第60話 ゴフゥッ

 と言っても、手下(?)の人達は素早い動きで、私たちを取り囲んでしまった。

 そうして、あっという間もないまま飛びかかってくる。

 またしても、琉旺さん達3人は、私たちを庇いながら、相手の男達の攻撃を受けながら戦い始めた。


 さっきは、天井裏から落ちた木屑や埃が舞って視界が悪かったし、狭い廊下で動きが制限されていたんだろう。しかし、ここではそんな配慮もいらない。

 制限のない状態で縦横無尽に戦い始めた彼らを見て、私は固まってしまった。


 驚きと恐怖で、体が固まって動かなくなってしまったのだ。

 今までの人生で、スポーツは程々、喧嘩もなるべく避けまくって(と言うか、人付き合い自体を避けていたし……)格闘技なるものでさえあまり見た事のない私は、戦闘なんてものとは無縁の生活を送ってきたのだ。

 勿論、映像で人が戦うシーンを見たことは何度もあったけれど、映像で見るのと、リアルで見るのとでは当然ながら臨場感が全く違った。

 さっき廊下で、琉旺さん達がやり合った時も、正直ビビっていたけれど、遼ちゃんが直ぐに引っ張り出してくれたから、その場にいながらもなんだか、映画でも見ているような気分だったのだ。

 


 相手を殴ったり、蹴ったりする時に出る、“ゴキィ“と言う音や、“バキャ“と言う音がリアルに耳に届く。

 蹴られた相手は、「ゴフゥッ」と喉から声を発しながら、後ろに倒れる。

 琉旺さんは私を背後に庇いながら、向かってくる手下達の相手をしている。


 私がいる事で、琉旺さんの動きが制限されているのは、火を見るよりも明らかだ。

 戦う術を持たない私は、早くこの場を抜けて、どこか隅っこの方で邪魔にならないようにしなきゃと思うのに、瞼がパシパシと、普段よりも多い回数で瞬くくらいで、手足がまともに動いてくれない。

 困った……どうしよう……。頭の中も大して動いてくれない。

 パニック寸前だった私の手を引っ張ってくれたのは、またしても遼太だった。

「こっち。早く!」



 いつもは、我が家のあざと可愛い担当である亮太は、姉として守るべき存在だ。

 けれど、今、彼は私に半ば覆い被さるようにして守りながら、ソファのあるところまで誘導してくれた。


「ねぇちゃん、大丈夫?三嶋っちも……」

「うん……。なんやアドレナリンが出てるんか、返って落ち着いてるわ」

 三嶋っち……。その呼び方に、ちょっと引っかかったけど、そこに突っ込んでいる余裕はないんだったと思い出す。


「遼ちゃ……ありがと。………私、体が動かなくって……」

「うん。ねぇちゃん、琉旺さんの近くにいたから、まともに攻撃受け返してんの見て、怖かっただろ?

 俺たち、敢えて距離取ってたから、俯瞰で見れたのが良かったのかもな」

「そっか……。音とか凄くて、かなりビックリしちゃった」

 話していると、状況把握が出来てくるからか、だんだんと落ち着いてくる。 

「はい。陽菜子ちゃん、お茶飲みぃ」

 三嶋さんが、 渡してくれたお茶で喉を潤す。


 ソファの後ろ側に陣取って、琉旺さん達が戦っている様子を見る。


 ゴスッ!


 ちょうど、琉旺さんの足が、相手の横腹に綺麗に入った。

 本当に強いんだな。訓練を受けたって言っていたのは、本当だったんだ。動きに迷いがなくて、無駄がない。

 シュウちゃんや、ムウさんもとても強い。この2人は、どちらかというと力で押すタイプのようだ。

 蹴りや、跳躍が多い琉旺さんの動きとは、また違った戦い方なんだなと、観察してしまう。

 こちらが3人で戦っているのに対して、あちらは、2、4、6………8人いるけれど、琉旺さん達の方が優位なようだ。


 この時点で、竜口の叔父様の姿は見えなかった。

 戦況が悪くなってきたから、どこかに逃げたのかもしれない。




 そこへ、遼ちゃんから声がかかった。

「ねぇちゃん、これ」

「何?これ?ネックレス?」

 遼ちゃんが、ポケットからゴソゴソと出してきたものは、琥珀色の石が輪っか状に、長く連なった物だ。

 蝶々結びのような紐が結ばれて、房が付いている。

 そういやぁ、こんなのお守りなんかに付いてるなぁ。


「それ、ねぇちゃんの母ちゃんから、預かってきた」

「…………」

 ねぇちゃんのか?あちゃん………ねぇちゃんのかぁ、チャン♪……ネェチャンノカアチャン……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る