第68話 誰の卵?

「………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????」

 幾ら、私が、トカゲオタクだと言っても、幾ら、鱗や爬虫類をこよなく愛していると言っても、恐竜の卵が現代に存在しないことくらいの、分別はついている。

 いや、でも、琉旺さんは、竜家の時期王で、恐竜の末裔……ってことは、ありえるのか?


「も……もしかして、あの、あの卵って………琉旺さんの……?」

「俺は、オスだ!!!」

 そこの返答は、オスになるんだ……。

「いえ、カタツムリみたいに、雌雄同体というのもありますし……」

 琉旺さんに、ひどく恨みがましい視線を向けられて臆した私は、ゴニョゴニョ口の中で言葉を呟く。

「てっきり琉旺さんが、拉致られてた間に産んだのかと……」

 私の小さな、小さな呟きは、琉旺さんの耳に届いていたようで、

「一体、俺と、誰の卵なんだよ!!」

と、ツッコミを入れられた。

 え?そんな誰かだなんて……。

 頬を赤く染めた私は、チラリと目線を送ったが、すぐさま俯いた。

「陽菜子………、俺とシュウは、そんな関係じゃない!!!俺も、シュウもオスだ!オス!!!」


「あれは、代々、我が竜家に引き継がれる卵です」

 私と、琉旺さんの生産性のないやりとりをぶった切って、落ち着いた声で、シュウちゃんが説明を始める。

「本来は、こんな場所にあるべきものでは無いはずです。

 現在の王、羅将さまの元で庇護されるべきもの。

 果たして、今となっては、恐竜の卵かどうかを証明する術はありませんが、竜家では、祖先の……つまり恐竜の卵として、代々受け継がれ、今代の王が力を注ぎ、次代に受け継ぎます。

 そうして、次々に力を注がれ、受け継がれるものです。

 もしも、竜家の根幹を揺るがすような大事が起こった際には、卵が何らかの手助けをするだろうと言い伝えられているものです」


 確かに、縦の細長い卵はまるで爬虫類の卵のように見える。

 艶々と白い表面は輝き、今にも中の何かが産まれそうな様子で、古い卵のようには見えない。

「なるほど、この竜家の王の力が注がれている卵に細工をすることで、我々竜の力を阻害しているわけですか……」

 何やらシュウちゃんは、1人納得したらしく、ふんふんと首を縦に振って納得している様子だ。

「竜よ。で、この卵をどのようにするおつもりですか?

 内容よっては、賛同しかねますが……。

 幾ら、本物の恐竜の卵かどうか判断しかねると言っても、これは竜家の象徴のようなものですから。

 破壊行為を行うのであれば、全力で阻止いたします」

「フン、オオトカゲよ。

 心配せずとも、卵を壊したりはせぬよ。

 まぁ、面倒くさいので、壊すという選択肢がなかったわけではないが、あれは、竜家の卵。

 今の我では壊したくとも、壊せん。そんなに力が残っておらぬ」


 力が残っていない?若しかして、竜はこのまま消えてしまったりするんだろうか?そうなったら、ロンちゃんはどうなるんだろう?

 心配になって、私は、竜の鬣を撫ぜる。硬い感触の太い毛を撫ででいると、

「ふふふ」

と、くすぐったそうに笑って、竜はこちらにぐるりと顔を向けた。


「さて、ひなこ。我の残りの力と、お主の力を合わせて、あの卵をかえそうぞ」

「………………つまり、恐竜を孵化させるって言ってます?」

「そうじゃ。かえしてしまえば、こんなふうに利用されずに済むからの」

「え……でも、かえした後の面倒は誰が見るの?餌とか、住む場所とか……」

 この世に生を受けさせたは良いが、その後、面倒が見れないので、処分するなどと言う話になったら、それこそ最悪だ。

 しかも、相手は恐竜だ。どこまで大きくなるのかさえ想像できないのだ。


「心配するな。我に任せておけ。最悪、大きくなってしまうのなら、我と海に帰ってもいい」

 そうか、竜には帰るところがあるんだ。竜だもんね。

 竜にそう言われて、そう言うのならばと腹を括ることにした。 


 竜は、長い髭がふわり、ふにゃりと動いてまるで笑うように、大きな口を曲げる。

 竜が髭を靡かせ、同時に鬣も風に吹かれるかのように、たなびき始めると、どこからか、小さく透明な水の塊たちが、揺めきながら空気中を飛んで集まってくる。

 集まってきたそれは、一緒になって一つの塊を作り始める。

 玉が大きくなり始めると、内側からほんのり青白い光を放ちながら、最終的には私の手のひらに乗るくらいの大きさになった。

 ほんのりとミルク色に光る美しい玉は、私の手のひらの上に乗っかる。

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