第67話 一体何の卵?

 恐らく、この地下の最奥部だろう場所に辿りつくと、そこは、重そうな金属の扉が閉まっている。

 気づけば、一緒に来ていた遼ちゃんと三嶋さん、ムウさんの姿がない。

 どこに行ってしまったんだろう?

 ただ、竜の背に乗っていただけの私には、いつ3人がいなくなってしまったのかさえも分からない。


 竜は、先ほど、壁を打ち破ったのと同じように、尾を打ち付けてみる。


 ドドーン!ドドーン!


 重い音が響くが、全くドアが開く気配はない。

 金属が若干凹んだくらいだろうか?

 竜の力を持ってしても、表面にほんの少し凹みをつける程度の金属とは一体何なのだろう?

 さっきのあの部屋の壁は、あんなにいとも簡単に崩れたと言うのに……。


「ふん……、無理なようだな」

 竜は、一言言葉を発すると、フッと笑うように口から空気を漏らした。

「さて、ひなこ。しっかりと我に掴まっておれ、お主らも気をつけよ」

 琉旺さんとシュウちゃんは、竜に言われて足を踏ん張ったように見える。

「はあ……」

 しかし、掴まっていろと言われて、ピンと来なかった私は、曖昧に返事を返す。

 そのことを、ほんの数秒後には酷く後悔した。


 竜は、クワァァァァァっと、深く息を吐き出すと、体中の全ての鱗を逆立てて筋肉をいきり立たせた。

 文字通り、鱗という鱗が、ビキビキと音を立ててグワッと一斉に逆立つと、竜は一度胸をのけぞらせて目を瞑り、次の瞬間、その目をギロリと見開いたときには、辺りは真っ白に感じる程の光の洪水で、私は、目を開けて居られなかった。


 しっかりと閉じた瞼の裏側ででも、外側は白い光で満ち溢れ、今ままで見たどの白い色よりも、真っ白の世界が広がっているだろうことは、間違い無いと思わせた。

 幸い、私は竜の角に掴まっていたし、乗っかっていた部分も頭側の鬣のところだったため、逆立った鱗に傷つくこともなく、目を回して落ちることもなかった。(眩しすぎて、目が開けていられずに、クラクラし通しだったけれど……)


 どこか、遠くの方で、何かが弾けるような、重い物が何処かに当たる、酷く大きな音が聞こえたような……。

 しかし、兎に角周りは真っ白な光の中で何も見えず、竜の角を離して仕舞えば、私には上か下かさえも分からない世界に放り込まれる恐怖に見舞われたため、必死で角にしがみついていた。



「ひなこ、待たせた。

 さて、ここからは、更に我らは共に力を合わせ、立ち向かわねばならまいぞ」

 竜に声をかけられて、ようやく私は、恐る恐るではあるけれども、硬く閉じていた瞼を、ソロソロと開いてみる。


 そこには、目を閉じる前に広がっていた、白い壁も、硬く重そうな金属の扉も……何一つ遮るものが無く、白いリノリウムの床に、いくつもの長い作業台があるだけ。

 作業台の前の棚には、何かの標本がたくさん置かれている。虫?蟻?近くに行かないと分からないが。


 そこは、所謂実験室と呼ばれる体裁の部屋が広がっていた。

 その部屋のクリーンベンチの中に、よく分からない、沢山のコードに繋がれた卵?があった。

 けれど、ガラスで覆われた80cm四方程度の作業台は、特に殺菌もランプついてなければ、FANも回っていない。何のスイッチも入っていない。

 一先ず、この中に入れておけという判断だったのかもしれない。


 竜は、私が降りやすいように体を低くした。

 竜の鬣からスルリと降りる。


 目の前の丸っこいものは、卵じゃあないのかもしれない?

 白くすべすべとした、硬い殻に覆われた、縦長で楕円形の……鶏の卵よりは細長い、30cm程度だろうか?大事そうに台座に乗せられて鎮座している卵にしか見えないもの。


「あれ……何?」

「卵だ」

 私の問いに答えたのは、琉旺さんだ。

「卵………一体何の?」

「恐竜だ」

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