第49話 ムウさん登場

 パソコンを立ち上げた遼ちゃんは、立ち上がるのを暫く待っていたが、パスワードを入力する画面が現れると、暫くじっと画面を睨んでいた。

 当然ながら、昨今どの情報処理端末にもパスワードロックするのは当たり前のことだ。

 ところが、遼ちゃんは、暫く壁を見たり、アルマジロトカゲのロンを見たりしていたけれど、ふっと私と目が合うとニヤリと笑って、PCにダカダカ打ち込んで、リターンキーをパコーンと叩いた。


「ふははは、琉旺さんって……乙女だよな」

 パスワード、何だったんだろう?

 気になったけど、聞いてはいけないと思ったので、黙って、遼ちゃんがタカタカたてるキーボードの音を聞く。

 三嶋さんは興味深げに横から画面を覗いている。


「ねぇちゃんさぁ、パスワードは何にしてる?」

「え??何って、その……誕生日とかにしちゃダメなことくらいは分かってるから、それ以外の自分に関連する数字だよ。

 それに、ちょっとアルファベットを足した感じ」

 私が、答えると、遼ちゃんも三嶋さんも眉尻を下げて、ハァっと息を吐いて、呟く。

「琉旺さんって、かわいそうだよな……。でも、この大して愛されてない感がたまんないのかねぇ?」

 え?なんで、かわいそう?私、ちゃんと琉旺さんのこと、好きだけどな……。

 

 

 遼ちゃんは、しばらく黙って画面をスクロールしていたが、「よし!」と満足した顔でニンマリ笑った。


「一先ず、個人のフリーメールアドレスっぽいところでやりとりしてたMUNEYUKI RYUGUCHIって人に連絡くれってメールした。

 幾つかメール読んだ内容から、琉旺さんが、唱子って人に説教するから、会社まで来いって書いてるのを見つけた。

 唱子って、あの人だろう?

 で、唱子って人のお付きの人っぽいんだよな。ねぇちゃん、わかる?」


 ムネユキ リュウグチ………暫く考えていたけど、頭の中に、黒く短い髪に鋭い目つきの、全身黒いスーツを来た人が思い浮かぶ。

「あ〜、唱子さんのお付きのムウさんじゃないかな?

 琉旺さんも、唱子さんも“ムウ“って言ってた」

 最初は、かなり印象悪かったけれど、途中から食べ物を用意してくれたりして、終いには、唱子さんに振り回されているんだろうなって、可哀想なイメージの人だ。


 遼ちゃんが、三嶋さんに、「ねぇちゃん、竜口のお嬢さんに拉致られたんだよ」って話をしている間に、PCに新しいメールが届いたという控えめな音が響く。

「お!!来た!電話くれだって。かけてみよう」

 遼太は、迷いなくメールに記載されている電話番号に、電話をかけ始める。

 こんな時、本当に血が繋がっている兄弟なのかと疑いたくなる。

 半分とは言え間違いなく血は繋がってるはずなのにな……。

 


 電話で話したムウさんこと、竜口りゅうぐち 宗雪むねゆきさんは、私と二、三言葉を交わして、メールがスパムやイタズラなどでは無いと確認すると、直ぐに家にやってきた。


「実は、俺もお嬢様を探しているんです。

 琉旺様がいなくなられたのが3日前とおっしゃいましたね?

 お嬢様も、3日前からお姿をお見かけしていません」


 わざわざ、ご丁寧に、手土産を持ってやってきたムウさんは、私を拉致った際のことを平身低頭して謝ると、唱子さんも同じようにいないのだと言った。

 唱子さんに拉致られた時のことは、彼が悪い訳では無いので、謝罪を受け入れた私は、ムウさんにお茶を勧めながら、疑問に思ったことを聞いてみる。


 因みに、お茶は、三嶋さんが入れてくれた。

 彼女は、まるで自分の家のように、お台所で、ムウさんが持ってきた手土産を開けて、皿に盛り、人数分のお茶を入れてくれたのだ。



「唱子さんは、3日前の何時ごろから姿が見えないんですか?」

「夕食の前でしたので、6時か7時ごろだと思います。

 お嬢様は、竜口の当主であるお父上からあまり出歩かないようにと言われていますので、基本外には出ません。

 外に出る時は、必ず私が付き添います。

 家の中にいるときは、常に付いているわけではありませんが、その日はお花の先生がいらっしゃっていましたので、6時前くらいまで俺はお嬢様の近くにいました。

 その後、お部屋に戻られて夕食の時間になったので、7時前にお部屋に呼びに行ったんです。

 ところが、部屋の中にいなくて……」

 ムウさんは、湯呑みから少しお茶を飲んで、フゥッとため息をつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る