第34話 えぇぇぇぇぇ……オオトカゲちゃんは?
竜口さんに髪の毛を引っ張られて、さっきから毛がブチブチ抜ける音がする。
私も、彼女の下ろした髪を思いっきり引っ張りながら、彼女の足を払った。
バランスを崩した竜口さんは、ローテーブルの上に思いっきり倒れ込む。
髪の毛を引っ張られている私も、彼女に引っ張られて上に倒れ込んだ。
ガッシャーン!!
派手な音を立てて、ローテーブルの上に置かれてあった、ティーセットや、サンドイッチの乗ったお皿がひっくり返ったけれど、興奮している私たちは止まらない。
お互いの、髪の毛を離さずに引っ張り合いながら、床の上で揉み合う。
と、私たちの争う音とは別の音が、廊下の向こうから聞こえてくる。
数人の足音と、大きな声。何人かが、誰かを止めようとしている声が聞こえる。
ムウさんは、既にそちらに気を取られているのか、ドアの方から目が離れない。
どんどん、足音が大きくなって、部屋の前で止まる。
「お留まりくださいませ」
「うるさい。そこを退けと言っているだろう!私に指図するか!!!」
扉のすぐ向こうで、怒号が聞こえる。
琉旺さん?
聞き慣れた声のような気がして、私は、顔をそちらに向ける。
ドカーン!!
派手な音とともに、扉が蹴破られて、金色の目をギラつかせた琉旺さんが立っている。
「陽菜子……」
琉旺さんは、大股で私たちのところまで来ると、私の上に馬乗りになっていた竜口さんを、引っ掴んで引き離すと、ポイと投げた。
ムウさんが、彼女をキャッチしようとしているのが途中までは視界に写っていた。
でも、今私は、琉旺さんの胸の中にいて、琉旺さんの着ている、質の良い滑らかで肌触りの良いシャツの感触と、温かい体温と、ちょっと汗の混じった彼の匂いしか感じられない。
琉旺さんがギュウギュウ抱きしめるから、苦しいのに、なのに文句を言う気が起こらないのはどうしてなんだろう?
ホッとして、自分から彼に抱きついて、涙を止める事が出来ないのは、一体どうしたことだろう?
琉旺さんは、私を抱き上げる。
「シュウ、帰るぞ」
え?シュウちゃん?どこ、どこ??
オオトカゲを探したけれど、そこにはオオトカゲの姿はなかった。
代わりに返事をしたのは、背の高いがっしりした体つきの男の人だ。
琉旺さんよりも年上だろう。黒く短い髪に、茶色の瞳は鋭く周りを見渡している。
「はい。遼太さんには、連絡済みです」
スマホをスーツの内ポケットに入れながら答える。
「シュウ……ちゃん?」
「はい、お嬢さん。来るのが遅くなり、申し訳ありません」
その人は、丁寧に腰を折って、私に頭を下げた。
「えぇぇぇぇぇ……オオトカゲちゃんは?」
残念そうな顔をした私に、彼は苦笑いする。
「お嬢さんの、手当のおかげで傷も治りました。もう元の姿に戻っています」
彼は、小さくスミマセンと謝った。
いや、謝ることではない。
傷も治ったのなら喜ばしいことなんだ……が、やっぱり残念感は否めない。
彼は、十分イケメンだけど、私はイケメンにあまり喜びを見出せないのだ。
「ムウ、お前唱子についているだけで、我が儘を聞いているのが仕事だと思っているのなら、やめてしまえ」
「……琉旺さま、申し訳もありません」
ムウさんが頭を下げたのを見た琉旺さんは、私を抱っこしたままお屋敷を出て、車に乗り込んだ。
「琉旺さん、わざわざ来て下さってありがとうございます。
もう大丈夫なので、下ろしてくれませんか……ね?」
「……………」
琉旺さんは、車に乗り込んでも、私を横抱きに抱っこしたまま腕を回して離してくれない。
最初、琉旺さんが抱きしめてくれた時は、心底安心したし、そのまま抱き上げて車まで運んでくれたことも、まだ琉旺さんの体温から離れがたかった私にとって、ありがたかった。
でも、車に乗り込んで、車が走り始めてもずっとこの体制なのだ。
しかも、いくら運転しているのがシュウちゃんとは言え、人間の姿のシュウちゃんを見慣れていない私は、恥ずかしくてたまらない。
「琉旺さ……」
「嫌だ………!離したくない」
私に回した手に力を込めてギュッと抱きしめ直すと、肩口に顔を埋めて耳元でボソボソ喋る。
「陽菜子が、攫われたって、遼太から電話があって、俺……心臓が止まるかと思った。
……結局、唱子がやったことで、俺が原因みたいなもんだけど……。
陽菜子には、すまないと思ってるけど……。
でも、陽菜子の心臓の音をまだ感じていたい……」
ボソボソ喋る声は、聞き取りづらい。
けど、私のことを心配してくれたんだって事が伝わってきて、私も体から力が抜ける。
琉旺さんが、このままでいたいって言うなら、それでも良いか……。
琉旺さんの首に手を回して、体を預けた。
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