第80話 ケラチン分解

 う〜ん………。

 正直、この手の研究はあまり熱心にして来なかったので、知識が足りない。

 誰かが、大学で研究してて、資料を読んだような覚えがあるんだけど……。

 私は、一生懸命に、頭の中の記憶をたぐり寄せる。


 極めて分解が難しいケラチンも、自然界にある分解性細菌によって、分解されたという報告はあったはず。

 その中で、ゴミの堆肥化処理の研究に用いられている、『好熱性細菌H328株』を用いて、約30度〜70度の範囲で数時間から、数日をかけて分解する方法を取ったっていう、研究が進められている資料を読んだことがあるけれど、流し読みしかしなかった為、詳細を覚えていない……。


 困ったなぁ〜。

 正直、失敗したところで、リチャードがどうなろうが知ったこっちゃないけど、琉旺さんに影響がいっちゃうのが怖い。



 暫く、うんうん唸っている間にも、琉旺さんとリチャードは戦いを継続している。

 リチャードが、センザンコウの鱗で覆われている尻尾を、闇雲に振り回しているから琉旺さんは無闇に近づけない。

 

 ヨシ!試しにやってみよう。

 腹が座った私は、また両手に数珠を握ってリチャードの方を向くと、ゆっくりと目を閉じる。

 私は、脳内でイメージし始める。


 分解性細菌を培養後、センザンコウの鱗に塗布。

 外気に晒されると、温度管理がしにくいので、周りをコーティング。ラップで覆うようなイメージだ。

 適温がはっきり分からないため、30度から徐々に温度を上げていく。

 まずは、30度。続いて40度に温度をゆっくりと上げていく。

 途中、細菌を活性化させるために撹拌をイメージする。

 40度から、ゆっくりゆっくり温度を上げる。


 そこで、リチャードに気づかれた。

「ちょっとぉ!私にぃ、何かしています?さっきから暑い……」

 

 当たり前だ。

 体の鱗にラップして、温度を上げていっているんだから、そりゃ暑いだろう。

 文句を言われたところで、やめるつもりなどない。

 無視して、イメージすることを続ける。温度は、50度近くまで上がった。


 リチャードは、暑い、暑いと言って、息が上がっている。

 突然、ずっとイメージし続けていた私の頭の中で、鱗がぐにゃりと柔らかくなったような画像が浮かぶ。

「琉旺さん、攻撃!」

 叫んだ、私の声を聞いて、琉旺さんは咆哮をあげる。


「グワァァァァァァーーーー!!」

 後ろ足にグッと力を入れると、助走をつけてタタタッと走って飛び上がった。

 そのままドスンとリチャードの上に飛び乗ると、三叉に分かれている足と手の鉤爪を食い込ませる。


 バリバリバリ


 リチャードを覆っていた鱗は、音を立てて剥がれ落ちる。

「ギャァァァ!!」

 リチャードの悲鳴が聞こえる。


 琉旺さんは、間髪入れずに、長い尻尾をしならせる。

 グレーに青い波紋が広がる美しい尻尾は、空中に金属のようなグレーの残像を残しながら、ビュンッと音を鳴らしてリチャードの体を打ち据えた。

 そのままリチャードの体は、吹っ飛ばされて近くの壁に派手な音を響かせて叩きつけられる。


 私のイメージしたケラチン分解の方法は、効果があったのだろう。

 壁に当たった衝撃で、またしても鱗がバラバラと剥がれ落ちた。

「グハァッ………!」

 喉から苦しげな声を発すると、ゲホゲホと咳き込んでいる。

 咳き込むたびに、パラリパラリと鱗は剥がれ落ちていく。

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