ちゃんを始め、三嶋さんもムウさんも、えらくお疲れの様子だ。

 グリーンイグアナちゃんは、ムスッとして機嫌が悪いように見える。


 遼ちゃんは、部屋の中の蛍や発光キノコを見て悟ったのか、苦く笑う。

「ごめん、ねぇちゃん。停電は俺たちのせい。

 サーバーに負荷かけて壊してたら、やりすぎて電気落ちちゃったんだよ」

 ハハハハハと笑いながら、悪びれもなく遼ちゃんが宣う。

 

 聞けば、停電してしまい、中途半端にしか壊れていないサーバーを、近くにあった金属の棒で、物理的に壊してきたらしい。

 仕方がないので、回復魔法をみんなにサービスしておいた。

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