第50話 おにぎり握ろか?

 彼に貰ったお菓子を、バリバリ包装を開けて、むしゃむしゃ食べていた三嶋さんが、お茶でお菓子を喉に流し込む。

「そのお嬢さんは、ほんまに家から出てないの?

 いくらお嬢様や言うたかて、大人やろ?

 出て行こうと思うたら、なんぼでも出て行けるんちゃいますの?」

「屋敷の外に通ずる門は、どこも施錠されていて、簡単には開きません。

 外からも中からも、無理矢理通ろうとしたり、こじ開けようものなら、警報が鳴る仕組みになっています。

 勿論、家の中は隈なく探しましたし、屋敷の中につけている数十の監視カメラの映像も隈なく確認しました」

 

 数十って、一体幾つなんだろう?

 なんでそんなに監視カメラを付ける必要があるんだろう?

「ほれで?唱子さんのお父ふぁんには、居ないってふぉと報告ひたの?」

 これまた、ムウさんの持ってきたお菓子を頬張りながら、遼ちゃんが質問する。

 口の中に、お菓子が入ったまま話すので、聞き取りづらい。

 お行儀の悪いことだ……。


「ええ。お館様には、すぐにご報告しました。

 ところが、お館様は慌てるご様子もなく。

 そうかと仰ったきりで……。

 ただ、あのお方は唱子お嬢様のことを、普段からあまりご心配されないところもあるので……」

 彼は、何かを言いにくそうに言い淀み、目線を下に下げてフゥッと鼻から息を吐き出す。


「その……実は、監視カメラに映っていたものがあるんです」

 そう切り出した割には、暫く口を開かずに目をキョロキョロさせている。

 明らかに、話すべきかどうか迷っている感じだ。

 仕方がない、切り札を切ろう。

「実は、先日、琉旺さんのおじい様が我が家にいらっしゃったんです。

 その時に、いつ帰ってくるつもりなのかと聞いてらしたので、若しかしたら琉旺さんは、おじい様の元に帰られたのかもと思っているんです。

 だから、このまま手がかりがないのなら、おじい様に連絡を取らせて頂こうかとも思っています」


「え?羅将様が???」

 ムウさんは、慌てて俯いていた顔をあげて驚いた声を出した。

 おじい様効果はあるようだ。

「あ……あの、その……、屋敷の防犯カメラに映っていたのは……、恐らく、琉旺様です」

 おじい様の名前を出せば、もしやと思ったけれど、案の定ムゥさんは、すんなり喋ってくれた。


「琉旺さん、竜口のお屋敷に行ってたんですか?」

「顔がはっきり映っていたわけではないんですが、背格好や、一緒にいたのもシュウさんだったので、まず、間違い無いかと思います」

「それで?竜口のお屋敷から、琉旺さんは出ました?」

 被せ気味に聞いた私の質問に、ムウさんは首を横に振った。

「恐らく………、出ていないでしょう。

 あれから、手分けして映像を見ましたが、琉旺様が出て行かれた様子はありませんでした」

 ムウさんは、ぎゅっと手を握りあわせると、俯いて我が家の古くなった畳の目をじっと睨んでいた。



「さぁ、じゃあ、その竜口のお屋敷に乗り込もうじゃないか!

 琉旺さんの居場所がそのお屋敷の中なら、迎えに行けばいいんだよ。

 それに、ムウさん、あんたの大事なお嬢様も若しかしたら一緒にいるかもしれないんじゃないの?」

 遼ちゃんは、ムウさんに煽り気味に言う。


 畳の目を数えていたであろうムウさんは、ハッとしたように顔を上げて遼ちゃんを仰ぎ見た。

「あんたと、そのお嬢様との関係が、どんなだか知らないけど、大事なんでしょう?

 じゃあ、自分が出来ることしないと。

 後で、後悔したってどうにもなんないぜ?」

 我が弟ながら、そのムコウミズ……いや、行動力はある意味、賞賛する。

 遼ちゃんを見つめたまま、パシパシ瞬きを繰り返しているムウさんを私は、こっそり苦笑しながら眺めた。


「さあ、ほな、準備しよか?何がいる?おにぎり握ろか?」

 あれ???三嶋さんも一緒にいく気なの?

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