第40話 男どもを威嚇する
今日は、琉旺さんが気に入っている天ぷらをしようかなぁ……。
琉旺さんは、みんなで鍋を囲んで揚げたてを食べる天ぷらを、いたく気に入ってる。
“熱い、熱い……美味しい、美味しい“
と言ってたくさん食べるので、山のように用意している具材はすぐになくなる。
だから、ちょっと奮発してエビや貝柱なんかも揚げても良いかも……。そう思っていたのに。
今日は、早く帰れるはずだった。
研究室でやっている実験も一区切りついて、やっと落ち着いたので、琉旺さんには
『明るいうちに帰れるから、お迎えはいりません』って連絡したのに……。
急にやってきた助教が、早く終わるからみんなで飲みに行こうと言い出した。
勿論、今日は先約があるので帰りますって断った。
けれど、後で教授も来るから、教授が顔を出してから帰ったらどうだと、しつこく言われて、折れてしまった。
研究室の教授は、無類の爬虫類好きだ。
なぜ、この研究室に入ったかって、そりゃあ勿論、教授が爬虫類好きだったからだ。
仕方ないなぁ……。教授が来るなら、顔出そうかなぁ。
「すみませ〜ん。生を3つ追加で」
ビールを追加するついでの様に、私の近くにやってきて隣に座る。
この人、なんて名前だったかなぁ?
幾ら、他人のことに興味のない私でも、流石に名前を呼ぶ必要性のある人なら、名前くらいは覚えるんだけど、いっつも助教って呼んで終わらせているので、研究室に入ってもう既に一年以上、最終学年になった今も、どうにも名前を覚えられない。
「雛形さん、飲んでる?何か一緒に頼もうか?カクテルとかなら飲めるんじゃない?」
兎に角、この名前の分からない助教が、何度となくやってきてはお酒を進めるのだ。
「いえ、私、教授がいらっしゃったら、挨拶して帰ろうと思ってるので、結構です」
私なりに、なるべく当たり障りのないように断ってるのに、シツコイ(怒)。
でも、よく考えたら、私が出入り口に一番近い位置に座っているのが良くないのかも。
単に、教授が来たらさっさと帰ろうと思って、ここに座ったけど、注文するときにこの場所に来るもんね。
助教は、気を遣って声をかけてくれているだけなのかも……。
私、浮いてるしなぁ……。
そう思った私は、自分の飲んでいたウーロン茶の入ったコップを持って、ズリズリ座敷の隅っこに移動した。
琉旺さんには、研究室の飲み会で遅くなることを連絡したら、迎えに行くから場所を教えてと返ってきた。
位置情報を送っておく。
最近知ったけど、このアプリ便利なんだなぁ〜。
今まで、誰かと頻繁に連絡を取り合うなんてことなかったから、アプリの存在自体は知ってたけれど、使い方なんて全く知らなかった。
あと10分ほど待っても、教授が来なければもう、帰ろうかなぁ……と思いながら、お代わりのウーロン茶をちびちび飲んでたら、何だか暑くなってきた……。
ここは、部屋の隅っこだから、空調が効きにくいのかなぁ?
そう思ってまたウーロン茶をごくごく飲む。
う〜ん……暑いぃぃ。喉が渇く〜。
***
陽菜子から、研究室の飲み会が入ったとLIMEで連絡があってから、結構な時間が経つのに、全然終わったと連絡が来ない。
そもそも、教授が来たら挨拶してさっさと帰るって言っていたのに、まだ教授が来ていないということか?
さっさと顔を出せ!そして俺の陽菜子を解放しろ!バルス!!!
見たこともないその教授に、心の中で滅びの呪文を唱えながら、アプリのトーク画面を表示させる。
とりあえず、“まだ、終わりそうにないか?“と、5分前にメッセージを入れたのに、既読がつかない。
さっきから、ずーっと携帯の画面を睨んで念を送っているのに、既読がつかない……。
陽菜子は、何度も言うが可愛い。
本人に全く自覚がないところが、また良い。
しかし、恋人としては心配でたまらん。
絶対に、陽菜子を狙っている男がいるに違いないのに、本人は、“私みたいな地味な女を好きって言う変わりものは、琉旺さんくらいですよ〜“なんて言って、危機感がゼロだ。
心配だ〜、心配だ〜。
携帯を握りしめて、腹をすかせた熊のように、陽菜子の家の居間をウロウロする。
シュウに、『束縛ばっかりする男は嫌われますよ』と言われたから、ジャカジャカLIMEを鳴らしたいところを、我慢しているのに……
〜〜〜〜もう、我慢ならん!モヤモヤを通り越して心配になって来た俺は、画面上の通話マークを押した。
もう8回以上コールを鳴らしているのに、陽菜子が電話に出ない!!
どうする?家の警護班を出動させるか?
悩んでいる時間がもったいない、何事も初動が大事だ。
シュウに、指示しようとした矢先、電話が繋がった。
「もしもし?陽菜子?」
「あー……、コンバンワァ。
雛形さんと一緒の研究室の、三嶋と言います。彼女、どぉうも酔うてしもぉて……。
多分、ウーロン茶じゃなくて、ウーロンハイ飲んでしもたんやと思いますぅ」
「分かりました。電話に出てくれてありがとう。すぐに迎えに行きます」
電話を切ると、すぐさまハンガーにかけてあったスリーピースに着替える。
シャドウストライプのブリティッシュスタイルのスーツは、知る人ぞ知るという老舗のテーラーで作らせた俺の戦闘服だ。
学生どもには醸し出せない大人の魅力を演出してくれるはずだ。
「ルゥさま?陽菜子お嬢さんを迎えに行くんでしょう?
なぜ、スーツに着替えるんですか?」
「決まっている!陽菜子の周りの男どもを、威嚇するためだ」
俺を、しょっぱい顔で見ている、シュウと遼太を無視して、玄関を飛び出した。
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