第30話 4週間と3日

 琉旺さんから連絡が来なくなって1ヶ月が過ぎた。

 

 最初の1週間、私は、携帯をいつも握りしめて、彼から連絡が来たら、なんて返したらいいんだろう?ってことばかり考えていた。

 あのラブホテルのキッチンで、目を回して倒れる前に、“好きだ“って言われて、脳ミソがオーバーヒートを起こしかけていた私は、まともに言葉が入ってこなかった。


 けれど、その返事はするべき?

 それとも、ここはスルーしちゃっていいの?

 そう言う態度って、不誠実って言わないのかな?

 そんなことを、頭の中でグルグル、グルグル考えた。



 次の1週間は、実経験値がゼロの私が、やはり頼るべきは、知識だと思い付いた。

 そこで、“好き 返事“と入れてググってみたり、恋愛小説を引っ張り出してきて、何か有効になりそうな参考事例はないかと読み漁ってみたりした。

 電子書籍で、ハーレクイン小説を1000冊ほど読んでみたけれど、どれも王族だとか、御曹司だとか、大企業の社長だとかとの、えらく華やかな恋愛模様が書かれてあるだけで(いや、琉旺さんも竜家のお坊ちゃんだけど……)、今一つピンとこない。

 次に、TUCYAYAに行って、韓流からハリウッドまで恋愛ものをいっぱい借りてきた。


 遼ちゃんに、

「ねぇちゃん、どうしてそんな甘ったるいのばっかり見てんの?」

と言われた。


 でも、ネット上にも、本の中にも、映画の中にも、私が納得できるような答えはなかった。



 そうして過ごした次の1週間は、どうして2週間以上も経つのに、何の連絡もないんだろうかと、思い悩んだ。

 私に連絡して来ないのは、あの好きだって言う言葉と、ちゅ……ちゅ………チューしたことを、なかったことにしたいからではないんだろうか?

 だから、去り際に、“ごめんな“って言って帰ったんだ……。

 そう、思い付いて、そのことに少なからずショックを受けている自分自身に、もっとショックを受けた。


 私が大切なのは、自分自身と、弟の遼ちゃん、そして私の生涯の推し、トカゲちゃんだけだ。

 なのに、いくら今まで声をかけてきた人とは、ちょっと違うなって思っていたからって、琉旺さんが私のことを無かった事にしたいのに、ショックを受けるなんて……。

 そうだ、今まで同様、ナミブ砂漠にでも埋めてやればいいのだ!



 そう決意した琉旺さんから連絡がなくなって4週間後の1週間。

 私は、携帯を、携帯するのをやめた。

 あんなものを持ち歩くから色々と気になるのだ。

 そもそも、私は、大学か、家か、昭雄叔父さんのヒナ動物病院の3箇所のどこかにいる。

 どうしても用事があるのなら、この3箇所を順番に探せばいいだけの話だ。

 そして、私を探してくれる人など、この世の中に遼ちゃんくらいしかいないんだと、再認識した。



 そうして迎えた4週間と3日目の家路に着こうとしていた薄暗くなってきた時間に、彼女はやってきた。

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