第7章 トカゲ姫 おうちに帰る そしてモンモンとする

第29話 ロンちゃんのランプ

 琉旺さんが、ちゅ……チューして(あぁぁぁぁぁ……ハズカシ……)、私が目を回してソファに転がっていた隙に、竜家の警護班から連絡があったようだ。

 襲撃してきた奴らの大半は捕らえたし、今回の襲撃は特に問題なしとの連絡が入ったそうだ。

 これ以上は仕掛けてこないだろうと言うことで、私たちは、ラブホテルから出て車で我が家に向かっている。



「特に問題なしって何なんですか?

 私、詳しくないから良く分かりませんでしたけど、乾いたような破裂音や、ドーンって音が外でしてましたよね?

 あ……あれって、銃声や爆発音ってやつじゃないんですか?」

 あの時のことを思い出して、また心臓がキュウっとなって緊張したが、何でもないことのように言う琉旺さんに、違和感を覚えて、聞いてみた。


「う〜ん、そうだな。陽菜子のいう通りだ。ただ、年に何度かはあるんだよ。

 何ていうのかな……、挨拶的な」

「あ、、、、挨拶!?」

 琉旺さんの言った言葉が、余りにも似つかわしくなくて、出た言葉は上擦っていた。

 鼻の穴も開いてたかも……。


「え〜っと、俺に、脅しをかけてるんだよ。

 本気で、俺のことを狙って、どうこうしようって気はないけど、お前の行動は監視しているし、いつでも襲えるんだぞって言うのを知らしめたいみたいな」


 いかん……さっぱり、意味が分からん。

 ここは日本だ。

 完全なる法治国家で、銃だって爆発物だって、勿論ナイフでさえも持ってれば、捕まっちゃう国だ。

 なのに、相手を脅すためだけに、襲撃するだなんて……。

「理解できないよな?俺だって、アイツらの頭がおかしい事くらいは分かってるよ。

 ただ、こちらが公に出来ない秘密を抱えているのが分かっているから、ある程度派手なことをしても、俺たちが訴え出ることはないって知っててやってるんだよ。

 ああやって、定期的に脅してきて、いつかどっかで、俺たちの気が緩むのを待ってる。

 その時には、俺は、捕まってアイツらの実験道具にされる。

 だから、こっちも気が抜けないのさ」


 琉旺さんの表情が曇った。

 そりゃそうだよな。

 年に何度も、ああやって狙われて、神経がすり減らない人の方が信じられない。


 最初は、今ほど派手ではなかったらしい。

 こちらが、対応するために環境を整えれば、整えるほど、派手さが増してきて、今では小型の爆弾まで用いるようになって来たと言う。

「いつかは、決着をつけないといけないんだが、正直なところ面倒なんだよ。

 向こうはバックにアメリカの富豪がいるし、それが、どの程度リチャード達の行動を把握しているのかもはっきりしていない。

 こっちも本体の方とは出来るだけやり合いたくないから、迂闊に動けないんだよな……」

 ほんの少し眉間に皺を寄せて、片方の唇を歪めた琉旺さんは、面倒臭そうに話す。


 あのお屋敷だって、郊外の山の中に建てているのも、リチャード達研究組織の襲撃に備えてだし、周りの土地は、殆ど竜家で買っているそうだ。

 そりゃぁ、地下に道路も作れるわけだ。

 因みに、今回使用したラブホテルの部屋は、竜家が買い取って、改装しているそうで、広さも内装も他の部屋とは全く違うとシュウちゃんが教えてくれた。

 いや、幾ら経験がなくても、それくらいは何となく分かってたけどね。



 琉旺さんの顔を見て、名前をつけられない感情が溢れてきて、私は琉旺さんのハンドルを握ってない方の手をぎゅっと握った。

 琉旺さんは、ふっと空気を吐き出すように笑うと、その手を握り返してくる。

「ごめんな、陽菜子。怖い思いさせて……」

 良いとも、悪いとも返すことができずに、ただふるふると頭を横に振った。



 家の前に着くと、中から遼ちゃんが出てきた。

 遅かったから心配していたんだろう。

「ねぇちゃん、お帰り。もしかしたら、泊まって来んのかと思ってたわ」

「うん、ごめんね……。

 ちょっとロンちゃんのランプとか見てたら夢中になっちゃって……」

 そう言った私の言葉に、遼ちゃんは仕方なさそうに笑った。

「ねぇちゃん、夢中になっちゃうと時間忘れるもんなぁ。

 あ、琉旺さん、上がってくの?」

 すっかり琉旺さんと仲良くなった遼ちゃんは、気軽に彼に声をかける。

「いや、ちょっと仕事が溜まってて……。それが捌けないと時間が出来そうにないんだ。

 また、都合がついたら、遊びに来る。

 遼太、ロンのことよろしく」

 “おう!“と返した遼太に、手を振ると、ロンちゃんのランプ類を遼太に渡して、すぐに車に乗り込んだ。

「陽菜子、ごめんな……」

 すれ違う時に、琉旺さんは、また小さく私に謝った。

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