第59話 ええい!やってしまえ!

 琉旺さんに、『ソウ叔父』と呼ばれたその人は、白いものがちらほらと紛れて、グレーの髪色に見える髪を、後ろに撫でつけている。

 鋭い目は、濃い茶色だが、やはり光の当たり具合で濃い金色に見えなくもない。

 高い鼻は鷲鼻で、角ばった顎に太い首。

 唱子さんのお父様ならば、60歳前後だと思われるけれど、その年齢の割には、がっしりとした体躯をしている。


 その竜口の御当主を見たムゥさんは、固まってしまった。

 まさか、自分の屋敷の主人が加担しているとは、思いたくなかったんだろう。


 しかし、絶対、ドアから入ってくるタイミング見計らってたよなぁ……と思う。

 自分の話題が出て、次に名前が出た途端に、バーンってご登場だもんな。

 名前程度のことしか知らない人だけれど、私の中では、この登場の仕方だけでかなり目立ちたがりで、自己中心的な人のイメージが確定してしまった。

 まぁ、唱子さんのお父さんだしね。



「ふぅ……」

 琉旺さんのため息が聞こえる。

「ソウ叔父、その男達は、竜口の者達ではありませんね?

 私が予想している男の配下ですか?」

「クククク……流石ルゥ様は、勘が鋭い……」

 愉快そうに、肩を揺すって笑っている。もう、完全に悪役にしか見えない仕草だ。


「いつから?」

「さて、いつからだったか?正確に覚えておりませんな」

「っ…………」

 琉旺さんは、しばらく竜口の叔父様のことを睨んでいたけれど、はぁっと、ため息を吐くと、諦めたように目線を少し落とした。


「そうですね。いつからか等、どうでも良いことでした。

 重要なのは、あなたが竜家を裏切る行為をしていたことだ!」

「ククク……確かに。しかし、ルゥ様。

 だから、どうすると言うのです?ここでは、貴方の力は使えない。ご存知でしょう?」

 


 そう言えば、さっき天井裏で、竜の力が使えなくなっているって話をしていたような……。

 それって、一体どうしてだろう?電波を遮るシールドみたいなもの……つまり、竜の力を遮るものが何処か一部、若しくは、この地下施設全体に施されているのだろうか?


「この部屋、豪華でしょう?この部屋で、色々と交渉を行うことが多いのでね……。

 この部屋が、一番竜の力を振るえない様にしているのですよ。

 ここでは、数の力を持っている方が有利。

 つまり、私に逆らうことは出来ないと言うことですよ。

 出来れば、大人しく私の言うことを聞いて頂きたいものですなぁ……」


「一先ず、そちらの要求内容を聞こうか」

 冷静に聞き返した琉旺さんに、竜口の叔父様はニンマリと笑った。

「唱子と結婚して、世継ぎを設けてもらいたい。

 そして私を、貴方の後継に任命してもらいましょう。

 今は、羅将さまが後継をしておられるが、羅将さまももうお年。

 今後は、私が代わりに時期王の後継を担いましょうぞ」


 琉旺さんは、黙って竜口の叔父様の言うことを聞いていたけれど、口の端を歪めてフッと空気を漏らすと、低い声で笑った。

「ククククッ………、ソウ叔父。貴方のその言い分を、本当に私が聞き入れると思っておいでなのか?

 その調子では、貴方の悲願である竜家を一つにまとめるどころか、竜口の家の今後さえ危ういと思いますがね。

 どうせ、この部屋を作ったのも、奴に言われたからなんでしょうが。

 何かヘマをして、弱みでも握られましたか?」


 皮肉げに琉旺さんに言われて、竜口の叔父様は、一瞬で真っ赤になった。

「な………、そんな生意気な口が聞けると思っているのか!!」

「ソウ叔父、じい様のことを、年寄りで耄碌もうろくし始めているなどと侮っていると、後悔することになるぞ。

 確かに、年はとったが、じい様は今でも竜家の現王だ。それが意味するところを考えた方が良い。

 こんなところで油を売っていないで、疑われた時の言い訳を用意しておいた方が良いとご忠告しておこう」



 琉旺さんに煽られて、どんどん、赤くなっていく竜口の叔父様の顔を見ながら、心配になってきた。

 唱子さんのお父様だし、元々激しやすい方なのだろうけど、あんなに顔を赤くするってことは、心臓や脳の負担が大きいのではないだろうか?プツンといかなきゃ良いけど……。


 今にも地団駄でも踏みそうに、悔しげな表情をしていた、竜口の叔父様は、引き連れていた柄の悪そうな男たちに向かって、唾を飛ばしながら大声で怒鳴った。

「ええい!!やってしまえ!

 どちらが上なのか、思い知らせろ!わしの言うことを聞きますと言うまで、体に教え込んでやれ」

 ビックリするほど、典型的なセリフだな……。

 今時、時代劇でもなかなか出て来ないような、悪役っぷりに驚きを隠せない。

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